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81. 誇り

ザラストルが転移の巻物を使って

シュンテン閣下の待つセントラルタワーへと戻っていった・・・


外から雷鳴が聞こえてきた。

ユーリは性懲りも無くびっくりする。


ザラストル様が小羽屋からいなくなったので

結界が解かれたのであろう。


あんなやつに騙されて!

バカなんじゃないの!?

その酒癖本当に何とかしてよ!


その場にいる皆に袋叩きにされるユーリ。


「だ、だって、仮にも国賓だし。

私、あの状況で断れなくない?」


弱々しく弁解するユーリ。


ザイカが泣くなんて、こんな所見たくなかった。

ヒーロも、皆の前に姿を表して・・・これって大丈夫なのかな。

興奮が収まら無いハチはテーブルの下に入ってしまい、まだ唸っている。

モメラスがさっき携えていた精霊・・・あれは何?・・・怖っ。


・・・諸々ユーリが思考している頃

サムエルが皆に声をかけた。


「心配かけてごめんね。少しユーリと話をさせて。」


先ほどの怒り心頭サムエルからは

少々落ち着いた様に見える。


皆、空気を読んで退散して行く・・・


が、モメラスが、そこに割って入った。

そして慌てて物申した。


「ユーリ、本当に魔力が吸い取られてるよ。

視力もやられてる。」


視力・・・

確かに先ほどから視点が合わないと思っていたが

これは酔いのせいでは無いのか。


モメラスは目に手を当てている。


応急処置が始まった。


治癒(ヒール)の魔法をかけてくれている様だ。

しばらくすると

目の膨満感が少し和らいだ気がした。


「ありがとう。迷惑かけてごめ・・・」


「これ飲んで」

ぐいっと、何か液体入りのグラスを渡された。

ジンの様な香りのする液体だ。


と言うより、ジンそのものである。

ユーリが口をつけずに見返すと

モメラスは先程ザラストルが

ユーリにとくれた酒瓶を持ってきた。


「これ、オーガの作る秘酒ね。

彼らはこれを日常的に飲むけど

慣れない者がこれを飲むと

正気を失うって言われてる。

これに対抗するには

ウイスキーとか、ジンとか

酒の精霊の力が強い蒸留酒を飲むんだ。

この程度だったのは幸いだよ。

ユーリが酒豪で本当に良かった。」


モメラスは真面目に呟く。


自身の酒豪を誇れと言われたのは

流石に初めてであった。


早々に吐き出したのも良かったはずである。

酔い潰れた時、自分を介抱するためのマインドも

役に立った。

・・・本当に何事も経験が大事なんだな。


目の前のグラスのジンは

全く飲む気がしなかったが

グッと飲む。


すると予想を超えて

気分が大分マシになったのを感じた。


正面を向くと。

悲しげで、怒っている様にも見える

モメラスの表情が目に入った。


モメラスは、やはり何かいいたげであったが

しばしの背術を終えると


「はい、終わり。ちょっとは怒られなよ。」

と言い、ユーリの右の肩をぽんと叩いて

サムエルの言う通り、その場を去っていった。


・・・小羽屋の広い食堂に

サムエルとユーリ二人が残された。


サムエルがユーリに問う。


「何で先に帰ったの?」


「急用がありまして。」


「急用って何さ。今朝寄ってみたらフロント君もそう言ってたけど・・・」


思いの他早い発見だったのだな。

3日間は連絡が取れないのではなかったのか。

でも、おかげで助かったのだが。


「どうやって帰ったの?」


「・・・内出の小槌使いました。」


「すごいんだねあれ。」

サムエルは感心していた。


ユーリは黙る。

サムエルは分かりやすくハーッとため息をついた。


「いや、ごめん、僕もあのパーティーは初めて行ったんだ。

あまりフォロー出来なくて申し訳ない。」


サムエルは反省している様に見えた。

大分しょんぼりしていた。


「周りの貴族連中は、俺も好きじゃないのは事実。

・・・だからああ言う会はずっと逃げてたんだ。

ユーリにとっても相当不愉快だったと思うけど」


でも、とユーリをグッと見据えた。


「人間王国国王皇后両陛下も

あのザラストルのバカと比べても

格段に偉いオーガの大臣シュンテン様も

ユーリの働きは認めたって公言されたも同然だから!

その点は確実に成功だからね。」


サムエルは、ユーリの肩をぐっと掴む。

勢い的に、ユーリは何かを覚悟したが・・・

しかし、サムエルはぐっと掴んで

ユーリをまっすぐ見つめたまま話始めた


「後さあ・・・何で君はいつも何かあると

1人になって、閉じこもって

自己犠牲に走っちゃうのさ。

そういうの、経営者として良くないよ。

何でも報・連・ほうれんそうだろう!」


「・・・今は確・連・かくれんぼうって言われてますよ。」


サムエルはうるさいと言って

ユーリの額を小突いた。


「本当にごめんなさい。」

ユーリはしゅんとした。

流石に調子に乗った。


またサムエルは続ける。


「君は、この宿を経営して色々な人望を得てる。

というか、ケット・シーが

ここまで協力してくれることなんて

そうそうないからね。

あいつら基本的に気まぐれなんだから。

今回もハチがいなかったら

あのザラストルの結界を破れなかったよ。

ヒーロについてもそう。コボ・・・トムテを良く遣ってるよ。

僕だって感心してる。普通ならあんなに上手く付き合えない。

ザイカも、モメラスも、いい皆人材だ。

誰でもない、ユーリ、君に集まってくる人たちだ。

それを誇ってよ。」


サムエルは更に付け加える。


「この間君の帳簿も見たけど

君がきてから一年の総売り上げは

80,400,000マルじゃないか!

1人ではそうそう成し得ないよ。

これは数字的にも優秀な経営者だよ。

それから・・・」


ユーリはうんうん、と

感慨に満ちた表情で

話を聞いていたつもりであったが

ついに我慢ができなくなっていた。


「さ、サムエル・・・」


「何?」


サムエルが聞き返す。

顔が思ったより近い。


サムエルってまつ毛長いなー

とか

意外とアヒル口だなー

とか


人の顔を見るのが

実は苦手であったユーリからすれば

この距離だからこそ

ここへ来ての発見が諸々あったが


右目は再び例の膨満感に襲われ初め

その他ユーリにも理解のできない疲労感で

限界を迎えていた。


「サムエル・・・肩が痛いです。

熱、吐き気、倦怠感、頭痛、目の痛み・・・」


最後は症状の説明になってしまった。


そんな説明も言い終わるか終わらないかの時

ユーリは、意識を失ったと思われる。

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