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【内臓擬人化ドタバタ短編小説】声なき声を聴く少女 ~私のなかの小さな宇宙」 ~  作者: 霧崎薫
内なる声 - 赤い月のささやき

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第五章:知識の海

 月曜日の朝、風音は目覚ましのアラームで起きた。生理四日目になり、出血量は大分減り、痛みもほとんど感じなくなっていた。


「おはよう、風音。」子宮が挨拶した。「状態は安定してきているわ。内膜の剥離もほぼ完了に近づいているの。」


「おはよう。」風音は伸びをしながら答えた。「だいぶ楽になったよ。」


 ベッドから起き上がり、制服に着替えながら、風音は今日の予定を確認した。五時間目に保健の授業がある。テーマは「思春期の体の変化と健康」。


「ちょうどいいタイミングだね。」風音は鏡の前で制服を整えながら呟いた。


 朝食を済ませ、風音は学校へと向かった。教室に入ると、結衣が手を振って迎えてくれた。


「おはよう、風音。調子はどう?」


「うん、だいぶ良くなったよ。」風音は笑顔で答えた。「四日目だからね。」


 結衣は頷いた。「そろそろ終わりかな。私は五日で終わるんだけど、風音は?」


「私も大体五日かな。明日には普通に戻ると思う。」


 授業が始まり、風音は教科書やノートを出した。一時間目は国語。古典の授業で、源氏物語の一節を読んでいた。


「君たち、この場面について気づくことはある?」国語教師の佐藤先生が質問した。


 風音は手を挙げた。「平安時代の女性たちの隔離について書かれていると思います。月の物を忌むという風習がありました。」


「その通り、十和田さん。」佐藤先生は感心した様子で言った。「平安時代には、女性は生理中に『穢れている』とされ、特定の場所で過ごさなければならなかったのです。これは当時の宗教的な考え方に基づいていました。」


 クラスメイトたちが小さな声で話し合いを始めた。


「今と全然違うね。」「でも、今でも『穢れ』って考える文化もあるらしいよ。」


 風音は歴史の中での女性の体験について考えていた。時代によって、生理に対する見方や対応が大きく異なることに興味を覚えた。


「文化的な視点も重要ね。」脳が言った。「生理に対する社会的な認識は、時代や地域によって大きく変わるもの。でも、生物学的なプロセスそのものは変わらないのよ。」


 昼休み、風音は図書室に行った。前回見つけた健康ガイドをもう少し読みたいと思ったからだ。本を手に取り、静かな席に座る。


 ページをめくると、「世界各地の生理に関する文化的習慣」という章があった。様々な国や民族の生理に対する捉え方や儀式、タブーなどが解説されている。


「へえ、こんなにも違うんだ……」風音は興味深く読み進めた。


 彼女が読書に没頭していると、保健の先生である白石先生が近づいてきた。


「十和田さん、熱心に読んでるわね。」


 風音は顔を上げた。「あ、白石先生。はい、女性の健康について勉強してます。」


 白石先生は優しく微笑んだ。「素晴らしいわ。自分の体について知ることは大切なことよ。今日の保健の授業でも関連するテーマを扱うつもりだったの。よかったら手伝ってくれない?」


「手伝う? どういうことですか?」


「今日は女子と男子を分けて授業をするの。私は女子グループを担当するけど、生徒からの質問に答える時間も設けたいと思っていて。十和田さんが少し自分の経験を話してくれると、同級生の参考になると思うの。」


