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31. 魔除の大結界

ケット・シーの八時半(ハチ)

夜間警備保障をしてくれることになった。


「簡単な結界だけ張ってくれ。

あとは俺が狩ってやる。」


と、見た目の可愛らしさからは想像ができない

渋めのバリトンボイスで

頼もしく宣言してくれた。


それならと

ずっと試したかった

魔除けの大結界

と言うものを張ることを考えた。


本当はこれを応用して研究をしたいと

ずっと思っていた。


この大結界は

大体の魔物や悪意を持った者を弾いてくれる上に

魔法陣を描き、一回発動すると

ユーリが何もしなくても

何も考えていなくても

寝ても覚めても

何ならユーリが死んだとしても

ずっと発動される。


問題は、この結界は普通の人やドワーフ、エルフ等にも効いてしまう事だ。

ここは宿屋なので

お客様までもが入れないのでは意味がない。


入口のほんの一部だけは

結界の範囲から

外に出さなければならない。


ここが決定的にザルだったので

ユーリは単純な民間療法的な

小魔物避けの方が良いと思っていたのだが

今回ハチが夜に警備をしてくれると言うのであれば

ユーリの妄想を実行に移して良いのかもしれない。


ハチにこの入り口を中心に警護し貰えば

問題解決、と言うわけだ。


実は、この構想自体はずっと持っていて

ユーリが小羽屋に来て割とすぐに

そっとその魔法陣は書き上げていたのであった。


そして次のピース。

この魔法陣の発動には

魔力の発動元となる"拠り手"

自然の精霊が必要であった。


基本的にこの大結界は

この拠り手となる精霊が消え失せなければ

破ることは不可能とされている。


ユーリは、この間ザイカとモメラスとで

ここまで引き寄せた温泉。

ウンディーネ(水の精霊)と、サラマンダー(火の精霊)ノーム(大地の精霊)

声がけをしようと思っていた・・・


「ぬるい。」


不機嫌そうに、ユーリの思惑を否定するのは

サムエルである。


ユーリは、あぐっと

フォークに巻いたパスタを

口に入れようとした所であったが

元の位置に戻してしまった。

何が緩いのか全く理解できなかった。


ユーリが食べているのは

サムエルの気まぐれクッキングにて作成された

ヌマエビとリーブラックオイスターの

トマトパスタである。

鷹の爪が入っているので

かなりピリ辛である。

非常に美味しい。

しかし頂けない。


「でも、温泉って四大聖霊の内、3つも

混在している自然物ですよ?

これを利用すしない手はないじゃないですか・・・」


「だからそれを大結界に利用するって考えが

緩いって言ってるの。」


対してサムエルは

パスタを器用に食べながら続ける。


「奴ら枯渇資源だからね?

気まぐれで、いなくなったりするんだよ?」


ユーリは王都の魔法学校で学んだ知識では

温泉を用いて

大結界を作る例はあったと思ったが・・・


枯渇資源か・・・

実際綱渡りなのかもしれない。

サムエルに言われると何も言えなかった。


見かねたサムエルは少々伝え方を変えてくれた。


「まあね、大結界って発想は良いと思うよ。

あと、君自分の属性とか人間性とか

もう少し良く考察してから

そう言うの選ぶと良いよ。」


「属性?人間性・・・?」

考えたこともなかった。


サムエルは慌てて付け加える。


「それは、自分で見つけるものだから!

とにかく僕は、大結界の拠り手に

あの温泉を使うのは反対。」


然りとてユーリは

最も良いと思っていた考えを否定されたので

次の案などすぐに思い付か合い。


ユーリがフォークに巻いたままのパスタを持ったまま

考え込んでいると

サムエルは堪らなくなったのか

ヒントをくれた。


「こう言う大結界には木を用いるのが一番効率がいいんだよ。

動かないし、長寿だしね。

結界の効果で病気とか虫とかもつかなくなるから

もっと長寿になるし。

お互いにとって良かったりする。

ここの庭木なら伐採されないだろうから。

まあそれでも寿命で枯れたら

その時は張り替えなきゃだけど。」


サムエルは何やら遠い目をし始めたが

バクバクっと、パスタを食べ始めた。


ほら、木、探しにくよ!と促すので

ユーリもまた慌ててパスタを食べ始める。


その後、サムエルとユーリは

小羽屋の庭へと繰り出す。


サムエルはすぐに、あーこれこれ

と言いながら一本の木を叩いた。


それは、ナナカマドの木であった。


2.5mほどの高さ。

この木はもともと、ユーリが幼少期を育った

フィヨナお婆ちゃん、ゴラムお爺ちゃんと一緒に暮らした

王都近郊の家の庭にあった木で


こちらに移住するときに

一緒に移植したものだった。

ユーリにとってもお思い出深い木である。


特徴的な房状のその実は

緑の葉っぱとは対照的に

ツヤツヤと赤く光っていた。

葉の方ももう時期紅葉するはずである。


「ナナカマドは燃えにくい一方で

炭になると火持ちが良くて

燃料として優秀なんだよ。」


急なサムエルらしからぬ発言に

ユーリは違和感を覚え

サムエルの顔を見ると


サムエルは初めてみるような

優しい顔をしていた。


「君にピッタリじゃないか。」


今日は夏が過ぎたものの太陽が強く日差しを注いでいる。

しかし、高原特有の爽やかな秋風が

その熱をさらって行った。


・・・


ユーリには

サムエルが具体的に何が言いたいのか

理解はできなかった。

何やら居心地が悪い気い。


しかし、そうか。

これが属性、と言う話なのか。


ユーリは打たれ強く

決して諦めない。


以前褒めてもらったことを思い出した。


またそれを改めて褒められているのではないかと

急に何かが閃いた。


「確かに、ピッタリに思えてきます。」

ユーリはそのナナカマドの木にそっと手を触れてみた。

幼少期のかつての思い出も返される。


サムエルがそう言ってくれた木なら

一緒に頑張ってくれそうな気がしてきた。


ユーリがナナカマドの木をまじまじと眺めていると

急にサムエルはズカズカと小羽屋の建物の方へと

歩いて行く。


「そうと決まればさっさと発動しといて。

僕、一旦王都戻るから。」


ユーリはあまりの動きの速さに

その背中を見送ることしかできなかった。

全く、サムエルは忙しい人である。


その後ユーリは抜かりなく

このナナカマドの木を拠り手にして

魔除の大結界を発動させたのである。

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