59.5 競合
これは停戦合意が決まる少々前の話。
ユーリは今リトルウィングの中心街に買い出しに来た。
リトルウィングには商店が1店舗だけ存在する。
つまり、買い物事情にはかなり厳しい地域なのである。
余談であるが最近はザイカが隙間時間に高速馬車を利用して
イーシュトラインや、リーブラックポートに
買い出し代行をするサービスを展開し始めた。
とても好評であるようだ。
しかしながら、この村唯一の商店
スミス酒店は、酒店と称しながらも
ユーリが引っ越し前に覚悟していたラインナップよりは
遥かに充実している。
食品、日用品
ちょっとした魔法具まで売っている。
本日ユーリはスミス酒店に来ている。
実はここが少々苦手であった。
何故なら、ここに来る客は
全員顔見知りであるからだ。
何を買った、何をしていた
全て筒抜けなのである。
とはいえ、近くて便利なのでつい足が伸びる。
ここで買うものは決まっている。
体力回復ポーション。
もう今日は無理かも、と思うほどに疲れた朝はこれが効く。
飲むと、異様なほどに元気が出てくる。
もはや空元気である。
飲んでしばらくは良いものの
ある時いきなり、ガクッと
燃料が突然切れた様に元気が無くなるのが気になる所だが
それでもこれに頼ってしまうのが現実であった。
最近は沢山の種類があるものだ。
ノーマル、New、アルティメット、マックスなんてのもある。
ラベルにはそれらしい効能が説明してある。
値段に安い高いと差がある様だが
本当に効能に違いがあるのかは
ユーリにもよく分からない・・・
「ユーリ、最近頑張ってるね!」
突然快活に声をかけられた。
ハッと振り向くと
リトルウイング村長が笑顔で手を振っていた。
「おかげさまで、恐れ入ります。」
と慌てて、頭を下げた。
村長は少々ユーリを見る。
何かを言いたげである。
言うか、言うまいかも悩んでいた様子だったが
ついには発言した。
「気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど・・・」
「はい?」
ユーリは身構える。
「最近・・・恰幅が・・・よくなった?
景気がいいのかな?
買い食いするより、自分で作った方が
健康にいいよ!」
はははと笑う村長。
ユーリは、恰幅という言葉に少々ギョッとした。
だがしかし、自覚はあった。
村長は、太ったと、言いたいのだと思う。
村長は、心配してくれている。体調管理は大丈夫かと。
言葉を選んでくれているのを感じる。
「ハハハ・・・エールの飲み過ぎですかね。」
と、その時はおっさんの様な返答しかできなかった。
その夜いつもの様に現れたサムエル。
少し話題に出してみようかと思った。
「最近ちょっと太ったので、
運動しようかなーとと思ってるんです。」
この様に発言してみた。
サムエルは想像以上にというか
見たことも暗い顔になってしまった。
「そりゃ、こんなにも、ユーリは凄まじいストレスを感じてると思うし・・・
ユーリはよく頑張ってるよ。」
目を合わせられない風で
慌ててフォローが始まった。
「そうだ!何か好きなもの食べなよ!
明日イーシュトライン行く!?」
何かサムエルはすごく慌てた表情をする。
逆に気遣いをされてしまった。
しかしそれでは、また太ることになるのだが。
そしてサムエルの発言から察するに
これは相当太ったな。と確信した。
ザイカは
「え?もっと太りなよ。身長高いんだし。」
と言う。
やはりドワーフは文化が違っていた。
モメラスに聞いてみた。
「太った?別に元々痩せてたじゃない。
今?すごくちょうど良いんじゃない?」
・・・・やはり太ったのか。
ヒーロにも愚痴ってみた。
「太ると何か不都合が?」
こちらも異文化であった。
ハチは・・・
聞くのをやめた。
原因は心当たりがあった。
今持っている小瓶に目をやる。
この体力回復ポーションである。
体力回復ポーションは必ずと言って良いほど
とある材料が入っている。
糖 類
元気が出る魔法の原材料である。
そして、太る原因だ。
控えねばなるまいと、決心することになった。
・・・
つい最近、リトルウィングよりも北にある
クラティガと言う地域に
マンティコアが出現したらしいのだ。
マンティコアとは
人間の顔、3列に並ぶ鋭い牙、ライオンの体
毒針のある尾を持ち
美しい女性の声で人を誘惑し
捕えて食べるとされる、恐ろしい怪物である。
イーシュトライン侯爵閣下自らが冒険者に
討伐依頼を出したほどであった。
もちろん討伐報酬も破格。
ユーリは地図を眺めていた。
王都、イーシュトライン、小羽屋、クラティガ、報酬の額・・・
導線、条件は完璧。
ゴンゴルドインパクトほどではないが
今回も、マンティコアインパクトが発生すると
ユーリは踏んでいた。
・・・しかしだ、しばらく立っても
思ったほどの集客が無い。
決してゼロではないが
ゴンゴルドインパクトの時と比べても
お話にならない。
はて・・・と
ユーリは首を傾げた。
庭のメンテナンスに来ていたモメラスと
ザイカが話しているのを見たので
ユーリも加わり、その話題を振ってみた。
「マンティコアでしょ?
