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64. チェックイン

オーガの使節団5名様は

その日の午後5時00分ごろご到着予定とのことであった。

なんでも高速馬車3台でいらっしゃるとのことだ。


・・・朝イチでイーシュトライン侯爵側近がそれを伝える。


ここに来て発生する想定外。

予定より2時間も早い。

馬車が3台?

3台もの馬車をどこに置くと言うのか。

そして、馬の世話は誰がすると言うのか。


こんな大切なことを今更言うなんて・・・

ヒーロにも相談するしかあるまい。


イーシュトライン侯爵側近に

恨みごとを言いたい気分になってきたが

しかし、それはちょっと考えれば

ユーリでもわかったことだったので

致し方ない。


急拵えだったが

以前マリーン先生がやっていたみたいに

物理結界をの形を厩の様に整え

馬たちにはここに入ってもらうことにした。


あと3台の馬車は

仕方がないので

アリーナと小羽屋の馬車を

ルミナス牧場のフェリクス爺ちゃんに預けて


なんとかスペースを確保した。


・・・念の為おフィヨナ婆ちゃんも今日は

そっちに泊まってもらうことにした。


現在は午後4時50分

日は傾き、あたりはオレンジ色めいてきた。

ユーリは、食品棚を何度も開け閉めして確認したり

動物園の熊がごとく無駄に

行ったり来たりしていた。


午後4時59分

時間通りには来ない

ということをユーリは悟った。


午後5時15分

クラウド様が一番北端に配備したカラスが

御一行様を補足したとの報告があった。

高速馬車でも後30分はかかる。


ハチは、建物内の警備から報告に来てくれた。

敵影無し。問題ないとのことであった。

ヒーロも同様の回答をしてくれた。


準備はバッチリ。


そして、ユーリは玄関の外へ様子を見に行った。

サムエルも、ついてきた。


外は冬独特のカラッとした空気で

黄昏時の薄紫色の空になっていた。


少しすると、クラウドが慌てて扉の外に出てくる。

「ヤバい、リトルウイング村に入る手前で

彼らの馬車が急に捕捉できなくなった。

・・・何かあったのかもしれない。」


一時小羽屋のメンバーがざわつく。

しかし、クラウドが直ぐに次の情報を捕捉した。


「・・・そう言うことか。

彼ら街を通らずに転移の魔法を使ったな。

ありがたいっちゃありがたいが・・・

驚かせやがって。」


頭をくしゃくしゃかいた。

いつものクラウド様の余裕は

今日はなりを顰めている。


すぐ近くでゴロゴロと雷鳴が聞こえた。

とたんに黒い雷雲が発生し

薄紫の空を覆った。

黒い雲にピカピカと白い光が走っているのをユーリは見た。


急に天気が変わった。


リトルウイングは山なので

まま、こう言ったことは起こるのだが。

ユーリは落ち着かない気持ちになる。

ユーリは雷が苦手であった。


サムエルが何かを感じた様だ


突然慌てて

ユーリとクラウドを

小羽屋の建物の近くへ押しやった。


その数秒後であった。突如、ドーン!と

大きな音が鳴り響いた。

近くに雷が落ちたのだ。

光った瞬間は最早ユーリ達にも見えていなかった。


ザーッと土砂降りの雨が降り始める。


突然の天候の変化にユーリは頭が追いつけないでいる。

クラウドは、サムエルに聞く

「これ、どう言う意味なんだ?」


「わからん・・・まあ、シュンテン様は派手好きだからな。」


これがご登場の演出なのだとしたら

"派手"の一言で済ませられるサムエルは

流石であると言わざるを得ない。


雨は見た事がないほどに強く

数メートル先の光景も見えないほどであった。


・・・などと考えているうちに

雨の向こう側から微かに

馬の蹄が地面を打つ音が聞こえてきた。

凄いスピードで近づいて来ている。


唐突にムチがビシッと鳴る音がする。

馬の嘶き、何かが軋む。

馬車の止まる音である。


雨が止んだ。

そして、雨雲が引くのと同時であった。


突如としてユーリ達の目の前に

立派な馬車が3台、出現した。


しかしユーリが御者を見ると

3人とも高身長の人間の若い男性である。


「ご到着だ、ほら、ユーリお出迎えして。」


サムエルはユーリの背中をこずく。


・・・ここで何と言うべきなの?


