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37. 殺虫魔法

季節はいつの間にか秋も本番になっていた。

ルミナス山一体に生えるコキアナナカマドの木は

紅色に紅葉を始める。

山全体が赤く染まった様で

この時期のリトルウイング村は大変に美しい。


栗、胡桃、スターナッツという木の実

森イチジク、カカポペア、ブドウと言ったフルーツが

旬を迎える。


ルミナストラウトもこの時期は脂の乗りがやや落ちるものの

身の味が良くなると評判である。


様々なキノコも生え始めるが

キノコの毒の有無の鑑定は

魔法を持ってしても難しいとされるので

ユーリは生えている物を取ったりはしない。


朝食お粥の付け合わせになるものや

デザートに良いフルーツが多く出回り

献立作りには困らない良い時期である。


来月の初旬には収穫祭も行われる。

一年のうち最もリトルウィングが活気付く時期でもあった。


ユーリ考案、サムエル発案

ルミナス高原牧場のお爺さんが命名した

“イーシュトライン宿屋番付”

新設されたイーシュトライン観光組合で実施されることとなった。


例の第一回会合の数日後

九の子、おもちの不妊手術をお願いしに

ルミナス高原牧場のお爺さんを尋ねたところ

教えてくれた。


ちなみに、お爺さんに

ハチって、ケット・シーだったんですけど・・・

と聞いてみたところ


「ケットシー?何だいそれは?

猫は猫、馬は馬、だ。

しかし時々とても賢くなる子は現れるね。」

としっかりとした口調でいう。


やはりこのお爺さんはただものではないと

改めて敬うことにした。


そんな良い季節の最中であるのに、また事件は起きた。


ユーリが早朝お粥朝食の準備をしていたところ

若い女性のお客様がパニックになって

食堂に現れた。


「ニオイムカデが!ニオイムカデが!」

とのことである。


ニオイムカデ


ユーリも時々庭を歩いているのを見かける。

この魔物は、体長20cm,太さは5mmほど。

細長く小さい魔物である。

毒は無く、人を襲うことは無いが

名の通り臭い。


お客様に言われるがまま

客室へ着いて行くと


扉を開けた途端

土臭い、と言うか

青臭い、と言うか

芝刈りの後の匂いを

100倍凝縮した様な匂いがする。


中を見ると

白いはずの小羽屋の壁が

疎に黒くなっている・・・


否、壁をびっちりと

ニオイムカデが蠢いていたのである。


無害とはいえ

流石のホラーすぎる光景を目の当たりにし

ユーリには理由もわからなかったが

お客様に平謝りすることしかできなかった。


お部屋替えはもちろんのこと

宿泊代金を全額返信せざるを得なかった。


その後も1ヶ月内に3件同じことが起きた。


この秋は雨が多く虫系の魔物が大量発生していると

後に牧場のお爺さんが教えてくれた。


トムテのヒーロに相談したところ

「掃除中にも沢山、沢山

回収していますの・・・

殺虫の魔法を施してもおります。

雨が降る日は後から後から

隙間から出て来ますわ。

中で魔法が効いて

結局の所、中で死んでしまうのですわ。」

ヒーロは申し訳なさそうに言う。



「もう結界強くするしか無いでしょ。」



あたりまえだ、との如く言うのは

サムエルである。


その日も日付が変わる頃

もうユーリが帰ろうとしていたところ

転移の姿見鏡から颯爽と現れた。

夜も遅いので今日はスナック菓子とワインを持っきていた。

本日のお酒の付き合いは、丁重にお断りをしたので

サムエルは勝手に赤ワインを飲んでいた。


ユーリは学生時代

魔法陣研究をしていた者の見解として

真摯に回答する。


「魔除けの大結界は問題なく機能していると思います。

大概の魔法陣は、魔力の強弱に関わらず

等しく魔法を発動できる様に設計されているので

私の魔力不足が問題では無いと思います・・・

もし、魔法陣自体に問題があるとすれば

もしよろしければマリーン先生を呼んで・・・」


「そこじゃないと思うよ。」

サムエルはユーリの弁解を制止した。


「魔除けの大結界が何かは僕も知ってるよ。

それよりもっと強い結界がないか?ってこと。」

サムエルは、丁寧に訂正する。


ユーリも猫がこの大結界を突破する件についても

一抹の不安を覚えていた。

それ以来ずっと考えていたことがある。


「基本的にはあの大結界は魔除けなんです。

ああ言う類の無害な虫は避けてくれないんです。

もし外部から何もかもを通さない奴

と言うことでしたら

博物館で使われるみたいな時空遮絶結界を張って

結界の中の時空を遮断して・・・

でもそうすると粒子が止まるから

人が動くと粒子レベルのミンチになる・・・

空気穴を作ればいいのか?

