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39. 宿屋番付と収穫祭

お客様が宿泊を経験した感想を公示し

それを見ながら宿屋選びができるシステム

イーシュトライン宿屋番付が

本日リリースされた。


イーシュトライン観光組合(ギルド)に加盟している任意の宿屋

合計5箇所

役場の掲示板に掲示され始めたとのことであった。


小羽屋はもちろんのこと

ルミナス高原牧場、その他小規模な民宿も参加しているらしい。


意外なのはそこにアーバンウイングインの名前が無い事だった。


「ギャーギャー言ってたからどうするかと思ってたけど

結局やらないんだな。

でもイーシュトラインの観光組合って冒険者組合の

すぐ隣にあるんだぜ?

いい広告になるのにね。」


夜分も12時になっていた。

サムエルは今日はこっち側には来ない。

鏡の向こう側での立ち話になっている。

サムエルは何か書き物をしながら話していた。


サムエルは

先ほどユーリが久しぶりに作った

ルミナストラウトとポテトのフライ

リトルウイング産のジンを渡したので

姿は見えないが向こうで食べて飲んでいるものと思われる。


ユーリとて相変わらず帳簿をつけていたところだ。

今月はようやく黒点突破なるだろうか・・・

現状はゴンゴルドインパクト時に出た利益を

切り崩している状態である

相変わらず資金繰りに頭が痛い。


サムエルは失笑して言う。

「でもあの有様じゃ、ネガティブキャンペーンになるかもね。

一度ユーリも暇作ってイーシュトラインに見に行きなよ。」


「何にせよ、朝食オペレーションが確立したのと

虫問題が収束してからで良かったです。」


虫がうじゃうじゃいます、なんて書かれた暁には

それこそ、この宿のネガティブキャンペーンである。


ここ最近は、ルミナス山の紅葉もあって

連日満室に近いお客様をお迎えしていた。

送迎と安全性において

サムエルが宣伝してくれたおかげであろう。


そしてサムエルは宿屋番付のリリースにあたって

この良い時期にある提案をして来たのである。


「宿屋の価格を下げて兎に角人を集めよう。」


ユーリとしてはこの紅葉のシーズンが一番

リトルウィング村の需要があり

高値で宿泊料金が取れる時期であると期待していたのだが。


「価格が低い方がお客様の満足度が上がるだろ?

最初はそれで高評価を稼ぐんだよ。

後々のために今は我慢の時だね。

おいおい値段は上げていこう。」


とのことであった。

理屈は理解できる。

長期的な売り上げ向上を狙った作戦なのだ。


しかし、サムエルのこういった頭の回転の速さ

応用力、発想の転換には

いつも驚かされる。


そんな戦略もあってだろう。

小羽屋は今ゴンゴルドインパクト以来久しぶりの

満室御礼

という快挙を成し遂げていた。


この、久しぶりの忙しい悲鳴を上げている最中

ユーリは少々めんどくさい事案を

抱えていたのである。

ユーリは切り出すことにした。


「サムエル、お願いがございまして。」


「・・・何?」

嫌な予感がしたのか

サムエルがこっち側に現れた。


ユーリは先日リトルウィングのモーリス村長と話した時に

とある頼まれごとをしてしまったのである。


「毎年収穫祭は侯爵様もいらっしゃるんだけど

イーシュトライン観光組合(ギルド)発足もしたでしょ?

