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43. 収穫祭-立て直し

収穫祭当日早朝。

ユーリはお祭り会場の村役場まで

鹿のシチューを150食分届けに来た。


サムエル、クラウド、アルト、クロエも手伝ってくれた。


朝の陽光に照らされた村役場前広場はすでに

収穫祭のための最終的な設営をする少数の人が働いていた。


広場を彩るランタンには

それぞれこのお祭りのために参画した企業や個人名が

書かれるのが慣わしであった。


モーリス村長が気にしていた

"イーシュトライン観光組合(ギルド)"の名前は

中央に設置された余興用の立派な舞台の

一番目立つランタンに、掲げられている。

ついでに小羽屋の名前も隣にぶら下げてもらった。


ユーリはこれに集客効果があるとは到底思っていないのだが

違う意味での宣伝だとユーリは解釈している。


不意に向こうの建物から

にこやかな男性が手を振っているのが見えた。

モーリス村長である。


ユーリはそこへ近づくと

イーシュトライン侯爵が到着されたと

村長が教えてくれた。


ユーリは、イーサン・イーシュトライン侯爵閣下と

初めて、あい見えることとなった。


ユーリは握手をする。


握手をしながらも

この地方の統率者、領主・・・

消費税、宿泊税、固定資産税、所得税・・・

この人に税金を納めているのか

と嫌な目で見てしまう自分がいた。


イーサン閣下の方とて

にこやかな笑顔に見えるのだが

全く表情が見え無い。

とユーリは思った。


口角は一際上がり、目は細くなるのに

笑い皺が見当たらない。

細い瞼の奥の瞳孔は開いている。


無駄の無い決められた動き

最低限の言葉

まるで、形式張った演舞を見ている様であった。


・・・とまあ、統治者に対する第一印象はさておいて。

午前中にはバンド演奏の練習が始まった。


演奏を重ねるにつれて

イーサン閣下の笑顔が徐々に解けていくのを

ユーリは感じた。


メンバーと音楽の雑談を楽しんでいる様に見えたし

笑い皺が見えるようにもなった。


ユーリが相当緊張して演奏しているのをみかねて

優しい言葉もかけてくれた。


話してみると意外と茶目っ気がある。

音楽が好きなのだろう

ツインコルダにもとても興味を持ってくれて

色々と質問をしてくれた。

弾いてみたいとのご要望にもお応えした。

イーサン閣下はなかなかに筋が良かった・・・


収穫祭に向けて広場には徐々に人が集まっていた。

この地域周辺に存在する自治区の住人

人間は、エルフ、ドワーフ、トロル、レプラコーン・・・


音楽の練習音に釣られて

建物にも何事かと、人が集まってくるのである。


ユーリが気づく頃には

このバンドには新たに

ドワーフのヴァイオリンリラ奏者

レプラコーンのバグパイプ、という伝統的な笛の奏者

トロルのバンドネオン奏者

是非イーシュトライン侯爵とご一緒にと

加入を希望してきた。


バイオリンリラが現れたか。

しかも、相当手練。


人が多くなって、ユーリはさすがにこんがらがってきた。

アドリブやら即興やら

ユーリの実力ではコントロール不可能なほどに

音楽が展開していく。


・・・さまざまな種類の楽器が

目の前で繰り広げられるのを目の当たりにしていると

徐々にユーリは自分のいる意味を見出せ無くなってきた。


皆ツインコルダの物珍しさから

質問されることがあっても

この楽器編成に必要か?と

全員そう思っているに違いない。

・・・とだんだん卑屈な考えが浮かんで来る。


ふっと、何か頭の中で何かが刺さった気がした。


新たに適任の奏者が現れた。

楽器がマイナーであることは置いておいても

自分には皆を唸らせる実力も無い。

・・・ただの宿屋の小娘だ。


練習が休憩に入る雰囲気になったので


宿の様子を見てきます・・・

と言って、抜け出すことにした。


サムエルが何か言っていた気がしたが

聞こえなかった事にした。


小羽屋に到着すると

お祭りの喧騒とは真逆の静けさ。


お客様もお祭りに参加するために

出払っているに違いない。


ハチの嫁の九がユーリの足首を

スリスリとしてくる。


漸く息ができる心地であった。


入口の扉を開けると

カウンターにはフィヨナお婆ちゃんがいた

何故かルミナス高原牧場のフェリクス爺ちゃんも座っている。


「あれ、お婆ちゃんザイカは?」


「お祭りにやったわよ。若い子にこそ

ああいう行事には参加してもらわなきゃ。」


・・・最もザイカが何歳かは知らないけど。


「練習はどうした?イーシュトライン侯爵様もおいでなんだろう?」

お爺さんが聞いてくる。


「人も増えてきたし、私も必要なさそうで・・・

一旦戻ってきたのです。」


「・・・フィヨナさんのいうとおりだがね、

じじいは、若い奴らが生き生きしてるのが一番嬉しいんだ。

特に、見応えの有る、若いもんがね。」


フェリクス爺ちゃんは

ユーリの様子がおかしいことに気がついたのか

急に語り始めた。

お爺さんはユーリと持っている楽器を見て続ける。


「噂には聞くよ、ツインコルダは。

和音は出ないから、伴奏向きの楽器では無い。

他の楽器との相性は難しいが

艶のある音色だ。

あんた、ソロでやりなさい。」


・・・突然何を言い出すかと思えば。


「ソロ?」


フェリクス爺ちゃんがうんうんと頷いて。

「少なくとも主旋律の楽器だ。」

と言う。


「それはちょっと・・・」

もちろんそんな実力も、気力も、度胸も

ユーリには持ち合わせていなかった。


「それが出来ないなら

皆と上手く馴染ませるしか無いわな。」


フェリクス爺ちゃんはにっこり笑う。


「やはりそう思いますよね。」

バタンと、扉が開いた音がして

サムエルがツカツカと入ってきた。

しかも控え室から歩いてくる。


ユーリはギョッとした。

ついてきてたのか。

いや、何で先回りされてる?


そしてどこまで聞いていただろうか。


「メンバー増えちゃったから

ユーリのパート変えようかなって。

譜面、家に取りに行ったんだ。

主旋だけの楽譜あったから

ユーリはこれ弾いてよ。」


譜面をユーリに押し付けてきた。


「でも、イーサン閣下もいらっしゃるのに

そんな私ごときが・・・」


「もう関係無いでしょ。

最後、踊り手も増えてたぜ?

僕だってペアの舞踏なんで聞いてないけど!?

もうそろそろ打ち止めにしないとパンクするよ。

あとそう時間も残ってないし。」


「ほら行くよ!」

サムエルは1人で扉を出ていく。

ユーリは事態を飲み込めずにいると


「遅い!」

とまた声がかかる。


フィヨナお婆ちゃんとフェリクス爺ちゃんへの

挨拶もそこそこに

ついていくしかなかった。


2人とも温かい眼差しで見送っている。

その顔はやめて欲しい・・・


村役場へ戻るとまた人が増えているように思える。

これ、弾いたとして

ツインコルダの音聞こえるだろうか。


パンッと


突然サムエルは手を叩いた。


「皆さん、集まって!人が増えすぎたので、編成立て直し!」


場の空気が一瞬で変わる。

サムエルはすぐに即興のオーディションも始めてしまった。


皆、素直にそれに従っている。


サムエルは、舞踏家と言いつつ

指揮者なのだと


ユーリは悟った。

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