いやそれでも空気が流れないから

呼吸のために空気穴まで行かないと・・・」


サムエルはブハッと吹き出し笑った。


「や、それ、もはや宿屋として機能してないよ。」


ユーリも、思考がバグったことに気づく。

思い詰めすぎて、本末転倒もいいところだ。


そうか、自然のことなら、適人がいるじゃないか。


「トロルのモメラスに、話を聞いてみたいです。」


「モメラスって誰?」


サムエルは急にものすごく不機嫌に聞いて来た。

以前、温泉発掘の話と

定期的に庭の管理をお願いしていることは

伝えたと思ったが・・・


話すより、直接会ってもらったほうが早いと思ったので

翌日ハチに頼んで、モメラスを呼んでもらうことにした。

サムエルは明日朝早く仕事だから、とか言っていたので

モメラスに朝早くに来てくれないかと頼んでみる。


翌早朝モメラスは快く来てくれた。


2人のファーストアタックは

思ったより良い感じに歓談を始めたので

ユーリはとても安心した。


モメラスは一連の問題を聞いてからこう答えてくれた。


「ニオイムカデは、人を襲うことはしないし

力もものすごく弱いんだけどね。

落ち葉を食べて分解して土に還すから

生態系には欠かせない存在だし。

大結界からは、中の循環には必要な存在として

認識されてるんだろうね。

泳ぐことができないから

雨が降ると壁を登る習性があるんだ。」


ユーリもサムエルも

へーっと話に聞き入っていた。

そう言われると今度は

ニオイムカデに対して

何か別の愛おしさにも似た感情が芽生えてくるのを

ユーリは覚えた。


否、あの臭さにはやはり耐えられない。

お客様への宿泊費返金ももう懲り懲りであった。


モメラスはユーリの心情を察して提案してくれた。


「まあ、臭いし見た目が気持ち悪いよね。

俺も庭を殺虫する魔法だったら心得がある。

ニオイムカデは土に住んでて、水に弱いから

ノーム(大地の精霊)ウンディーネ(水の精霊)

強力してもらわないと。」


「全滅できるの?」

サムエルがすかさず突っ込む。


「・・・全滅はさせられないけど

部屋の壁一面にいました。

なんてことにはならないはずだよ。」

モメラスはにっこり答える。


ユーリはその時

バチっと光るものが、一瞬

モメラスとサムエルの間に見えた気がした。


しかし、2人ともにこやかに話していたので

気のせい、と思うことにした。


モメラスは、早速やるねと

しゃがんで地面に手をつけて

何かの詠唱を初めた。

数分後、終わったのか静かに立ち上がる。


「これでしばらくは大丈夫。

また三ヶ月後に同じことしに来るよ。

ユーリ、草刈りは来週また来るからね。

サムエルも、お話ができて嬉しかったよ。

お会いしたかったんだ。また会おうね。」


と言って、爽やかに去って行ったのだった。


その晩、雨が降っていたが

部屋にニオイムカデが現れる事は無かった。


しかし、窓を開けると庭からは

例のニオイムカデ特有の匂いが強烈に漂っていた。

おそらく、モメラスの魔法で殺虫されたニオイムカデが

放っている匂いである。


夜に再び現れたサムエルは

その匂いに眉を顰めながら

たまらない、と言う様に苦言を呈していた。


「モメラス?の言うことも分かるんだけどさ

この匂いは宿屋としてダメだって。

やっぱりトロルの自然主義を鵜呑みにはできないよ。

クラウドから何なら虫を全部テイムさせて

ここに来させない様にする方法とか

聞いてくるから。」


と言って、あっという間に帰ってしまった。

何やら酷く剥れていた。


・・・そういえば

イーシュトライン侯爵お抱え魔法使いのクラウド様は

ナメクジをテイムしたことがあるんだっけ。


少々それには期待してみたい

とユーリも思った。

















挿絵(By みてみん)

カカポペアのイメージ図

フワフワのラフランス。

キウイみたいなイメージ。

キーウィもカカポも可愛いですよね。

ニオイムカデは・・・

まんま現実世界にいるあの虫です。

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