 風音は少し驚いたが、すぐに頷いた。「はい、できる範囲でお手伝いします。」


「ありがとう。」白石先生は嬉しそうに言った。「五時間目の保健室で待ってるわね。」


 昼休みの残りの時間、風音は本を読み進めた。様々な国の生理用品の発達の歴史や、最新の研究による健康管理のアドバイスなど、興味深い情報がたくさんあった。


「教育は力よ。」脳が感心して言った。「正確な情報を得ることで、不安や恐れが減り、より健全な選択ができるようになるの。」


 午後の授業を終え、風音は保健室へ向かった。入ると、クラスの女子たちが既に集まっていた。白石先生が笑顔で風音を迎えた。


「来てくれてありがとう。さあ、始めましょうか。」


 白石先生は思春期の体の変化について、スライドを使って説明し始めた。生理のメカニズム、排卵、ホルモンバランスなど、科学的な解説がわかりやすく行われた。


 説明が一段落すると、先生は風音に目配せした。「十和田さんは最近、女性の健康について自主的に勉強していると聞きました。何か共有したいことはありますか?」


 風音は少し緊張しながらも、立ち上がった。


「えっと、私が最近知ったことだけど……」風音は落ち着いて話し始めた。「生理って人によって本当に違うんだよね。期間も量も、症状も。だから、自分のパターンを知ることが大切だと思う。あとは、生理痛の対処法も色々あって、温めるとか、適度な運動をするとか、食事に気をつけるとか……」


 クラスメイトたちは興味深そうに聞いていた。風音が話し終えると、質問の時間になった。


「痛みが我慢できないくらいひどい時は、どうしたらいい?」ある女子が質問した。


「それは医師に相談するべきケースね。」白石先生が答えた。「ひどい生理痛は、時に疾患が隠れていることもあります。我慢せずに婦人科を受診することが大切です。」


「生理周期が不規則なんですけど、これって問題ですか?」別の女子が手を挙げた。


 白石先生は丁寧に答えた。「思春期はホルモンバランスが安定していないことも多いので、ある程度の不規則さは自然なことです。ただ、極端に長かったり短かったりする場合は、やはり専門家に相談するといいでしょう。」


 風音も自分の経験を交えながら、いくつかの質問に答えた。自分のアプリで生理を記録していることや、症状に合わせた対処法などを話した。


 授業の終盤、白石先生は重要なメッセージを伝えた。


「皆さん、自分の体の変化に敏感になることは大切です。でも、それを恥じる必要はありません。生理は健康な女性の体の自然な機能です。また、つらい症状があれば我慢せず、適切な対処を学びましょう。そして何より、お互いに支え合いましょう。」


 授業が終わった後、何人かのクラスメイトが風音に近づいてきた。


「風音ちゃん、すごく詳しいね。」


「私も生理痛がひどいんだけど、何かアドバイスある?」


 風音は笑顔で応じた。彼女にとって、知識を共有することは新たな喜びとなっていた。


「私がいいアドバイスかどうかわからないけど、自分に合った方法を見つけることが大切だと思う。温めたり、軽い運動をしたり、あとは食事も関係するみたい。カフェインや塩分の多いものを避けるとか。」


 女子たちが談笑している様子を見て、白石先生が近づいてきた。


「十和田さん、ありがとう。あなたの話は同級生にとって、とても参考になったと思うわ。」


「いえ、私こそ勉強になりました。」風音は正直に答えた。


 放課後、風音は結衣と一緒に下校した。


「すごかったね、風音。みんなの前であんなに堂々と話せるなんて。」


「そうかな?」風音は少し照れた。「でも、知れば知るほど、隠すことじゃないって思うようになったんだ。むしろ共有した方がいいことが多いって。」


「確かに。」結衣は頷いた。「私も生理のこと、もっと知りたいな。あのアプリ、教えてくれる?」


 風音はスマートフォンを取り出し、結衣にアプリを紹介した。二人は下校しながら、生理の話から学校の噂話まで、様々な話題で盛り上がった。


 家に帰ると、風音は今日の経験を日記に記した。自分の体について学び、その知識を他者と共有することの喜び。そして、オープンな対話が新たな繋がりを生み出す瞬間を目撃したこと。


「知識は力だね。」風音は日記を閉じながら呟いた。


「その通りよ。」脳が同意した。「正確な情報は恐れを減らし、適切な対処を可能にする。そして何より、女性同士の連帯を強めるのね。」


 風音はベッドに横になり、今日一日を振り返った。自分の体との対話、クラスメイトとの会話、先生からの信頼。すべてが彼女の世界を広げ、自信を育んでいた。


 明日は生理五日目。もうすぐ終わりを迎える。しかし、この月経期間中の学びは、確実に彼女の一部となっていた。


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