48. 極秘作戦、動員
停戦条約調印のためのオーガの使節団は正式に
そして、極秘裏に小羽屋へ受け入れられることとなった。
極秘裏と言っても
入念な仕込みは必要である。
今回の受け入れにおいて1番の懸念は
その安全性である。
受け入れをするお客様はなんと言っても
人喰い鬼である。
オーガの使節団が牙をむくかもしれない・・・
否、それは可能性としてはものすごく低いと考えられた。
仮にも闇の軍勢から派遣される使節団である。
停戦合意に来るのであるから
この機会にそんな粗相はしないだろう。
もっと重大な懸念は
停戦反対勢力による妨害である。
反対勢力の妨害に見せかけた
賛成勢力の妨害かもしれないし
それに見せかけた反対勢力の・・・
考えるとキリがないが
兎に角何がしかのテロや反対活動が起こることが
一番恐ろしい。
オーガのお客様が小羽屋にいる限り
使節団の皆様が
無事に過ごせるように
この結果村に危険が及ばない様に
ユーリは務めなければならなかった。
しかもこれは、地域住民の感情的な配慮からも
ユーリの事情も合わせて検討され
極秘に行われる。
厳つい国家警察などが動員されると
また怪しまれてしまうので
ごく限られた人選で行われる必要があった。
サムエルは、全10室ある小羽屋の客室を
そのうちの5室を使節団の宿泊棟にし
残り5室を身内で固めようと言う作戦を提案した。
この日のご宿泊のお客様は3組いたのだが
全てルミナス高原牧場のお爺さんに引き取ってもらった。
サムエルは、ユーリに部屋の配置図を見せる。
「3階3室, 2階の2室は,使節団が泊まって
2,3階の空き部屋には。
クラウドと僕、イーシュトライン侯爵の側近を泊めようと思う。」
ユーリはうんうん、と頷く。
イーシュトライン侯爵側近の方。
いつかの宴席で小羽屋に来てくれた方だ。
「アルトは無理だろうな、あんまり今回の件には巻き込みたくないし。
あと2人護衛のために有志を募らなくちゃ。
何かあったらすぐに出動できるように。
悪いけどユーリもその日は徹夜して
食堂のカウンターに控えてて。」
「承知しました。
ハチとヒーロには話つけてます。」
今回の件が決まってから勿論この2名には相談をした。
ヒーロは初め、ユーリのことを心配し
珍しく、非常に反対していた。
「オーガは人を捕食するのですよ?
もちろん文化圏に違いはある事は心得ておりますが
闇の帝王直下のオーガなんて・・・
信用するものではないと思うのですが。」
ヒーロはオロオロと
困った顔をしていた。
しかし、次第にはユーリの熱意に負けて。
「分かりました、何かあった時にはオーガをや、侵入者を
ぶっ○しますわ。」
と言ってくれた。
そしてさらに付け加える。
「・・・オーガは、物理的な力も、魔力も圧倒的に強いですし
幻術、心身操作術を得意としますわ。
くれぐれも、惑わされない様に
お気をつけてくださいましね。」
・・・との忠告である。
私も心してかかろう。
ハチはハチでかなり自信がある様である。
「オーガにはケット・シーって
相場が決まってるんだよ。」
待ってましたとばかりに、いきり立っていた。
「そうなの?」
「ユーリ、お前さん、昔話を知らんのかい?」
・・・そんな昔話があったろうか。
心当たりが無かった。
「まあいいよ、猫ってのは
奴らの得意な幻術、心身操作術が効かねえのさ。
加えて、変身術も、俺らには見破れるからな。」
ハチは胸をはる。
猫って本当にすごいな。
「まかせろ!」
とダーッと駆け出し
そのまま走り込みに行ってしまった。
「・・・と言う感じでした。
とは言え、この2名が部屋に泊まるのは懸命ではないでしすし。
ザイカにも声をかけてみたいです。」
「あの子、冒険者志望の、鉈使いなんだっけ?
一階に配備しておこう。
後1名は、僕も探してみるよ。」
ユーリもあと1名に心当たりがないわけでもないのだが
今思い当たっている人物は
戦い向きなのか、否か
その判断ができずにいる。
翌日、ザイカにその話をしたところ
かなり興奮した面持ちで話を聞いてくれた。
そして快く引き受けてくれた。
様子から察するに
久々に冒険心を満たすのに貢献できたのではないかと思う。
「久々に腕が鳴るなー!秘密ってものワクワクする!
絶対に言わないけど
言っていいタイミングになったら教えてね!」
張り切っている様だった。
「ザイカ、実は後1人護衛を探していて
私、モメラスに頼もうかと思ってるんだけど
彼は戦闘向き?・・・どう思う?」
ザイカはうーんと少々考えていた。
「モメラスどうかな・・・
バリバリの武闘派精の召喚士ってのも見たことあるし
能力的には申し分ないと思うけどね。
後は彼の適性じゃないかな?