警備と夕食のことばかり考えていて

これをシュミレーションしていなかった自分を

ぶん殴りたかった。


「こんばんは、小羽屋へようこそお越しくださいました。

・・・長旅大変お疲れ様でございます。」


手を前で揃え、頭を深々と下げて

いつもと同じように言うしかない。

誰か今すぐ正解を教えて欲しい。


御者達がスッと、降り

まずは手前の馬車の扉が開く


そして馬車の中からは

背がとても高く、モデルの様な体型をした

美しい女性が現れた。

オーガには見えない、人間の様だ。

角も生えていない。

しかし、肌と髪はとても白く

人間離れした見た目をしていた。


サムエルが歩み寄りお辞儀をした。


「シュンテン閣下、お久しぶりです。

またお目にかかれて光栄です。」


「まあ、サムエル殿、ありがとう。

この間の演舞会は素晴らしかったですわ。」


ユーリでもうっとりする声であった。


「この度は私達を受け入れてくださって

本当にありがとうございます。

支配人は・・・」


「こちらです。」


サムエルに引っ張り出される。


ユーリは自身が

化粧をほとんど施していないことを思い出した。

早朝から準備準備ですっかり忘れていた。

髪もただ一つに縛っているだけである。


急に、いつぞやか

「支配人の雰囲気が悪い」

と、美人に言われたことがあるトラウマが

若干フラッシュバックした。


いっそのことサムエルが支配人ですと言って欲しかった・・・


しかし、シュンテン様は

ユーリを認めると一層ニコニコとした。


「まあ、お若い女性でしたのね、素晴らしいですわ。

ここがなかったら、1週間も連続で馬車に揺られることになっていたので

調印式には力尽きてしまいますわ。

私たちの宿泊を受け入れてくださり

深く感謝申し上げます。」


恭しく頭を下げてきた。

所作が非常に美しい。


「いえ、お時間の許される限り

どうぞお寛ぎください。」

ユーリもつられて、頭を下げる。


この女性は本当にオーガなのだろうか。


「さあさ、あちらが話題のオーガ

ザラストル閣下ですのよ。」


また背の高い筋肉質な人影が現れた

これもユーリには人間の壮年男性に見える。


快活そうであり

包容力を帯びた笑みを湛えている。


かぶっていた帽子をパッと取り

胸の前に携えた。


「サムエル殿、ご無沙汰をしています。

先の演舞会では大変お世話になりました。」


にこやかにサムエルに挨拶をした。

サムエルも何やら当たり障りのない受け答えをしている。


「こちら。パゲーノ君。

駐在大使としてどうかと思いまして連れて参りました。」

三台目の馬車を運転していた人がそうであるらしい。

これは、馬車というか貨物車であった。


・・・ユーリはハタと気がつく。

待て待て、話がちがう。


駐在大使にするって・・・

このパゲーノという方

全然下っぱじゃないじゃないか。

下っぱ同士、モノスタス、と言う方と相部屋にしようと思っていたのだが。

サムエルもそれに気づいているだろうか。


それは全く分からなかったが

サムエルはユーリを自身の近くへ引っ張る。


「ザラストル閣下、こちらが宿屋の支配人

ユーリ・ローワンです。」


「ようこそお越しくださいました。ザラストル・・・閣下。」


ユーリは混乱する頭を下げる。

そして、この人達も閣下呼びをするのか。

後で、閣下の定義も調べねばなるまい。


「さあ、立ち話も何ですので、どうぞ中へ!」

ユーリは皆を中へと促す。

わちゃわちゃと準備が始まった時


どさくさに紛れてサムエルを中へと引っ張っていく。

中に入るやいなや

チェックインカウンターにいるザイカに


「想定外のことが起きたので

ロビーに引き留めてて!

