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90. 特需2

世の中は年明けと停戦に沸いている。



報道を見るに先の停戦合意の内容は

停戦、と言うより、終戦に近いと

ユーリも考えていた。


しかしながら

いつかザラストル()が言っていたように

ユーリの生まれ故郷である

北方諸島諸島で一番大きな島"ミノルテ島"は

闇の軍勢側のオーガの(なにがし)とか言う奴が

統治するらしい・・・


ユーリはと言えば

魔力掛け流し装置の範囲を超えることができないので

小羽屋からは出ることができなかった。


・・・この年末年始の忙しさを考えれば

今はそれがなくても

外出など出来なかったかもしれないのだが。


この年末はお祭りムードが濃いためか

小羽屋もかなりの人手があった。


帰省にのためにいらっしゃる

地元民、その他近くの多種族自治区の家族

年末の休暇を利用した旅行客・・・


今も、ユーリは人間のご夫婦と、小さい子供

4名家族のチェックインをしている。


小羽屋にくるお客様には

チェックインシートと言うものに

お客様情報を記入して頂く。


目的としては、マーケティング、顧客管理

・・・そして物を壊された時の請求先の把握

である。


リアム・マイヤー(38)

この方がご一家のご主人らしい。


ユーリはチラッとお顔を拝見する。


非常に厳しいお顔。

ゴリゴリの筋肉質な体。

一瞬オーガ?と思ってしまったが

・・・ご家族は全員普通の人間だし

まあ人間だと思われる。


チェックインの作業を全て済ませると

リアム・マイヤー様は口数少なめに

家族を誘い

キビキビとお部屋に向かわれた。


それはどこか、只者では無い動きであった。


ユーリは今し方

彼が書いたチェックインシートを見る。

住所は、隣の大きな港町リーブラックポートだ。


ユーリはふと思い当たり

ここ最近のチェックインシートを見てみた。


アポリーヌ・マルタン様(41)女性だ。

先日から、連泊されている。

カップルであるらしい

住所はリーブラックポート


ルビー・レイン様(61)

こちらも連泊の方、ご夫婦。ご家族。

住所は、やはりリーブラックポート


今、事前にご予約を受けているお客様の情報を見てみた。


事前の手紙

イーシュトライン観光組合(ギルド)

リトルウイング村役場

サムエル

・・・最も、今はサムエルもほとんど組合(ギルド)に任せているようだが


今は飛び込みのお客様より

こういった皆様のご紹介からなる

事前のご予約が増えているのだ。


以前とは比べ物にならないくらいに

効率化が図れている。


それは素晴らしいことなのだが・・・


ユーリはしばし思慮し

試しにこのシートにある項目を足してみることにした。


・・・

同日、1時間後、小羽屋の玄関扉が開くベルの音がした。


チェックインだ。

今度は若い飛び込みの人間の男性4名

やはりこの皆様も非常に筋肉質であった。


そしてこの皆様は、それぞれが大きな袋を持っていて

おそらく酒とつまみが入っているものと思われる。

・・・うちは持ち込み禁止とかでは無いので

何も言えまいが

何かザワザワと嫌な予感がする。


ユーリは気を取り直し

笑顔でチェックインシートを渡す。


そのお客様はどこかぎこちなく、無骨な手つきで

書き付けている。


名前を書き終えた。


ローレン・フォーレ(18)

・・・若いな。

そして字が、失礼だが汚い。


ユーリと同い年なのだが。

こんなに若い人が研究目的以外(そうに見える)

で来るのは珍しい。


住所も書き終えた。

・・・やはり、また、リーブラックポートだ。


そしてローレン・フォーレ様は

ユーリが先ほど新しく追加した項目に差し掛かると

少々手を止めたが、書いた。


ご職業:海軍


・・・やはり。

ユーリはこの結果をある程度予想していた。


「その後そのローレン様に尋ねてみたのです。

最近は海軍の方が多いのですが何かあるんですか?と。

そうしたら、停戦で帰ってきた方、恩赦の休みが与えられた方

そう言った方が小旅行をしているとのことでした!」


ユーリはサムエルにドヤ顔で報告した。


今日はサムエルがたまたまなのか・・・

港町風の魚介のパスタを作ってくれていた。

そして良い赤ワインも。


時間は夜の10時、相変わらずの真夜中クッキングである。

サムエルは今のユーリの話を聞いても

無言でモグモグパスタを食べていた。


最近のちょっとした疑問が解消されたユーリは

ものすごくやり遂げた思いでいるのにも関わらず

無視されたことが気に入らない。


リーブラックポートはイーシュトライン侯爵領一の港町で

イーシュトライン侯爵の私設海軍の本拠地であった。

王立海軍の駐屯地でもある。

この停戦の影響で、軍人の皆様がお客様になってくださると言うのなら

ユーリとしては願ったり叶ったりもいいところであった。


サムエルがようやく口を開いた。

ジトッとユーリを見る。


「王立海軍の人ならいいけどさ

・・・悪いけど侯爵海軍って

凄い人手不足だから

ガラめちゃくちゃに悪いからね?」


そしてサムエルが徐に手を出してきた。


「顧客名簿見せて」


ユーリは先ほどのチェックインシートを持ってきた。


「このローレン・フォーレとか言う奴の住所、これは侯爵領海軍宿舎。

リアム・マイヤー・・・様、この住所はリーブラックポートの一等地だね。

所属は分からないけど、海軍だとしたら年齢的にも、高官だ。

ルビー・レイン様・・・これまた一等地。

アポリーヌ・マルタン様・・・ここも良い住所だね

リーブラックポート、ルロワストリート1番地1だってさ・・・

しかも書き方から一軒家じゃないか。」


住所でお客様を判断するのもいかがなものかと

ユーリは少々抗議したい気持ちになったが


「・・・サムエルは

リーブラックポートのどこが一等地かとか

そう言うのも分かるんですか。」


ユーリはそっちに感動してしまった。


「ここって、結構古い街だし、

あまり昔とも変わってないし。

僕も結構前から知ってるんだ。」


サムエルはこともな気に言う。

サムエルの言う結構前とはいつのことなのだろう。


「マルタン、マルタン・・・何か聞き覚えがある。

確か、何代か前の侯爵海軍の元帥がそんな名前だった。

その子孫が今大佐やってるはずだ?

演舞会に来てくれたことがある。

この人は親族かな?

なんでそんな方が来てるんだ?」


ユーリも目を見開いた。

このアポリーヌ・マルタン様(41)

昨日のお顔を思い出す。

改めて考えると

そんなご年齢だったんだ・・・

20代に見えた。背の高い、華やかな美人であった。

お連れ様は、そう言えばカップルとか言っていたが・・・

相手の男性は確か・・・


ルロイ・ルコント(18)


サムエルもお連れ様のお名前と年齢が見えたのだろう。

そっと、その話は無かったことにして顔を上げた。


「うん、思ったより、良いじゃないか!

確かにこれから軍人に向けて売るのは良いな。

リーブラックポートの存在をなんで忘れてたかなー」


先ほどと言ってることが少々違う気がするが

前向きになってくれて何よりであった。


名簿を一旦置いたサムエルは

ワインをグッと仰いだ。

そしてまたジトッとした目に戻った。


「今日空室ある?」


「はい、1室だけ空いてます。何か?」


「泊まるから。あのローレン・フォーレ一行が凄く気になる。」


先ほど住所で判断するなと思ったが

それ以外の理由で、ユーリはそれに賛成であった。

あの持ち込まれた酒瓶の数・・・


案の定、ユーリはその後夜2時に

ハチに起こされることになるのである。

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