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82. 夢と目覚め

ユーリは夢を見ていた。

港であった。人でごった返している。


翌日までにはその島から脱出せねばと

人々が我先にと必死に船に乗り込んでいる。


ユーリも母親に手を引かれ

船に乗り込もうとするが

あまりの人の多さに流され揉まれ

その手が離れてしまった。


結局のところユーリはその船に乗れなかった。

両親だけを乗せて船が出航してしまった。


“お母さん!お父さん!どこ!?”


呼んでも当然に返事など無い。

周りの大人達も早く次の船を出せ!

俺たちを見捨てる気か!

などと怒り狂って怒鳴っている。


そんな状況でユーリに手を差し伸べてくれる者は

誰一人としていなかった。


ユーリは父と母を呼びながら絶望と不安で

泣きじゃくる。


空がピカっと光った。

その何秒後かに鈍い雷鳴が聞こえた。


それを皮切りに狂ったように雷が鳴り始める。

遠くの街から煙が上がるのも見えた。


いつあの雷がこちらに来るのかと

大衆の恐怖がピークに達する。

海に飛び込み、泳いで島を脱出しようとする者さえいた。


ユーリは異常に混乱する大衆の中に置かれ


遠くに見えるあの雷が


自身の頭にのみ落ちたかの様に


突然何かを悟った。


いざという時は誰も助けてなどくれない事


逆に自分も皆を助けられない事。


であれば何も期待せず


怖い、悲しい、不安、辛いと言った感情には蓋をして


ただ状況に流されていくしか無いのだと



それに気がついてからは

何も辛くは無くなって

自然と涙が止まった。


遠くに聞こえる雷の音

慌ただしく動く大衆

人混みと潮風が混じり合った匂い

じっとりとした空気が喉を刺激し

異様な雰囲気を感じる・・・


世界がただの物質の集合体に見えた。


それらを傍観していると

だんだんと思考がクリアになって来るのがわかる。


自分の事は、自分で助ける。

それしか無いのだと

もう一つ悟った。


ユーリは、波止場の隅に

小さな手漕ぎの船があるのを見つけた。

これを漕いで行けるところまで行ってみよう。


そう思った瞬間

ふと、足元にふわっとした何かが当たった。


下を見ると白と黒のフワフワとした獣が

自身の足をスリスリとしているのが見えた。

猫である。


猫がこんな喧騒の中にいるなんて・・・

頭を撫でると

ニャー、と鳴いた。

ユーリはそれに違和感を覚える。

自分の知っている猫はもっと渋い声で・・・


いや、猫はニャーと鳴くのが正しい。

何を考えているのか。


ユーリは一緒に連れて行ってやろうと考えた。


また大衆とは別の動きをする何かの影が見える。

今度は人影だ。

それがユーリに近づいてきた。


他の人間と比べると数倍は早く動いている。

ついにはユーリの目の前に立った。


でも顔がよく見えない。

そうか、視力がやられてるって。

・・・誰が言っていたのだっけ。


「一人で行くの?」


人影が声をかけてきた。

ユーリが訳もわからずその人影を見上げると

またその人影は言う。


「あの人たちは見捨てるの?」


その人影は大衆を指差す。

ユーリもそれを見てから答える。


「私には関係の無い人たちです。

私のことも助けてくれませんでした。」


その人影はそれを聞くと

フーッとため息をついた。


「視野が狭いなあ。そんなんじゃ

助けてもらえなくて当たり前だ。」


その人影は何やら準備を始めている。


「最近の君は性分に逆らって

人に期待して、執着してみて。

無理をして、汗水垂らして。

それが功を奏したじゃないか。」


・・・いったい何のことだっけ?


