38.5 カップルの旅行
本日チェックインのお客様を確認する。
以前よりお手紙でご予約いただいていた方だ。
とても丁寧なご連絡を頂いていた。
“小羽屋支配人様
今回XX年xx月xx日チェックイン
XX年xx月xx日チェックアウト旅程
5泊
2名で利用させていただきたいです。
この春結婚しましたので、新婚旅行です。
妻は小さい頃小羽屋に泊まったこともあると申していました。
私は初めてお伺いするのでとても楽しみにしています。
トビアス・バイエル“
ユーリは手紙を読んでさまざまな感慨に耽っていた。
新婚旅行に当宿を選んでいただけるなんて光栄すぎる。
奥様はお子様の時に来たと言うことは、ユーリと同じ境遇である。
親近感がすごい。
しかも結構な連泊、本当にありがたい。
ユーリの頭の中のでは
若い夫婦が既にリトルウィング観光を楽しんでいた。
勝手にユーリはこのお客様に会える日を楽しみにしていた。
チェックイン当時、ザイカの高速馬車に揺られて
現れたバイエル夫妻は
爽やかでにこやかなトビアス様、
これまたさっぱりとした雰囲気の可愛らしい新妻のヴァイオレット様。
2人とも時々お互いを見合いながら
ニコニコと話をしてくれる。
新妻のヴァイオレット様は小さい頃の話もしてくれた。
ユーリとも楽しく話をしてくれた。
2人とも人当たりが良く、何事にも丁寧な方であった。
ユーリは新婚旅行と聞いていたので
ささやかながら、リトルウィング村産のライムジュースをプレゼントし
タオルアートの白鳥をベッドに施していた。
この日のために練習したのだ。
これは、サムエルの入れ知恵で
気の利いた宿屋では、こうした趣向のおもてなしがあるとのことである。
一度チェックインし、廊下で出会ったバイエル夫妻は
タオルアートにとても感激してくれていた。
翌日の朝食にはお姿が見えなかったが
その日の夜に、明日は噂のお粥ビュッフェを楽しみにしています
と、夫婦揃って、ユーリに伝えてくれた。
次の日の朝、この日の朝食準備はザイカがしてくれた。
朝食提供後に一通り引き継ぎを終えると
ザイカは言いにくそうに、小声で話し始める。
「あの、2卓にいたバイエル様・・・?
あの2人って夫婦なの?」
お客様の情報は全て共有している。
「うん、新婚旅行だって。
お祝いのプレゼントもしたよ。」
ザイカはザイカで、え?と驚いた。
「新婚!?
・・・だって、朝食中、一言も喋らないし
何なら奥さんの方ちょっと泣いてるし。
旦那さんの方はずーっと無表情だし・・・
どうしちゃったのかなと・・・」
ユーリは急に背筋がゾワソワとした。
何があった?
あんなににこやかで、幸せそうで
雰囲気の良いご夫婦が・・・
ユーリは次の日も次の日も
いつもなら控え室でする事務仕事を
カウンターにいて、行っていたのだが
あのバイエル夫妻を目撃することがなかった。
とはいえ、100パーセント張り込んでいるわけではないので
その間に出入りされているとすればわからない。
しかし、夫妻はそれ以降朝食にも来ていない様だった。
そして迎える、バイエル夫妻のチェックアウト日の朝。・
ユーリはカウンターで
もやもやとした気持ちを抱えながら
立っている。
最終チェックアウト時間の5分前
トビアス・バイエル様がいらっしゃった。
「快適に過ごせました。ありがとうございます。」
ニコニコ笑っていたが
どこか、げっそりとしている。
心なしか目の下に隈も見えた。
その様子にユーリは流石に心配になって
「楽しめましたか?」
と聞いてしまっていた。
トビアス様は一層にっこりと笑って
「ええ!とても素晴らしい宿でした!妻も大層喜んでいました!
また是非利用させてください!」
一見好意的な感想だったが
丁寧なチェックイン時の対応と比べると
空元気、というか、かなり大きな声を出していて
ユーリもビクッとなってしまった。
その、新妻ヴァイオレット様の姿は結局のところ
例のザイカが不審に思った朝食の日以降
目撃されることはなかった。
ユーリは不思議というか
相当不気味に思っていた。
何か事件でも起きたのかと、不安にもなる。
トビアス様が玄関扉の外に出る時
扉を開けてくれたハチが
入れ替わりに入ってきた。
「あいつ、酒臭ぇな。
まあ、嫁さんにあんだけ言われたらな。」
ハチは呆れたように呟く。
「・・・ん?何かあったの?」
どうやらハチは何か知っているようだ。
「ああ、3日前くらいだったか?
真夜中酷く口喧嘩してたぜ。
最初は些細な口喧嘩だったみてえだが
段々発展してきちまって。
最終的には、嫁さんが元彼とまだ続いてるとか
旦那が浮気してるとか
結構な剣幕になっちまってたな。
その日は一応部屋に帰ってたが・・・
あの様子じゃ、嫁さんは何日か前の
早朝の乗り合い馬車に乗って
先に帰っちまったんじゃねえかな。」
ハチは渋い顔になる。
ユーリは目をぱちくりさせるしかなかった。
あんなに仲が良さそうだったのに??
「旅先ってのは、アベックは喧嘩しがちなのさ。
慣れない土地、テンションが上がっていつもとは違う相方
段取りの取り方の違いが浮き彫りになったりな。
新婚旅行で喧嘩して
そのまま離婚っつー話もままあるらしいぜ。」
うんうん、とハチは1人で納得していた。
新婚とはハニームーンと思っていたし。
勝手ながら、バイエル夫妻の新婚旅行を
楽しみにしていたのに・・・
便乗とはいえ
ユーリの方が新婚気分が抜けていない気分であった。
ユーリはとんでもなく複雑な気持ちになった。
ユーリエ・ローワンキャラデザ
AIさんと一緒に再デザインしました。
大人しくて何事にも動じない様に見えますが
心の中が騒がしいタイプ。
何度リボンを赤くしてと言っても聞いてもらえず
ここだけ手書きです。
イメージカラーは青。