今はほとんどリトルウイングの宿しか加盟してないからさ

リトルウイングのために設立した様なものじゃない。

今回の収穫祭は150周年て言う節目だしさ。

せっかくだから、サムエルさんに

演舞頼めないかなって・・・」


イーシュトライン観光組合(ギルド)の結成を

侯爵閣下の前で、発足人のサムエルと一緒に

リトルウィング中心でやってますと公示出来れば

という具合であろう。

その組合長も仮にではあったが

この村長が担っている。


やはりこの方は、政治家だ。


それでも、あの優しく腰の低いモーリス村長は

偉ぶると言うことを知らない。

ユーリの様な小娘にまで

丁寧に、頼み事をしてくる人であった。

これは邪険にもできまい。


「地域の人たちの合唱とか、楽器演奏とか、その大トリに是非

村長切っての頼みなんです。

こうしてお手紙ももらっておりまして・・・」


預かっていた正式なオファーの手紙を渡す。


「踊ると言ってもね、何やれば良いのさ。

て、え!?後一ヶ月くらいじゃないか!?」


問題はそこなのだ。

例の観光組合(ギルド)の縁で

サムエルを呼ぼうって決めたのだから

村長も急遽思いついたことだと思われる。


「何でも、サムエルが今一番やりやすい演目で良いそうです。

1演だけでも良いので。

最悪、遊びにいらっしゃるだけでもと申しておりました・・・」


最後の一言は嘘である。

しかし、ここはやむを得ないのではないかとユーリは思う。

モーリス村長に次回はもっと早く言ってくださいと

言うしかない・・・


サムエルはうーんと唸る。


「いきなり村伝統の豊年踊りしろって言われたら

即、断ってたけどね。

何でも良いなら・・・いいよ。やるよ。」


「ありがとうございます!!」

ユーリは土下座せんばかりであった。


「僕は良いとして、音楽はどうするかな・・・

まあこういうところだから、またあのメンバーでいっか。

ユーリ何か楽器弾けないの?」


サムエルは冗談で聞いたつもりなのだろう。

・・・そしてユーリも

こういう時嘘がつければよかったのだが。

馬鹿正直に答えてしまう。

実は一つだけ弾ける楽器があった。


「ツインコルダ・・・」


サムエルは聞いておきながら

かなり驚いた様子である。

ユーリが何か楽器を弾くと思わなかった様だ。


ツインコルダとは

四角く小ぶりな共鳴胴と長いネックを持つ

二弦の擦弦楽器である。

普遍的な楽器では無いが

女性の声に似た音色と称されており

一部愛好家が存在する

と言う話は聞いたことがあった。


「なんでそんなの弾けるの?

名前しか聞いた事無いんだけど。

確か、もっと北の方の民族楽器だよね。」


「全く覚えていないんですけど

私は大陸北端に近い島国の出身なんです。

闇の帝王との戦いで多族種軍が負けたところなので

今はもう実家も何も無いですけど。

その影響で両親は西へ出稼ぎに行って

私は王都近くに住んでた遠縁の

フィヨナお婆ちゃんに育てられて・・・

って、この話したこと無かったでした?」


「初めて聞いたんですけど。」

サムエルは神妙に聞いていた。


これは特別隠している事では無かった。

ユーリにとっては当たり前過ぎる情報だったので

誰に話したとか、話してい無いとか覚えて無い。

ただそれだけの事であった。


「両親が疎開する時

直ぐ持ち出せそうな、金目のものが

唯一その楽器だったそうですよ。

どれだけの価値があるかは知りませんが。

結局売らずに私が持ってるんですけどね。

今もたまーに触ったりしますよ。暇な時は。

でも、すみません、言っておきながらですが

人様にお聞かせする様な実力では・・・」


「ちょっと聞かせてよ。」


ユーリは早速自分が喋ったことを後悔した。

サムエルは話を聞いてくれていないし。


「僕だって急に踊らされるんだから、良いじゃないか。」


しつこかった。


ユーリは仕方無しに自室から楽器を持ってくる。


最近は忙しすぎたので

ほとんど触っていないですが

と言い訳をつける。


ツインコルダは俗称で

二つの弦と言う意味である。

この楽器は二つの弦に左手を添え音階を作り

弓で擦って音を出すものだ。

本当の名前は、実はユーリも知らなかった。

両親ならわかるはずだが・・・

それだけユーリには故郷の記憶が無いのである。


記憶が無いので不便にも思ったことがないし

そもそも自分の故郷はフィヨナお婆ちゃんと

養父のゴルムおじいちゃんと暮らした

王都郊外の街であると考えている。


しかし、幼少期、時折出稼ぎ先から会いにくる

両親から教わった伝統の曲だけは知っていた。

確かこれは

月明かりに照らされて

夜の景色が朧げに輝いている

と言う情景を歌った曲であった。

今日の夜空に相応しい曲であると考えた。


一通り演奏を終えたが

久しぶりに楽器を触ったせいか

全く納得いかない演奏になってしまった。


「サムエル、ダメです。忘れてください。」


サムエルの方を見ると

何とも判断の付かぬ顔をしていた。

下を向いているからかもしれない。


パッと顔を上げると

意外にも笑っていた。


「良いんじゃない?何か異国情緒溢れてて良い感じだし

そもそも楽器が珍しすぎて

上手いとか下手とか分からない!!」


・・・その通りなのだが。

少々癪にさわる言い方である。

しかし、演舞をお願いしている手前

何も言い返せない。


「もう一曲聞かせて!そうしたらもう帰るから。」

子供のようにサムエルは強請ってきた。


「・・・もう一曲だけですよ。」


次の曲は

子供が生まれて

神様の様に愛おしく想う

親心を歌った曲で、子守唄である。

幼少期のうたた寝のユーリに

聴かせていたのであろう。

脳裏にこびり付いている様な

曲でもあった。

流石にこれはうまく弾けるはずだ。


演奏を終えサムエルを見ると

やっぱりニコニコしていた。

何やらやたらと嬉しそうである。


「それじゃ、この演舞はユーリの演奏も参加決定ね!

詳細は追ってご連絡しまーす!」


じゃあね!と言って

挨拶も早々に相変わらずの速さでサムエルは帰って行った。


・・・は?サムエルの演舞に合わせて演奏?

仮にもプロの舞踏家と??


ユーリは数十分前の自分の浅はかな言動を

酷く後悔した。

ツインコルダは胡弓、二胡、馬頭琴をミックスさせた様な楽器をイメージしてます。


北斎の娘、葛飾応為作とされる

三曲合奏図の、胡弓の方がずっと好きで憧れております。


私は、色々ご縁もあり

現在は、二胡をやっております。

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