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76. 誰が何を言うか

北方島国のことについて気の利いた事など

何も言えなかった。


ユーリが不自然な笑みを讃えながら固まっていると

聞き慣れた声が聞こえてきた。


「ザラストル閣下!先の演舞会はお越しいただいて

誠にありがとうございました!」


ユーリがその声のする方を振り返ると

ザムエルがツカツカとこちらに歩み寄ってくるのが見えた。

ユーリとザラストルの間に割って入って

ザラストルの手を態とらしく取って、握手をした。


ザラストル閣下も突然のことに戸惑いながら

にっこりと笑顔を戻した。


この光景もユーリにとってはデジャブであった。



「サムエル殿!お連れのユーリ支配人が暇にされていましたので

ついお声がけしてしまいましたぞ。」


イタズラに言い返した。


サムエルがムッとしたのが

ユーリには分かった。


・・・とはいえ

ザラストル閣下の言っていることが正しいはずだ。


しばし、サムエルとザラストル閣下が話込む。


「少々声が聞こえたのだが、君はミノルテ島のご出身なのかね?」

老人が突然に話しかけてきた。


名札を見ると、”画家・ヨハン・エトワール”と書いてあった。

ユーリでも知っている。

人間の間でも最高齢と言われている

かつ、高名な画家であった。


「はい・・・」


「私もかつてあの島へは良く行ったものだ。

人は勤勉で、独自の文化も充実し、景色は美しく・・・

何より海産物の食事が圧倒的に美味かった。

素晴らしい場所だったな。

ご両親は健在か?」


「はい。」

ユーリは精一杯の返答をする。


このご老人は心底心配して聞いてくれていると思う。

人の良さも窺える。


・・・しかし正直のところ

こんな話ではなく

この方の絵についてお話がしたかった。


「まあ、貴方、そうだったのね。

大変だったでしょう?お悔やみ申し上げますわ。」

美しいお声で、さも哀れそうに話しかけてくれる。

ロレンヌ公爵夫人であった。

・・・私のことが見えていたのは意外である。


「まあ、北方島国の」

「北方島国の方がザラストル閣下(オーガ)とお話ししていたわ。」

「なんて、寛容な方なの。」

「誰のお連れなの?」

「サムエル様のよ。」


ユーリの気持ちを置いてけぼりに。

どんどん目の前の会話が盛り上がっている。


「連れ、と言いますか・・・

この支配人と一緒に宿屋を経営しているのですよ。」

サムエルはユーリの肩に手を置いた。


「サムエル殿は北方島国の方に支援もされていたのですな!」

ロレンヌ公爵が快活な笑顔で宣った。

そこに悪気などは感じない。


「私も先日戦争孤児に対する支援のために多額の寄付をしましてな。

もちろん、停戦、外交が確立した暁には

オーガ領地にも検討するつもりで・・・」

ロレンヌ公爵はザラストル閣下にもプレゼンを始めた。


しばし、その演説が繰り広げられている。



突然、女性の声がそれを破った。



「あー!サムエル!ここにいた!

この後の大使館会議、参加するんでしょ?

もう行くよー!」



声のする方を見ると

美しい、巻毛の金髪を称えた

エルフの女性がサムエルに近寄った。


「おい、マリーローラ、今ロレンヌ公爵がお話ししてるんだぞ。」

サムエルはそのエルフの女性を嗜めたが

マリーローラと呼ばれた本人は

あまり気にしていない様子だ。


なんとなく、人間はエルフに弱い。

ここでもそれを痛感した。


サッと、サムエルの周りにいた人間が

ロレンヌ公爵夫妻を含め

引いていくのである。


「うん、もう出発するから。

ああ、ユーリ、紹介するね。

こちら、マリーローラ・デニスズ・・・

なんだっけその後?」


「マリーローラ・デニスズ・サメニータ・エア・ロラリオン!」


覚えられないよ!とサムエルはメアリーロンザをこずく。

貴方もね!とマリーローラもサムエルをこずく。

二人は仲が良い様であった。


「・・・よろしくお願いいたします。

ユーリエ・ローワンと申します。」

ユーリはにこりとし

機械的にビジネスカードを渡した。

マリーローラは手渡されたカードをまじまじとみる。


「へー、何?サムエルの彼女?」

マリーローラはニコニコ、というより

ニヤニヤとしてユーリを見た。


「いえ、違います。」

事実である。


マリーローラは更にサムエルの方も見る。


「違うよ。」

サムエルは一言で答えた。


マリーローラは、フーン、と言うや否や

その話題には興味が無くなったらしかった。


「あー・・・すみませんね?

このおじさん、この後

重要な会議が、あります。

連れていって、良いですか?」


「僕がおじさんなら、君だっておばさんだろうが!」

とサムエルは反抗している。


「ユーリはもう少しここで楽しんでるよね?」

サムエルはユーリに聞いてきた。


正直もう帰りたい気持ちでいっぱいだったが


何処となく漂う、まだここにいろと言う

サムエルの圧に負けて


「はい、もちろんです。」

と返答していた。


サムエルとマリーローラは

あっという間に会場を後にした。

気がつけば、国王皇后両陛下のお姿も見えなかった。

これはもう解散して良いと言う合図なのだと察した。


それからと言うものの

ユーリもあまり会話の内容を覚えていなかった。

全て当たり障りの無い返答はしていたと思う。

主にユーリの出身地である北方島国の話しかされなかったが。


サムエルがいなくなってから約1時間ほどは頑張って粘り

そろそろ良いだろうと

帰路につくことにした。


お土産の品として出口でお菓子を贈呈された。

そして、クロークのコートを受け取る。


温室の外に一歩踏み出した瞬間

湿気のない、張り詰めた冬の冷たい空気が

ユーリの肺を刺した。

オランジェリーの高温多湿な空気を味わっていたのだから

尚の事、それが強く感じられる。


何故かそれが非常に心地良かった。


ユーリはぐったりとしつつ

宿屋へと戻っていった。

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