表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/129

59. トロルの街

ちょっと歩いただけでも分かる。

このトロル自治区の街並みは

とても美しかった。


自然と、トロルの生活とが見事に融合した創り。

冬であるとはいえ、緑の蔦や、名もない花が

家の壁を覆っている。

屋根の上で農作をしている人さえ見えた。


人間ではこんな建築物を作ることができないだろう。


「すごく綺麗だね、トロルの家ってみんなこうなの?」

ユーリは本来の目的を忘れて見入っていた。


「どうかな?中には普通の人間みたいな街並みもあるし

本当に洞穴の中にそのまんま寝てるトロルもいるみたいだし・・・

少なくとも、このアステア自治区の、この村はこんな感じだよ。」


モメラスはなんて事無い様に言う。


「本当に昔の話だけど、人間と争ってたことがあるらしくて

草の中に直ぐに隠れられる様にするためって言われてるんだよ。

今は人間(リトルウィング村)との交易もあるから

あんまりみっともないのも、て綺麗にしてるらしい。

・・・気に入ったなら、今度ちゃんと案内したいし

テト、君から貰った猫にも会わせたいし。

ゆっくり時間とって遊びにきなよ。」


モメラスは爽やかに微笑んでいた。


それは是非とも、お願いしたい。

そうか、ハチの子も元気にやっているというのなら

本当に良かった。

現実的に小羽屋が忙しすぎて

叶うかどうかはわからないが・・・


「でも今回は観光に来た訳じゃないんだよね?

態々どうしたの?来週には俺がそっちに行くのに。」


切り出さねばなるまい。

ユーリはこの光景の美しさの腰を折るようで

何となく気が進まなかった。


「・・・実は、これ極秘なんだけどね。」


ユーリは今回の作戦を話し始める。

モメラスは静かに話を聞いていた。

ユーリの説明が終わる頃には

人気の無い広場に到着していた。


極秘と聞いて

ここを目指してくれていたのだろう。


「・・・それで、俺は何をすれば良いの?」


モメラスは歩きながら問う。


「外部からの妨害と、万が一オーガの使節団が悪さをしない様に

空いている客室に張ってて欲しいんだ。」


「・・・」


モメラスは黙っていた。

非常に深刻そうな顔をしている。


「・・・もし、モメラスが出来そうなら、と言う意味だけど。

私、本当の意味では、モメラスの能力とかスキルとか

心情とか、分かってないから・・・

最早頼んで良いのかもわからなかったんだけど」


いつもにこやかなモメラスらしからぬ様子に

ユーリは狼狽えた。


目をしっかり見据えている。

改めて見るとモメラスの目は

大きく、黒目がちで、よく見ると

黒目には琥珀色が混ざっている。


人間のそれとは違う。

ユーリは、改めて驚く。


「俺がやるか、やらないかの前に、確かめさせて。

ユーリこの話受けた時、お酒飲んでた?」


いきなり何を言い出すのかと思えば・・・

「ううん・・・」


「それじゃ、サムエルが酔ってたの?

それとも、例の借金とかのせいで無理やりやらされてる?

闇の帝王直下のオーガを受け入れるなんて

ちょっと考えられないよ。」


珍しく、モメラスは怒っていた。

ユーリは慌てて訂正する。


「モメラス、違うんだよ。

私も納得した上でやってる。」


「・・・それも信じられない、本当に?

だってユーリの故郷は・・・」


そのオーガ達によって焼き出されたんじゃないか。


と言いたかったはずだが、モメラスは黙ってしまった。

モメラスは片手で自身の頭を抱えていた。


確かに、モメラスの様に

私にこんなにも美しい故郷があったら

家族がたくさんいたら

それは自分だって絶対に許せないと思う。

現に、リトルウイング村が同じ目にあったらと思えば

答えは簡単である。


ユーリは下を向いてしまった。

何とも言えない気持ちになる。

なぜ私はこれに何とも思わないのだろう。

否、何も思ってないわけでは無いのだが・・・・


「別にユーリを責めてる訳じゃないよ。

どちらかといえば・・・

サムエルは何を考えてるの?」


モメラスは、最後の一言は言うのをためらったが

敢えて発言した様だった。


「サムエルは・・・何とかここを盛り上げようと、

こう、国のトップからも認めてもらえる様にって

この提案をしてくれてる、はずなんだ。」


「君に対してどんな影響があるの分からないのに?」


まだモメラスは納得できていない様である。


「ユーリは良いのかもしれないけど

北方島国出身の支配人が経営してる宿が

闇の帝王直下のオーガを受け入れましたって

そう聞いたら、同じ島出身の人はどう思う?

出身じゃなくても思い入れのあった人は?

今回のことをどう思うの?

