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68. 結界解除

ハチが宿内のパトロールに戻ってからは

ユーリの側にヒーロが現れた。


「オーガ達、ぐっすり眠っていますわよ。」


ユーリもそれを聞いて安心する。

やはり、この長旅はお疲れであったと思う。

シュンテン閣下の長居がしたい

とのお申し出も、宿の中を見て思ったことだろうし

それ自体はかなり光栄であった。


「ヒーロの清掃(ハウスキープ)が完璧だからだよ。

いつも本当にありがとうね。」


ヒーロは、いつもの様にニコニコとしていた。

しかし、心配そうにつぶやく。


「ユーリは今、相当無理をしていると思うのです。

回復ポーションは決して体に良い物ではありませんわ。

健康に良い成分が入っていると書いてあってもです。

私が警戒しますから、お休みになってはいかがですか?」


「でも、ヒーロにそこまでさせる訳には・・・え?」


ユーリは気がつく。

思えば今までこういうシチュエーションは山ほどあったが


ヒーロの方から、何かを提案をされた

と言うことが一度もなかったのである。


ヒーロは、自身の頼みを聞いてくれるし

質問に答える、と言うことはするが

自分からの提案、と言うことは基本的にしなかった。


ユーリはヒーロを見ると

珍しく目をしっかり開いている。

しかし、あの禍々しい感じはしない。


「ヒーロがそんなこと言うのは珍しいね。」


ヒーロは、ユーリの目をみて答える。


「この空間、私好きかもしれません。

何しろ、聞き耳を立てている者が何もいないのです。

私の思うように動けますわ。」


・・・例のコボルトコミュニティの事だろう。

そうか、それも今は遮断されているわけだ。


やはり、ヒーロは煩わしく思っているのかもしれない。


「今後も時々、この結界発動させようか?

そうしたら、ヒーロも好きに行動できるでしょ?」


ユーリはイタズラっぽく聞く。

ヒーロも、ふふふと笑う。


「素敵なご提案ですが、この時空遮絶結界は

近いうちに使用禁止になりますわ。使用した者には刑罰も。

この世の理に反しすぎていますもの。

イーシュトライン侯爵様の側近の方が

既に、王立議会に報告していますわ。」


「・・・本当に?」


ヒーロは頷く。


ユーリは驚くと同時に

極めて残念な気持ちになる。

イーシュトライン侯爵側近は

真面目な人であることは間違いがないのだが

マリーン先生があの人のことを

好きでは無さそうだった理由も

分かった気がした。

・・・しかし仕方がない。

そりゃそうだとも思う。


ユーリが滅多にできない

ヒーロとのおしゃべりを楽しんでいると

アナログの懐中時計が

いつの間にか午前6:00を指しているのを認めた。


ここは時間感覚が狂うからいけない。


朝食の準備を始めねばならない。


イーシュトライン侯爵側近、ザイカ、モメラス、ハチ

全員を食堂に集めた。


もちろん、ユーリも知っているが

何も異常がなかった旨報告をしてくれた。


情報の捕捉ができるモメラスだけは

昨晩のことをこう伝えてくれた。


「皆、疲れてたみたいだし

ずっと眠ってたんじゃないかな。

ザラストル様だけ、夜の2時ごろユーリに話しかけに行ったでしょ?

ハチが行ったからね。

大騒ぎするのもどうかと思って待機してたけど

大丈夫・・・だったよね?

何もされてないよね?」


モメラスは心配をしてくれる。


「まあ、大丈夫だ。」

ハチは付け加える。


外はもう明るいはずだ。

無事に一晩を過ごせて本当に良かった。

何はともあれここは・・・


「では、朝食準備を始めます!