討伐全然人気無いみたいね。」
ザイカはゾッと身を震わせていた。
「私、報酬額高くても流石に嫌だなー」
・・・成程。
一般的な意見としても
ユーリの感想としても
こいつは本当にどうしようもない怪物であった。
走るのが規格外に速く
巨体で、はちゃめちゃに強い。
尻尾の毒針は銃の如く
飛ばすことができる。
その上人を好んで食べる。
・・・美しい女性の声をしているが
顔はおっさんな事が多い。
歯がぎっしり生えている。
集合物恐怖症のユーリには耐えられない代物だ。
危険である以前に
はっきり言って、気持ちの悪い奴である。
そう言えばサムエルも
「絶対に討伐には行かない。」
と断言していた。
「だから、有名どころの冒険家はとか軍人とかは
討伐以来に乗らないんじゃ無いかな。
命知らずな奴ばっかり行ってるらしいよ?」
その結果その命は、本当の意味で知れずになってるのか。
でも・・・
「帰ってこなくたって、往路があるじゃない。」
モメラスとザイカがブッと吹き出した。
結構ツボっている。
ザイカが笑いながら教えてくれる。
「酷いこと言うね!
・・・結局そう言う冒険者って
宿屋に泊まるお金もないと思うよ。
あと、最近安価で強力な
体力回復ポーションが流通してるしね。」
ユーリはギクっとした。
「宿に泊まるより安上がりだからって
回復ポーションに頼るって事?
でもあれって、俺から言わせれば
元気の前借りみたいな物だから
過剰摂取すると、いつか帳尻合わせをする時がくるよ。」
モメラスの見立てである。
そうなのか・・・
そうか、だから最近スミス酒店に
あんなにも沢山の回復ポーションが売っていたのか。
突然ユーリはハッと納得がいった。
思わぬところに競合がいたのである。
あのスミス酒店の店主
伊達に村唯一の商店を営んでいる訳ではない。
更に、ユーリの耳に痛い話だった。
自身を太らせているものがあの回復ポーションであると
わかっていても
まだ辞められていなかった。
モメラスは何故か急にしゅんとしたユーリを
不思議に見ていたが
その理由に気がついた様であった。
「魔力、体力回復は温泉の方がいいよ。
疲れてめんどくさくっても
温泉に浸かるといいんだよ。
睡眠の質向上にもつながるし
飲んでも良いんだよ。」
「そうなの?」
モメラスはにっこり笑って答える。
「温泉の効能をちゃんと宣伝してあげたほうがいいかもね。」
「小羽屋の敷地内から湧いている様に見えると思うし。
特に人間にはね。」
ザイカも後押ししてくれた。
「ありがとう・・・!」
良い進言をもらった。
ユーリは、温泉の謳い文句を必死に考え
新しく作った宣伝用のチラシと
イーシュトライン観光組合に
送りつけた。
張紙広告を開始してからは
少々だがお客様が増えた実感があった。
皆一様に、温泉を目当てに来ていたらしいので
効果があったのだ。
そして、程なくしてからのことである。
ある日の朝突然、1人の冒険者がやって来て
マンティコアの首を
カウンターに、ゴンと出してきた。
例のチラシも持ってきた。
「これ見てきたんだけど。
一昨日2泊したベンジャミン・ドーハと言う者です。」
チラシを見やるとこの様に買いてある。
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MPもHPも、ここで満タン。賢者も戦士も通う、回復の源泉。
浸かるだけでフルチャージ!健康に良い!
魔法の温泉、湧いてます。
今なら、クラティガのマンティコア討伐達成者宿泊料金全額返金キャンペーン中!
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周りのお客様がドン引きしているのが見えた。
ユーリも自分で作ったキャンペーンであったが
もちろん、ドン引きであった。
次回は依頼達成の証明方法を考えねば。
このベンジャミン・ドーハ氏には
約束通り宿泊料金を返金をし
感謝と称賛の言葉を送った。
ユーリも、回復ポーションを止めて
温泉にシフトチェンジしたことが功を奏して
見事にダイエットに成功したのであった。
そして、スミス酒店に
「健康体力回復ポーション”カロリーハーフ”」
と言う商品が並ぶことになるのは
もう少し先の話である。
ザイカのキャラデザ。
AIさんと一緒に考えました。
ネザーランドドワーフラビットをイメージ。
イメージカラーはピンク。
ザイカもすぐ固まりました。
モメラスのキャラデザ
AIさんと一緒に考えました。
厳ついスナフキンみたいなイメージ。
イメージカラーは緑
もう少しムーミン感を出したかったのですが。
何故かモメラスだけテイストが変。