ユーリが槍玉に上がって攻撃されても不思議じゃない。

新聞にも面白おかしく書かれる様になるとも思う。」


ユーリもそれを静かに聞く。

実は今回の件

ユーリが個人的に大きく

懸念しているところでもあったのだ。


「私もそれ結構考えたんだ。

それが今回それが一番ネックに思っててね。

だから、極秘なんだよね。

でも、それを差し置いても

サムエルからこの提案をもらってからずっと考えてて・・・

上手く言えないんだけど・・・・」


ユーリがここ最近考えていたことを

一生懸命に言語化してみた。


「故郷のことも、別に何も思ってない訳じゃない。

亡くなった人はたくさんいて

理不尽で、残酷で、酷い話だと思う。

私たちは何もしてないのにね。

それ自体は絶対に許せないことだよ。

・・・ところで、モメラスさ

サムエル達がどうやって

ゴンゴルドを倒したか聞いたことある?」


「・・・無い。」


「説明は省くけど

私がゴンゴルドと親しかったら

それこそ許せないかも。」


これはユーリの素直な感想であった。


「私さ、故郷を焼け出されたのも

リトルウィングに移り住んだのもそうだけど

今までただ、大きな流れに飲まれてきただけのように感じていたんだ。

私、ザイカみたいな強い情熱もないし

モメラスみたいな知識もないし。」


自分語りは性に合わなかったが

今は何か必要のことの様に思えてきた。


「小羽屋に関しても

設備やサービスを充実させても

どんなに集客の工夫を凝らしても

結局のところは世界情勢には抗えなくて・・・

かと言っても

宿屋に出来る事と言えば

人を泊めることくらいだし。

本当に無力だよ。

でも今回、停戦合意の使節団を受け入れる話が来て

何かこう・・・

初めて自分の仕事が世界の平和のために

少しでも意味を持てるかもしれないと感じたの。

それが何より光栄だったんだ。」


ユーリはモメラスの顔をしっかり見て答える。

実はユーリは人と目を合わせるのが非常に苦手であった。


モメラスもユーリをしっかり見ていた。


暖かく着込んできたつもりだったが

日が傾いてくるとやはり寒く感じる。

気がつけば空は少し赤い色を帯びてきていた。


少々ヒートアップしてしまったので

話をまとめる事にした。


「うん・・・だからね、周りに何か言われるかもしれないし

そう言う意見があるのは重々承知してるけど

私は今回の件は受け入れたいんだ。

そもそも、うちも宿屋なわけだから

泊まりたいって言ってるお客様を断るのも

理念に反するし。」


モメラスは静かに話を聞いていたが

何も喋ってくれないので

思っていることを

話し続けるしかなかった。


「私、信用出来る人ってあまり多く無いから

モメラスのことが頭に浮かんじゃって。

なんか、ごめんなさい・・・」


「謝る必要なんて無いよ。

俺から言わせれば

ユーリは既に十分過ぎる知識を持ってるし

情熱もあると思うんだよね。

・・・けど、うん、君の今回の意気込みは伝わったよ。

でも、俺はやっぱり危険だと思うんだ。」


やっとモメラスは話始めてくれた。

自分を納得させている様に見える。


「オーガって、本当に人を惑わすのが上手いんだよ。

人を食べたり、魔力や、生気を吸い取ったり

そう言うのが、仕事なんだから。

オーガに関する伝承、君も聞いたことあるだろ?

人間がお金を稼いだり、ドワーフが鉱泉で刀鍛冶してたり

コボルトが家事をするのと

一緒だよ。

今回の停戦合意だって、どうなるのか・・・

俺も全体像なんて知らないから

何も批評なんてできないけれども。」


モメラスは頭をワシワシっとする。


「でも、君のことだから

俺が何を言ってもやるんだろ?

・・・もう、いいよ!分かったよ!

当日俺が空室に張り込んでおくよ!!」


急に大きな声をあげたかと思うと

急にモメラスはすくっと立って

ユーリに近づいた。


「ユーリが当日、飲酒業務しない様に

酒の精霊が生きられない環境を作るからね!」


ユーリが、ありがとうと言い終える前に

ユーリの肩をポンと叩いて今来た方向へと戻り始めた。


「それは冗談として

話し込みすぎた、もう30分経ってる。

あの、店主が待っててくれてると良いけど。」


と言うと急に早歩きで元の道を歩く。


ユーリもそれについて行くが

追いつけない。


数メートル先のモメラスを追う形になっている。

モメラスはずいぶん早く歩けるのだ。

ユーリはといえば、お世辞にも走るのが速いとは言えなかった。


「俺にできることは、精霊達の言葉に耳を澄ませて

侵入者とか、オーガの動きを読むとか、そう言うことかな

どう?役にたちそう?」


「素晴らしいよ!モメラス、ありがとう!!」

考えれば、今回の作戦に非常に良い能力である。


「でもそっか、オーガは酒好きが多いから

酒の精霊を駆使して

さっさと寝てもらうってのはできるよ!

それくらいは許されるでしょ?

ねえ、サムエルに聞いてみてよ!」


ハアハア、息を切らしながら必死に走るユーリであったが

いつの間にかモメラスが見えなくなっていた。

モメラスは先に酒店の店主の元へ到着していた。


結果的に、ユーリが酒店の店主の元へ戻ってきたのはそこを発ってから

45分後のことであった。


店主はやや不貞腐れてはいたが、しっかり待っててくれていた。
















挿絵(By みてみん)

・・・あの小人達の街のイメージです。

実は本家の話はほとんど知りません。

NZの撮影現場は是非行ってみたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