35. 朝食お粥ビュッフェスタイル
ユーリは次の日の晩、早速ヒーロに、例のお粥を
小羽屋の朝食として提供して良いか打診することにした。
いつもの夜の厨房である。
「・・・考えてもみませんでしたわ。
このレシピが他の方にも好評何て言うのは。」
ヒーロは困惑していたが
心なしか嬉しそうに見える。
「実際かなり美味しいよ。
オートミール系のミルクが入ってるお粥は
私実はちょっと苦手でさ。
ヒーロのお粥は、バッチリ食事って思える。」
「そうおっしゃるのでしたら・・・」
ヒーロは耳をパタパタさせてから
こう言う。
「私のレシピ、と言うのは
他言無用にしていただいて
それでしたら問題ありませんわ。」
ユーリは少々ギクッとした。
実は、サムエルが
「トムテのお粥と言って売り出せばさらに売れそう!!」
みたいなことを言っていたのだ。
その案は早々に御破算である。
何にせよレシピ考案者からの許諾は穏便におりた。
あとは提供方法でだ。
ユーリはこの際であるから
よりオペレーションを楽に
お客様にも満足できるようなシステムを作りたいと
頭を捻らせた。
今日は仕事終わりに、ドワーフのザイカと一緒に考える。
「まあ、ピザの反応は薄々知ってたよね・・・
サムエルさんが気づいてくれて良かったよ。」
ザイカ安心した顔をしていた。
例のお粥の味はもちろんザイカも知っている。
・・・実は、賄いにたくさん食べてもらっている。
「朝食にお粥って、想像つかなかったけど
考えてみれば、重くならないし、いいかもね。
例えば薬味とか具を工夫すれば
もっと食事っぽくなるんじゃない?」
ユーリは考える。
「このオペレーションがいい点は
ヒーロの報酬の食品ロスを大幅に改善できる点だからね。
そこからは外れない様にしないと。
味変えちゃうとヒーロ怒って・・・
気に触るみたいだし。」
危ない危ない、何が地雷かがわからない以上
言葉を選びながら発言しなければ。
「コボルトね・・・今はトムテだっけ?」
ザイカはボソッと語り始める。
「実は、ゴンゴルド討伐中ね、コボルトを手中に収めた!
とか言ってた、ヤリクって名前で
ドワーフ戦士の知り合いがいたの。」
ユーリは、へえ・・・と
興味深げにその話を聞いた。
「コボルトと話がついた!
あいつら俺たちが思ってるより強え力を持ってやがる!
待ってろ!仲間に引き入れたら俺たちは無敵だ!!
・・・って言ってたんだけど、その次の日から
ヤリクのパーティ丸ごと
いなくなっちゃったんだ。」
ザイカが暗い顔をした。
「ゴンゴルドの仲間にやられたとかじゃなく?」
「可能性はゼロじゃないけど
その発言の次の日から見なくなっちゃったんだよ。
小羽屋にもよく来てたけどね。
弱いパーティでもなかったんだ。
ちょっと変だよね。」
ザイカは神妙に付け加える。
「だから、コボルトのことを侮ったらいけないってのは分かる。」
・・・ブランディングが成功しているのだなと
ユーリは改めてヒーロを尊敬していた。
しばらくうーんと、2人で考えていると
ザイカは何か思いついた様だった。
「あ、じゃあ追加の具とか薬味とかは
客様に自分で取ってもらえばいいんじゃない?」
ザイカは食堂にある低めの棚を指差す。
「ここにざっくり並べて、好きなだけ取ってもらうの。
そしたらかなり楽じゃない?」
「立食パーティみたいで楽しいね、それ。」
「特別感あっていいでしょ?
朝だし、皆欲張って取りすぎるなんてことは
しないと思うんだよね。」
ユーリは考えるほど
とても良い案の様に思えてきた。
・・・・・・
「中途半端」
その日の晩もサムエルが来たので
朝食の配置を試してもらっていた。
その感想であった。
一体何が中途半端だと言うのか。
鶏肉のほぐし身、ルミナストラウトの切り身
リーブラックオイスターのオイル漬け
松の実、コキアナナカマドの実を乾燥させたもの、チャイブ等々
薬味がとりどり盛られた皿を10種類ほど想定する。
ほぼ氷結させたものを温めたり
切ったりすればできる薬味である。
「どうせやるなら、調味料もいっぱい置いた方がいいね。」
サムエルは、続ける。
「中途半端なのはお粥の提供方法だよ。
ここまできたらとことんお客様にやってもらうスタイルが良いよ。
お粥はここドーンといっぱい置いとけないの?」
薬味が置いてある棚を指す。
「冷めちゃいますよ、それ。」
少々考えれば分かりそうだが。
「何かいい方法ないのかな、冷めても美味しいとか。
お粥食べ放題にするとか。
ピザより楽で満足度が高くならないと意味がない!
