92. 新需
年始の休暇シーズンを終えると
例年お客様の入りが一旦落ち着く
と聞いていた。
しかし、リーブラックポート海軍の皆様からの客足が一向に途絶えない。
サムエルの調査の結果
王立海軍、イーシュトライン侯爵私設海軍
両方のお客様がいるらしい。
そして、ありがたいことにサムエルは
その両方に顔が効くらしく
宣伝活動を大いに行ってくれたのだ。
またサムエル曰く、軍人となると
遠方に旅行に行くことは基本的にはできないらしく
程よい距離、そして小旅行感を味わえると言うことで
リトルウィングが好まれているとのことであった。
この雪が降り茂る時期に
露天の温泉を楽しめると言うのも
癒しを求める軍人の皆様にとって
非常に好感が高いらしかった。
例の大喧嘩事件をかましてくれた
ローレン・フォーレ御一行様は
あの翌朝、平謝りで宿を後にした。
あんなに謝るくらいなら
最初からあんな喧嘩をするもんじゃ無いでしょ・・・
とユーリは呆れるやら、不思議に思うやら
複雑な気持ちになっていた。
本人たちに特段請求はしないとしても
この件は、サムエルが
イーシュトライン侯爵の側近に報告をしていた。
それからと言うもの
・・・とはいえあの一件しかなかったのだが
客室で馬鹿騒ぎをする軍人を見ることは
無くなった。
そして本日は
小羽屋にそこそこの大きさの箱が届いた。
何か魔法で封がしてあった
送り元は、あのシュンテンであったので
例の手紙の返事なのであろう・・・
しかし、このサイズは・・・
ユーリが解除魔法で箱を開けると
中には、ユーリが所望した内出の小槌
それが、5つも入っていたのである。
ユーリが一瞬呆然とそれを眺めていると
手紙も一緒に入っていたので
読んでみる。
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小羽屋 支配人 ユーリエ・ローワン殿
謹啓 寒冷の候、貴殿におかれましては一層ご清栄のこととお喜び申し上げます。
また、日頃より賜っております深いご信義に、心より感謝申し上げます。
さて、先般のご書状、確かに拝読いたしました。
貴殿の謙譲と高潔なるご姿勢に、深く敬服いたしました。
金銭の件は承知いたしました。つきましては代わりと言っては何ですが、
貴殿ご所望の「打ち出の小槌」レプリカ品を5個、
本状に併せて進呈申し上げます。
どうか、お受け取りくださいますよう。
ところで、ひとつご相談がございます。
来たるx月xx日、私の従姉妹である夫婦二名と
幼少の子供1名と一緒にそちら方面を訪れる予定でございます。
つきましては、その晩、貴所にて宿泊させていただくことは可能でしょうか。
ご多用のところ誠に恐れ入りますが、空室の有無につきお知らせいただけますと幸いです。
また、もし可能であった場合、更なる我儘を聞いていただけますでしょうか。
小羽屋さんの素晴らしい露天風呂と朝食を
私の親戚にも味わっていただきたいのですが
何分共有施設を利用するとなると
どうしても人間の姿になることが迫られます。
二人の子は幼く
どうしても変身が苦手で皆様を驚かせてしまうのではないかと
不安に思っております。
つきましては、露天風呂はこの家族のために貸し切りのお時間を
夜遅くでも結構ですので設けていただけませんでしょうか。
また、朝食をお部屋で食べることはできますか?
何卒ご検討いただけますと幸いです。
末筆ながら、貴殿のご健勝と益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
敬具
フィメル島・シュンテン
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5個・・・
ユーリはその内出の小槌を数える。
ユーリはせいぜい1つとしか頭になかったのだが
5個・・・
お客様の斡旋まで。
相変わらずの彼女の懐の深さを思い知った。
しかし二週間後、えらく急な話であった。
そして、懸念も理解ができる。
あの、シュンテンや、ザラストル御一行様も
初めは人間の姿を崩さなかった。
停戦合意の件があるとはいえ
まだまだ、人間からの理解は少ないはずだ。
しかも、最近はバリバリの軍人が多い小羽屋である。
確かに心から楽しめないよなあ・・・
子が小さいなら尚更・・・
と、ユーリは少々頭を捻った。
シュンテンの提案の通りでも良いのかもしれないが。
ユーリは内出の小槌を眺めながら
少々思いついたことがあった。