お茶5人分入れて!あとお茶菓子もお願いします!」

と小声で願いする。


ザイカは何事か、と不安そうな顔をしたが

「わかった!」と準備を始めてくれた。


「モメラスは荷物を運び加勢してください!

馬車も所定の位置に誘導お願いします。」

「了解!」と言って外に出た。


ここで改めて

サムエルとそこにいるイーシュトライン側近に

例の相部屋の話をしようとした

・・・が、先にサムエルが口を割る。


「部屋割りのことだろ?

だから言ったじゃないか。一人一部屋がいいって。」

サムエルは、先ほどと同じ人物とは思えないほど

不遜な態度をとった。


「どっちにしろもう彼ら

一回結界張ったら絶対に外に出られないんだから

一階だろうが何だろうが関係ないじゃないか。」


・・・それもそうだ。

思い切って

あとは、上からシュンテン様、ザラストル様、タミー様、パゲーノ様、ノスタトス様を

振り分けるしかない。


特に設営は変わらないのだが

警備の配置は気をつけねば。


一度、トランプをシャッフルするように

部屋換えを行い、一同が待つ食堂へと向かった。


すでに荷物は運び込まれ

一同茶を飲み始めているところであった。


ここで、ユーリはそれぞれにお部屋の場所と説明を行う。

まず初めはシュンテン様をご案内しようとしたところで

また思わぬご提案をいいただいた。

「私はこの書記官のタミーと同じ部屋で構わなくてよ。」

うふふ、と微笑む。


・・・ん?


「先月、結婚したので、晴れて夫婦となりました。」


・・・そう言うことか。

おめでとうございます!

と皆の祝いの声が響いた。


シュンテン閣下は、ありがとう、ありがとうと

ニコニコとそれに答える。

タミー書記官は、シュンテン閣下の馬車を運転していた人だ。

人の良さそうな、ヘラヘラとした笑みを浮かべている。

シュンテン閣下にゾッコンであることは

何となく見て取れる。


夫というよりは、下僕っぽい。

と、ユーリは失礼な感想を抱いた。

この人もとてもオーガには見えない。


・・・また話は変わってくる。


「それでは、最上階のお部屋をご利用ください。ご案内します。」

ここで急だが変更せざるを得ない。


最上階は定員4名の大きな部屋だ。

相部屋にするならここしかない。


あとは、小羽屋内の警備の都合を考えねばなるまい。

2階の2部屋にパゲーノ様、ノスタトス様


1階には予定通りザラストル様にお泊りいただくすることにした。


ユーリは部屋割りで一階になったザラストル様に

ご案内の最中こう伝える。


「客室が少ない宿で、一階になってしまい申し訳ありません。」


ザラストル閣下は何でもないと言う面相で

「いえいえ、私は、実は高所恐怖症でして。

上階であったなら、逆に一階にしてくれと

頼んでいたところですよ。」


あっはっは。

とごく快活に笑っていた。


「それよりも、快適な寝室をご提供いただくことが本当にありがたい。

本当に支配人には感謝申し上げます。」


深々と頭を下げてくれた。


ザラストル閣下は

サムエルの言う通りの人物であるらしい。


ザラストル閣下が部屋に入ったのを

確認する。


・・・チェックインだけでこんな事態になるとは。

と言うより、チェックインの仕方なんて

正直のところ考えていなかった。


相手がオーガであることに気を取られすぎた。

もっとこう、人間の高官が来るようには

考えられなかったものだろうか。


ユーリの脳内では一瞬

反省会が開かれかけたが


次は今回のオペレーションの中でも

トップクラスにやばい行事が待ち構えている。

反省会は明日にしよう。


ユーリは厨房へと走って行った。

想定している悪いことは大概起こらないですよね。

本当にやばいのは想定していないことが起きた時。

努力は裏切らないと言うのは本当なんですが

裏切られるとすれば、時の運です。

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