やっぱり、ただお粥出すだけだと
何だおかゆかってなるよ。
トムテの名前も使えないし。
ヒーロには悪いけどさ。」
サムエルはむしゃくしゃしている様であった。
自分が考えたピザオペレーションよりも
優秀でないと、認めたくないと言う雰囲気である。
そこはユーリもと同意見であった。
しかし現状では、今サムエルが言ったことを全て叶えようとすると
ピザ朝ご飯の方が美味しそうであるし
楽である気がしてくる。
「あ・・・」
ユーリはここで思い出したことが一つ。
釜戸を出現させる魔法陣の話を
魔法学校時代のゼミナールの先生から
聞いたことがあった気がした。
それを応用できるのではないか。
と思い立ったのである。
ユーリはサムエルに
王都でその先生に
手紙を出してくれないかと頼んでみた。
そのほうが絶対早い。
「僕をメッセンジャーにすんなよ!」
と、サムエルは怒っていたが
なんだかんだ引き受けてくれた。
その後、学生時代の恩師はすぐに返事をくれた。
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ユーリエ・ローワン君
お元気ですか?
エドルド魔法道具店に就職するか、私の研究室に残るか
迷っていた頃が懐かしく思い出されます。
結果的にリトルウィングに行くことになるとは!
私も、エドルド氏も非常に残念に思っていますが
それ以上にユーリエ君の事を応援していますよ。
ご所望の魔法陣に関する文献をお送りします。
参考になれば幸いです。
私も試したことがありますが
魔法陣は耐火性のあるものに描いてください。
紙に書くと、燃えてしまいます。
鍋によっては温まらないこともあるから注意が必要です。
私もルミナス山は好きですのでいつかお邪魔します。
頑張ってください。
カミーユ・マリーン
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カミーユ・マリーン先生は魔法陣研究者の中でも
かなり高名なお爺ちゃん先生であった。
丁寧に教えてくれて本当に嬉しい。
先生がここに来てくれたら本当に嬉しいのだが。
・・・にしてもこの言い様
エドルド魔法道具店の社長は
皆、知り合いなのか。
送ってくれた文献は古文書の一部抜粋であった。
二重丸がベースになった非常にシンプルな魔法陣。
中央に4本の直線からなる2文字。
たまに見る古代文字である。
普通この文字は複数の文字の組み合わせで意味をなすものだが
どういう意味なのだろうか。
そして鍋によっては温まらないとのことだが・・・
いや、今は考えてもわからない。
サムエルではないが、実験しなくてはならない。
本日のチェックインを全て終えて
夜の10時。
相変わらず外は秋の虫がうるさかった。
今日はサムエルがいないので1人で試してみる。
石板に魔法陣を掘る。
そしてここに魔力を込めると発動する。
魔力の込め具合で火力決まるらしい。
一見火が全く見えなのだが
水を入れた鍋を置くと徐々に沸騰してくる。
どうやら鍋自体の温度が上がる仕組みであるらしい。
厨房にある鍋も色々試してみた。
陶器、銅製のものは使えず
ザイカがいつか持ってきたドワーフ秘伝ステンレス製鍋と
鉄のフライパンは、使うことができた。
これを応用できれば
火を使わずともお粥の保温ができる。
大鍋の中にお粥を入れておき
お客様が自分でとって食べる。
究極のセルフスタイルの完成である。
問題はこの魔法陣を発動させるのには魔法使いが必要である。
ザイカは魔力を使う事ができない。
これを解消したかった。
翌日ザイカに相談してみる。
「ちょっと、厨房の自動ピザ窯を見せて欲しい。」
ザイカはそう言うと、10分ほどピザ窯を調べていた。
戻ってくるなり、装置を理解してきた様だった。
「あの中に、この魔法陣に似たやつが搭載されてて
中で大気中の魔力を自動で溜め込む装置があるんだね。
スイッチを押すことによって
魔法陣に魔力が流れ込むっていう作りみたい。」
・・・なるほど、そうなのか。
「大気中の魔力を自動で溜め込む装置は
私の力では自作は無理かな・・・
でも、ユーリがあらかじめ魔力を貯めておいて
それをスイッチとともに発動させる
って言う装置なら、頑張ればできそう。」
流石ザイカ・・・!
とユーリはまた頭が下がる気持ちになる。
「モメラスにも相談してみよう。
サラマンダーを配置させて置ければね。
それでも発動するんじゃないかなこの魔法陣」
やはり持つべきものは友であると
ユーリは感動に溢れていた。
結果的に、トロルのモメラス曰く、
「それはサラマンダーが可哀想なことになる。」
とのことだったので
ザイカの案が採用されることになったのだった。
楽に朝食を出したいがために生まれた
究極のエゴ機械は
サムエルにも
「この機械だけで売れそうなんだけど・・・」
とまで言わしめ、優秀な即席釜戸として小羽屋で活躍した。
朝食の方は、機械ができあがったところで
本格的にリリースした。
準備はヒーロの準備の片手間にできるので
今までに無いほどに楽である。
お客様の反応は、また例のノートを見ることにしよう。