その人影が突然パチンと指を鳴らす。


途端にユーリが見つけた手漕ぎの小さな船は

1000人は収容できそうな大きな客船に変わった。


そしてその船を大衆が見つけるや否や、わーっと

その船に乗り込んで行く。


その場にいる全員が無事この船に乗れた様だ。


全ての人が乗り終えるのを見送ると

ユーリはある疑問が生まれてきた。


「あの、運転は誰が?」


「何言ってるんだ、もちろん君がやるんだよ。」


目の前の人影は当たり前だと言うように言う。


「じゃあ、行こうか。」


その人影はユーリを置いていくように

ズンズン進んでいく。

猫も尻尾をピンと立てて

それに続いていった。


ユーリも慌ててそれを追いかけた。


「私、船の運転なんてしたことありません。」


ユーリは必死にそれを追いかけながら言う。


「大丈夫だよ。僕がついてるじゃないか。

それに君には魔法がある。

いつもそうやって

何とかここまでやってきたじゃないか。」


人影は足を止めずにまた言う。


・・・そうだったのだろうか。

言われてみればそうだった気もするし

そうではなかった気もする。


ユーリはまた人影に聞いてみた。


「これは、あなたに何の得があるんですか?」


「君を助けるのに理由が必要?」

何てこと無いように答える。


その発想はなかった。

それにしても・・・


「私一人を助けるなら

こんなに大きな船は必要ありません。

もっと小さい船でも良いと思うんですが・・・」


「わかってないね、ユーリ。」


二人は客船の広間にたどり着く

そこには今し方避難してきた人たちが集まっている

皆口々に、涙を流しながら人影にお礼を言いに来た。


「ありがとう」

「ありがとう」

「ありがとう」


人影は言う。


「この中の何人かが、近い将来恩を返ししてくれる。

きっと君のことも助けてくれるよ。

人の縁ってのはそう言う物なんだよ。」


人の縁て・・・


よく分からない、分からないが

取り敢えず言いたい。

ユーリは横にいる人物の方を向いて突っ込んだ。


「あなたはエルフじゃ無いですか。」


相変わらず顔がよく見えないが

ニヤッと笑った気がした。


「でも君は人間だ。この世界で生きなければならない。」


ようやく人影が立ち止まったかと思うと

何かの扉の前に辿り着いた。

操縦室の扉の様にも見える。

そうでない様にも見えた。


目の前の人影から手が再び差し出された。



「で、どうする?」



相変わらず顔がよく見えないが

思い返せばよく知った声であった。


この手をかつて、握り返した時

今後起こることを何一つ想像していなかった。


後悔することもあった。

良かったとも思うこともあった。


ユーリは差し出された手をマジマジと見つめていた。


扉の向こうから、どこかで聞いた事がある音楽が聞こえてきた

気がした。


周辺の景色が白んで行くのを感じた。



ユーリは目を開けた。

いつもの自室の天井が見える。


・・・変な夢を見た、気がする。


「絶対あいつ、支配人ちゃんを操り人形にして

サムの動向を探ろうとしてたんだ。

抵抗されないように魔力を吸い取った所で

君たちが来たんだ。

一時的に喰うだけなら

魔力の元から奪うのは合理的じゃない。」


咄嗟に目を瞑ってしまった。

・・・これは、クラウド様の声だ。

何故私の部屋にいるのか。


そうか、ザラストル様の件で・・・

色々思い出してきた。


もうムカつくから、ザラストル様の事は

"奴"て呼ぼう。


「奪った、と言うか壊したに近いかも。

ユーリの魔力の源に干渉して

途中で邪魔が入ったから失敗したのね。

いずれにせよ碌な事をしようとして無かったわよ。」


クロエさんのお声だ。相変わらず美しい。

かわいそうにとクロエはユーリの頭をヨシヨシしている。

甘んじでそれは受けたい。


ユーリが目覚めたことに

皆気がついていなかった。

そして目が覚めてますとは

言い難い雰囲気だ。


顔のすぐ右横にはクロエがいるのだが

左横にはフワフワとした毛の感触がする。

そしてほのかに獣臭がする。

ハチが丸まっているのだろう。


足元にも何やら重みを感じるので

九とおもちがいるに違いない。


「人肉を食べないオーガは

そっちの趣向である事が多いと思います。

人の生気や魔力を喰う。

あのシュンテン様も

旦那様が人間だったでしょう?

あれは、何というか・・・」

モメラスである。


皆シーンとなってしまっていた。


「でもあのタミー様?

かなり幸せそうだったよね。

あれだけの美貌の方じゃ食われてもいいって

思っちゃったのかも・・・?

需要と供給は噛み合ってるよね!」

慌ててフォローしたのはザイカだ。


文化って様々だ。いや、それ文化で済ませていいのか?


それじゃまるで・・・


「乳牛みたいだね。」

つい突っ込んでしまった。


「ユーリ!」


皆がその言動と、ユーリが目を覚ましたことに驚いた。


クラウドはブッと何か吹き出した。


「君ねえ・・・

せめて共生関係とか言えないわけ?」

サムエルが指で頭を小突いた。


サムエルのその手と顔が視界に入ってきた。

いつもの不遜な顔つき。


しかし、いつもと見え方が異なる。


体を起こして辺りを見渡してみた。

やはり見え方がおかしい。

何だか全体的に立体感が無い。


「無理して起きあがっちゃダメよ。

右の目が機能しなくなってるみたい。

魔力もすごく弱くなってしまったわ。

試しに点滴ポーション打ってみたけど・・・」


自分でも魔力切れを起こした時の感覚に似ていると思った。

それだけならポーションを飲めば戻るのだが

・・・ダメだったと言う事なのだ。


「・・・すみません、とりあえず

あった事を話したいと思うのですが。」


ユーリは横たわって天井を見つめながら言う。

とんでもなく恥ずかしいが

必要なことの様に思えたので

ユーリは恥を忍んで

全てを包み隠さず話すことにした。

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