0.3. 特需
ユーリは一度状況を確かめるべく
例の手紙を受け取ってから、程なくして
学校に特別な許可をもらって
リトル・ウィング村まで
フィヨナお婆ちゃんを訪ねたのであった。
久しぶりに会った養母のお婆ちゃんは
ユーリの想像のおばあちゃんとは
様変わりしてしまっていた。
ニコニコとした笑顔は相変わらずだったが
元々ふっくらと恰幅の良かった体型が
確実に痩せしてしまっていて
疲れている様子だった。
思い出の宿の様子も、面影なく
というか客層が一変していた。
見たこともない数の人でが溢れかえっている。
1階の食事処では荒くれ風の冒険者たちが
酒を飲んでガヤガヤと騒いでいる。
しかも、以前は無かった
立派な大浴場が建物の屋上にあるし
食堂のキッチンも
初見の立派な機材がずらりと並んでいた。
この宿では初めて見る従業員まで雇っており
新人なのであろう
不慣れな様子も伺えた。
さらには、手伝ってくれていると言っていた隣のエミルは
幼少期旅行の際に数回は会ったことがある・・・
そのエミルは既にトンズラしたとのことであった。
そんな小羽屋とフィヨナお婆ちゃんの様子を見た3ヶ月前
ユーリは内定先の大手魔法道具店に内定辞退の申し出をして
フィヨナお婆さんと宿屋小羽屋を営むことを決心したのである。
ユーリも、その間分からないなりに
闇の帝王軍勢の動向を調べてみた。
ゴンゴルドは先の戦いで無名の勇者であった
アルト・ルーベンと言う騎士を中心としたパーティに
致命的な深手を負わされていた。
リトル・ウイング半島に逃げおおせてからも
再び戦えるまでに至っておらず
おそらくは二度と戦えないほどに弱っている
と言われていた。
しかし、手下の小鬼たちの動きが活発であること
ゴンゴルドを始末した際の闇の帝王の動きの懸念
また、ゴンゴルドは名の如く雷を操るとされていて
万が一雷を操られたら・・・ということから
王立軍、イーシュトライン侯爵私設軍も
本格的な討伐に乗り出すずにいるらしい。
できれば、自然死してくれれば良い
くらいに思っているのであろう。
国からの、住民退避命令もなく
仕方なしに、リトルウィング村長とイーシュトライン侯爵の判断で
冒険者課に討伐依頼を出したということであった。
要は、小さなリトルウイング村は
見捨てられているのだ。
もちろん、最初はユーリも
都に、フィヨナお婆ちゃんを
引きずって帰るつもりであった。
しかし、ゴンゴルドが、冒険者討伐されるにしろ
あと1,2年はかかりそうであることと
また、最新のフィヨナおばあちゃんからの手紙曰く
特需のある地域の宿屋である小羽屋を
経営したいとか、売って欲しいとか
打診する人さえいるとのことである。
さらには近隣に新規参入の宿屋が数軒現れ
老舗の小羽屋にちょっかいを出してきているというのだ。
それでもこんなお婆ちゃんを慕って
助けてくれる冒険者さんもたくさんいてね。
それは嬉しいのよ。
と、健気なことまで、おばあちゃんは言う。
主たるお客様は
前回の一時帰省で見た光景のような
冒険者の、一概に悪い奴とは決めつけられないが
荒くれ者たちである。
もちろん、闇の帝王を倒そうとする冒険者だ。
正義感に満ちて望むものも多い。
しかし、中には、残党狙いの日銭かせぎ
人出を狙った、付属の商売をする者
人が人を呼び、善い者から悪い者まで呼んでしまうのだ。
人の良いフィヨナお婆ちゃんだ。
しかも、屈強な者達が相手だ。
当然に苦労している。
・・・事態が複雑で、ややこしい。
とユーリは判断した。
であるから、ユーリとしては
リトル・ウィング村が盛り上がっている1、2年の間に
残念だが小羽屋を
その売って欲しいという人に売り払って
フィヨナお婆ちゃんと一緒に王都に戻ってくる。
ということが、理想であると考えていたのだった。