聞いてみるのはアリだと思う!」
それにね、と言って
ユーリに顔を近づけてこっそり話す。
「トロルって、分類上オーガにかなり近いらしいよ。
変に聞こえるけど、嫌な意味じゃないからね!
モメラスの方がオーガの扱いとか上手そうじゃない?」
の見立てであった。
族種と言うのは非常に複雑である。
モメラスがこの小羽屋に来るのは
次回の庭メンテナンス
来週であった。
それを待つ時間は無い。
ユーリはここで一番近くのトロル自治区
モメラスの住む村に
直接行ってみることにした。
ちょうど、リトルウイング村唯一の酒店のご主人が
エールを買い付けに行くところに
うまく遭遇したのである。
トロルの自治区の場所はかなり近かった。
小羽屋があるアステア岳を内陸の方へ向けて
少々登っていく。
山道を普通の馬車に揺られること30分ほど。
唐突に丘陵地が現れた。
一見ただの自然な丘陵地にも見えるのだが
人々、否トロルの往来がある。
そして、地形だと思っていた、ところどころに見える
緩やかなアップダウンは
自然の洞穴を利用した、家であったのだ。
屋根、と言うか家全体を植物が覆っている。
洞穴と思ったものは丸い窓や扉であった。
扉は鮮やかな色で、真ん中には真鍮の取っ手が光っている。
そんな家が並んでいる光景が広がる・・・
ユーリは、こんな近くに、こんな素晴らしい場所があるとは思いもよらず。
ただ、初めて見るトロルの家並みに酷く感動していた。
そして気がつく・・・
トロルの女性、長い髪を豊かに伸ばし
背が高く、非常にグラマラスな体型。
ユーリから見ると、皆、美人ばかりであった。
しかし何故か赤い髪をしている方が多い。
この間の収穫祭ではあまりトロルと交流できなかったし
モメラスは男性であったし
全く知らなかった・・・
そう、モメラスだ。
まだ知らなかったトロルの街を前に
カルチャーショックを受けている場合では無い
彼に話をしに来たのである。
「あ!ユーリだ!ユーリがいる!何で?ユーリ!!
またあの楽器弾いてよ!!」
どこからか可愛らしい声が聞こえた。
そして突然、小さい人影が
ユーリの膝あたりにドスンっと突っ込んで来た。
下を見ると、トロルの子供であろうか?
ユーリの膝にしがみついていて
無邪気な笑顔を向けていた。
何故この子は私のことを知っている?
しかしこの顔は、恐らく・・・
「本当だ、何でユーリがここに?」
その子に続いて、お目当ての人物が現れた。
モメラスご本人である。
エールの樽を運んでいる。酒屋の店主に売りに来たのであろう。
「ユーリ、俺ん家おいでよ!
テトも元気だよ!
一緒にお菓子食べよう!?」
膝にしがみついている子が何故
こんなに馴れ馴れしいのか
ユーリは直ぐには理解出来なかったのだが
・・・心当たりはあった。
「・・・ごめんね、モメラス、収穫祭の時
ご紹介いただいた・・・かな?」
モメラスはにっこり笑う。
「うん、した!」
また自己嫌悪に陥る。
ユーリの悪い癖である。
酒を飲みすぎると
諸々記憶が飛んでしまうことがあるのであった。
そうか確かモメラスって兄弟いっぱいいるんだった。
そして、こんなに懐いている子供に向かって
お名前教えて、なんて聞けるわけもなかったので。
手をとってニコニコ話始める他なかった。
ユーリは基本的に子供が嫌いではなかった。
「今日はお兄ちゃんに用があってきたんだ
すぐに戻らないといけないし
今度ゆっくり遊びに来たいな。
その時楽器も持ってくるから、一緒に弾こうね。」
「・・・ユーリ、その子姉の子。
メルトだよ。」
お姉さんまでいるのか。
おそらく何回目かくらいの説明なのだろう。
ユーリは焦るが
大勢に影響はなさそうだ。
メルトはあまりそれは気にしていない様子だが
ちぇーとか、いつなのさーとか
聞いている。
やがて、モメラスに静止される。
「メルト、ユーリは俺に話があってきたんだって。
またすぐ遊びにきてくれるから
今は先にお家に帰っててね。
俺もすぐ追いつくから、競争しよう!」
やがてハーイ、とユーリから離れる
「じゃあねユーリまたね。」
とメルトがお別れの挨拶をするのをを聞くと。
モメラスは
「はい、走って!1,2,3!」
と言って、大きく手を叩いた。
その音と同時に、メルトはダッと勢い良く
大通りを走っていったのであった。
「あのくらいの男の子って
とりあえず走るの好きだよね。」
フフフ、とその様子を見守っていた。
その姿は、3児の父くらいの貫禄を漂わせていた。
ユーリはまた酷く、モメラスを尊敬した。
戻ってきたモメラスはユーリの雰囲気を察し
歩きながら話そうか、と提案してくれた。
酒店の店主は後30分だからなー!と叫んでいた。




