42. 収穫祭前夜祭
第150回リトルウィング村収穫祭
本日はその前日である。
収穫祭は、人々が豊作の収穫期を祝い
一年の労を労うお祭りである。
リトルウィングは周辺に
エルフ、トロル、小人、ドワーフの自治区が混在しているので
年に一回の交流もかねて
他種族間合同で行われるのが伝統であった。
開催場所はそれぞれの自治区をローテーションするのだが
今年はその記念すべき150回目
このリトルウィング村で行われる特別な会であった。
小羽屋もありがたいことに
そんな影響を頂戴し
この前後一週間は連日満室御礼を記録している。
他族種のお客様も多くいらっしゃった。
お客様は連泊の方が殆どなので
ほぼ接客対応が必要がないことと
ザイカの協力もあり
ユーリは収穫祭を楽しめ・・・
否、抜かりなく収穫祭の準備に駆り出されている。
・・・今日は一旦ザイカの退職については
考えるをやめておこう。
例の演舞だが
サムエルとだけは何度か合わせることができた。
本番前日の今日初めて、共演者の
騎士アルト、魔法使いクラウド、神官クロエ
が到着したのだった。
しかも、問題の太鼓の達人は
明日の本番直前にしか
合わせることができない。
本日の練習場所は小羽屋食堂。
ここには余興のための細やかな舞台があるのであった。
バックには大きな窓があり
昼はルミナス地形の絶景が
夜はライトアップされた造園が見える。
ユーリも久しぶりにここが稼働する所を見て
嬉しく思っていた。
ご無沙汰であった御一行は相変わらずで
騎士アルトは本日もイケメン・・・体調も良さそうである。
魔法使いクラウドは余裕の笑みを見せつける。
神官クロエは優しく美しい。
ユーリにと、また美味しそうな王都のお菓子を
持ってきてくれた。
皆ユーリのツインコルダに興味津々であった。
聞けばこのバンドは結成20周年とのことであった。
アマチュアとは思えない演奏ぶり
サムエルの動きと合わせると
更に素晴らしい総合芸術になっている。
・・・ユーリは、ついていくので精一杯であった。
何回かの合わせが終わり
ユーリがげっそりとしているのを見て
クロエは
「こう言うのは肩の力を抜いて、楽しめばいいの。
ちょっと間違えたって、目立たないわよ。」
にっこりと笑う。
「そうそう、1人で注目を浴びなくていいのがバンドの良いところだ。
数が揃えば、それらしく聞こえたりするものさ。」
クラウドもフォローする。
「ツインコルダがあるだけで見栄えしますし
皆さんにとっても貴重な体験です。」
アルトもうんうんと頷く。
ツインコルダは単旋律の楽器であるが故
ソロか主旋律を奏でることが多い。
この様なセッションには向いていないのだ。
しかし、今回はクロエの言う通り
この場を楽しむ、と言うことも
ユーリの目標であったため
卑屈な考え方は引っ込めることにした。
一通り練習を終えたところで
勝手に前夜祭が始まった。
ユーリも、参加せねば、とは思いつつも
明日の段取り確認をせねばならなかった。
やむなしにノンアルコールドリンクで参加することにした。
クロエやアルトが王都で買ってきたという
上等なワインが目の前で飲み干されていくのを
談笑しながら眺めていた。
「これちょっと持って帰って飲みなよ。」
と、サムエルは少しずつ残して瓶を置いていく。
「ありがとうございます。」
・・・しまった、物欲しそうに見えたか。
と反省しつつ
もらっておくことにした。
突然クラウドがユーリに絡み始める
「支配人ちゃん!飲んでる?
こいつが散々押しかけて迷惑かけてるだろ!?