ザイカと私、二人でできるので

お三方は引き続き警備の方、よろしくお願いいたします。」


皆、ユーリの指示に頷いた。


今回の朝食は、以前の形態に戻す形となった。


しかし、やはりそこまで手を掛けることは

できなかったので


事前に作り置きの可能な10種類のおかずが入った小鉢

そして、スープ

やはり、パンは三種食べ放題。


飲み物は・・・

何となく予定変更し、ケットシーコーヒーはやめにした。


いつもの紅茶と

フレッシュトマトジュースを

お出しすることにした。


そうこうしている内にオーガの皆様が

お目覚めになる時間になったようだ。

最初に現れた方は


やはり身長が3メートルほどある筋肉質なオーガ

角は額から生える一本であった。

・・・この方はパゲーノ様であるらしい。


そして、昨日とは打って変わって

続々と厳ついオーガ達が食堂に

立ち入り始めた。


「わぉ・・・」

とザイカも、その光景に驚いている様子だった。


白く長い髪をしたオーガがいたが

この方がシュンテン様であるらしい。

身長はやはり2.5mほどあり

額から2本の角が生えている。

見た目の厳つさは否めないが

お美しさは相変わらずであり

人間の時とは違う妖艶な雰囲気を放っていた。


良く見ると夫のタミー様は人間の姿のままであった。

もしかしたらこの方は本当に人間なのかもしれない・・・


・・・ユーリとしては

椅子が壊れないかがかなり心配であったが

そんなことも起こらず


つつが無く、朝食を終え

皆様が一度部屋にお戻りになり

また、準備を終えて・・・

人間の姿になってまた戻ってくる頃


午前8:55になっていた。


そして時計が午前9:00になるのを見送ると

ユーリは結界を解除した。


・・・本当にここまでよくやったよ自分。

自分に大拍手だ・・・


今までの苦労が走馬灯のように巡ってくる。

徐々に、小羽屋の勝手口の外のダークマターが晴れ

外の景色のピントが合ってくる。


そこにはサムエルと、クラウド様が立っていた。

そして、意外にも騎士アルト様もいるではないか。


「お疲れ様です。アルト様もいらっしゃったとは。

皆様ご出発のご準備できてます。」


皆何も言わない。

心なしか皆様、お疲れに見えた。


「・・・あの、何かありましたか?」


まだ皆が食堂で歓談してるのを確認すると

サムエル、はユーリを外に引っ張り出し

勝手口をそっと閉めた。

酷く機嫌が悪かった。


「朝の7時過ぎくらいに

どこからか女の声がしたと思ったら

そこを・・・」


サムエルが指差した方をユーリが見る。

多分、魔除けの大結界の外である。


「マンティコアが散歩してた。」

クラウドが引き継いだ。


「はい!?」

ユーリは意外な展開に驚きを隠せなかった。

マンティコアなんて

そうそう、うろついてるものでは無い。


危険な魔物だが、唯一の救いは

生息数が極めて少ないと言う所なのだ。


少々前に、近くの地域で出現したマンティコアは

冒険者ベンジャミンによって倒された。

・・・ユーリはよく知っていた。


「なんか僕、嫌な予感がしていたから夜中のうちに

アルトを呼んだんだ。そしたら案の定だよ。」


「ですが実際のところ

私は殆ど何もしていませんよ。

サムエルが画期的な退治をしていましたから。」

アルトは謙遜した。


「画期的?」


「前ユーリが大ゴキブリを退治してた方法だよ。

吸引魔法!

あれで、マンティコアを吸い取ってやった。

次元の彼方に放出されたろ。」


「あの退治方法は素晴らしいですね。

とはいえ、マンティコアを吸い取るには

魔力が相当必要になりますが。」


アルトは感心していた。


「だって今回は大騒ぎするわけにはいかないし

毒針飛んでくるかもだし

下手したら奴ら、疫病を流行らせたりするんだぜ?」


マンティコアをゴキブリ退治がごとく

吸引したことは、それはそれで

ユーリも突っ込みたくなるところで

感想に困るのだが・・・


よりによって何故、今、マンティコアが。


しかも、7時過ぎか・・・

当初の結界解除の予定時間である。


情報が漏れていた?

シュンテン閣下が時間を変更しなければ

我々はマンティコアを目撃していた可能性が高い。


どこからどこまでが、誰の何のための計画なのだ?

それとも偶然?

もしかして、マンティコアが繁殖してる?

それはそれで大問題だ。

・・・シュンテン閣下は、ザラストル閣下は

何か知っているだろうか。


ユーリが思慮していたところへ

サムエルがユーリの肩にゴンっと手を置く。


「とにかくクラウドとアルトが周囲警戒をするから

今は皆様をお送りしよう。

オーガの皆様には

今は何も言わない方がいい。」


サムエルはそれだけ言うと

さっさと小羽屋の中に入って行った。


「皆様、おはようございます。

お休みになれましたか?」

と、にこやかに皆様にご挨拶をしている。


サムエルのその様子を見ても

先ほどまでマンティコアを退治していたとは

誰も思いもよらないだろう。


結果的に言えばチェックアウトは

ユーリの懸念が何もなかったかの様に問題なく済み

拍子抜けな程に、あっさりと

オーガの皆様は元の旅路へと戻られていった。

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