このワーカーホリックについて行ったら
体がいくつあっても足りないよな?」
サムエルがうるせーぞとクラウドを小突く。
そうですね、なんて絶対言えないので
「いえいえ、サムエルにこそいつも迷惑をおかけしてるので・・・
感謝しかしておりません。」
と当たり障りない返答しかすることしかできなかった。
しかし、もちろん嘘ではない。
話題を変えよう。
「サムエルとクラウド様はとても仲が良いんですね。」
「こいつがこんなちっこい子供の頃から知ってる。」
サムエルが偉そうにする。
「まあサムエルは140歳のじーさんだもんな」
サムエルはクラウドをバシッと
本気でぶっ叩いた。
悪い悪い・・・とクラウドも降参する。
「あ、結構お若いんですね。」
とユーリの正直な感想だった。
クラウドとサムエルがえ?
と言う顔をしたので慌てて付け加える。
「すみません、もちろん
私など赤ちゃんに見えると思いますが
サムエルは、エルフの方ですし。
私の想像よりは、と言う意味です。」
エルフは寿命が存在しないと言うことなので
ユーリが通っていた学校の先生エルフには
ざっと1000歳と言う方もいた。
この収穫感謝祭が開かれたきっかけには
多種族連盟と言う、主に光の民と呼ばれる多数派の種族が中心ではるが
様々な種族の者たちが仲良く暮らすための同盟
多種族連盟なるものが発足し
種族間同士の交流が盛んになったことを祝う目的もある。
例の四大陸多種族共同裁判所が発足されたのもその時期だ。
このシステムより後の世代に生まれたと思えば
意外と若い。
サムエルの柔軟な発想はその若さと
エルフならではの経験値なのかと
ユーリは納得した。
サムエルが不意にどこかへいなくなると
クラウドが隣に座った。
グラスのワインをスイスイ飲みながら
話しかけてくる。
「宿経営ってのも大変だよね。毎日拘束されるし。
遊びにも行けないでしょ。」
「そうですね
そういう点では経営に
向き不向きがありますよね。」
「変な客とかいない?」
「うちは、少ない方だと思います。
私も経験が少ないので、勉強になります。」
そんなにここの業務が気になるのだろうか。
クラウド様は色々と聞いてくる。
とにかくー問ー答の様に返す他無かった。
「・・・サムはさ、強固な様で
情に脆いし、変に面倒見が良くて。
ちょっと粘着質だ。」
「そうですね、そう言う所に。
いつも助けていただいてます。」
急に話が変わったが・・・めっちゃ分かる。
ユーリは、クラウドのサムエルの理解度に敬服した。
さすが付き合いが長いだけある。
「昔から派手に立ち回るけど
一途な奴だから心配なんだよ。
貢グセあるし。」
クラウドはじっとユーリを見る。
ユーリは居た堪れなくなり下を見る。
「それは意外です。」
本心だ。
「いつも変な女に引っ掛からないかが心配なんだよね。」
クラウドはまだまっすぐユーリを見つめながらワインを仰ぐ。
ユーリはクラウドが何が言いたいのか
また、何がしたいのか
ここでようやく理解した気がした。
「クラウド様、幼馴染として
ご心配なところがあることは
十分理解します。
貸付をしていただいていることも事実です。
しかし、私たちはこうして四大陸多種族合同裁判所定型の
契約の元、貸付をして頂いてますし
私だって、皆様を敵に回したくありません・・・」
言い訳がましかったろうか。
しかし、事実であり
ユーリの精一杯誠意を持って対応した。
クラウドは驚いた顔になった。
が、直ぐに吹き出して笑った。
「ハハハ、ごめん!違うって!
別に支配人ちゃんのことは、疑ってないよ!
その点で君は安心して見てられる。
今のは、愚痴だと思って忘れてよ。」
クスクス笑いながら
ワイングラスをもう一つ用意した。
「ワイン一杯くらいじゃ酔わないだろ?
ちょっと付き合ってよ。」
どれがクラウド様のの本音だろうか。
ユーリにはわからなかった。
しかも要らぬ恥をかいた様で
腑に落ち無い。
人間関係ってやはり疲れる・・・
ここで断るのもどうかと思ったので
高級なワインはありがたく頂戴することにした。




