表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/129

29. 新しいオペレーション

リトルウイング村、早朝。

時期はといえば、秋になっていた。

夏の強い日差しが止み

風がひんやりと感じる心地よい季節へと向かう。


小羽屋はと言えば、

この秋の旅行シーズンと言うこともあり

また、諸々の集客戦法がうまく行っているのか

客足は順調であった。


ユーリは今

先日採用した高速馬車の馬

アリーナの世話をしていた。


馬の世話にはたいそうな早起きが必要である。

厩は小羽屋営繕係ドワーフのザイカと

友人のトロルのモメラス

が作ってくれた。


最近ではザイカに教わりつつ

乗馬も練習している。


新規に雇い入れた営繕担当のザイカ

導入した高速馬車

非常に良いことであるが

やはりそれらを保つには

当然お金が必要だ。


稼がねばと

ユーリも一層小羽屋のサービス向上

販促に意気込んでいた。


ふと、足元をふわふわした物がスッと通った。

猫である。


この厩を建ててからは

やたらと周辺の猫がここを寝ぐらにし始めていたのだ。

この厩が呼び寄せてしまったらしい。


平飼いの鶏の心配をしていたが

案外心配は空振りで

鶏は意外にも強かった。

直接的な被害は無いのが幸いであるが

うまい具合に共生が始まってしまった。


しかし、ユーリが可愛がっていた雄の白黒猫。


口元の柄がハチワレならぬ

時計の八時半の開き方をしていたため

八時半(ハチ)と名付けていたのだが。


その猫は最近すっかり姿を見せなくなった。


代わりに何やら太々しい顔をした

大きな白い猫が居座っている。

ハチはもしかしたら縄張り争いに負けて

他所に追い出されてしまったのかもしれない。


ハチのために置いていた餌を

堂々とこの白い猫が食べている様を見ると

彼も生きるために必死なのだろうとは思うが

何か釈然としない思いがしていた。


・・・ある雨の日であった。

いつもの様にユーリがアリーナの世話をしていると

足元からニャーっと猫の声が聞こえる。


体を擦り付け

足をスリスリとしてくる。


猫を見ると、白色の面積が多いが

虎柄の三毛、雌猫であった。

可哀想にもガリガリで、薄汚れていて

みずぼらしい雰囲気の猫であった。


「何だお前?初めて見る顔だね。」

と、ユーリは話しかけながら頭を撫でてやると

ゴロゴロと喉を鳴らす。

愛想の良い子ではあるらしい。


ひっくり返ったり、屈んだユーリの膝に乗ろうとしたり

ユーリとは初対面であったが人懐っこい猫である。


ユーリもこんなに甘えられては悪い気がしない。

状況に甘んじて撫でまくっていたのだが・・・


これが良くなかった。


次の日のことである。

いつもの様にアリーナの世話をしに厩へ行くと


ミー、ミー、ミー


と、微かな猫の声がする。


しかし、どう考えても、大人の猫の声ではない。

ユーリは嫌な予感がして、厩中にあるであろう

声の出所を探す。


予感は的中。

そこには昨日のみずぼらしい雌猫

そして、子猫が5匹。


絶賛授乳中であった。


ユーリは子猫を見るのは初めてで

片手に収まるほどの小さい子達が

一生懸命に乳を吸う様を見て

そのあまりの可愛さに

なけなしの母性が爆発しそうになる・・・


・・・が、冷静に考えれば、非常にまずい。

最近、ただでさえ猫が増えている。


お客様にも、先日

猫がいっぱいいて良いね。

と言われてしまったばかりである。

決して猫を売りにしているわけではない。


ユーリは考えた。

これ以上増やすわけにはいかない。

さりとてこのまま放っておくわけにもいかない。

この母猫は見るからに痩せていて

果たしてちゃんと母乳が出ているかも

怪しかったのだ。


・・・とりあえず巣立ちまで育てて

引取り手を見つけよう。


そうしてユーリはアリーナの世話に加え

この猫の親子の世話までも始めてしまったのである。


しばらくすると

ユーリとフィヨナお婆ちゃんのお世話もあって

子猫達が無事乳離を始め

離乳食を食べ始めた。

その頃にもガリガリであった母猫は

すっかり別猫の様になった。

目は宝石の様な緑色

虎柄がハッキリと出て

白いところは輝く白さ。

美しい猫になっていた。



・・・また、事が起こったのはそのしばらく後。


「猫が死んでいるかも。」

とのお客様のご報告があった。


慌ててユーリが見にいくと

白黒の猫が大怪我をして倒れていたのである。


それは久々に見たハチであったのだ。


ところどころ大きなコブができており

血は出ているし、ぐったりとしている。

生きてはいるが

致命的な大怪我である。


旅行中のお客様に余計な心配をかけてしまったし

嫌なものも見せてしまった。

ユーリもまた反省せざるを得なかった。


ハチはユーリの回復魔法では治らない程に

大怪我を負っていた。

そもそも動物は人とは勝手がちがう。

悩んだユーリは、アリーナを譲ってくれた

畜産農家のお爺さんに相談した。


お爺さんが治るまでそのお爺さんが預かってくれることになった。

お爺さんには動物治療に心得があったのだ。


戯れる子猫達はしばしユーリ、ザイカ

小羽屋のお客様の目を楽しませていた。

お客様は概ね猫の存在を歓迎していた。


・・・が、中には、怖い!見るとくしゃみが出る!

と言う方が存在した。

色々な考え方の人はいる物である。


更なる困った問題も起きた。

とある長期滞在のお客様が

勝手に客室で猫を飼っていたのである。

1階の部屋は、庭と面しており

その扉から堂々と猫が入ってくのを

ユーリは見てしまったことで発覚した。


お客様曰く、勝手に入ってくるから

良いのかと思った・・・

とのことで

ユーリも、自身が率先して可愛がってしまっていたため

お客様を強く責めることはできなかった。


猫は毛が無数に飛び、布につくと

非常に取りにくい。


ヒーロが洗濯してくれたシーツの中にも

毛がついてしまっているのを目撃した。

これは最早一大事である。


また、雄猫には子猫を襲う悲しき本能がある。

あの太々しい雄猫が厩を襲撃しようとするのを

何度か目撃してしまった。

そんな血生臭い野生ドラマを

お客様に見せる訳にもいかない。


しかも、最近になっては

小羽屋の入り口に

ネズミ、カマキリ、雀の死骸が

置いてあることがあった。

犯人はおそらく、あの子猫達の母猫である。

ここに問題化する、デスギフト。


猫に関する問題が山積みの上に山積みになっていた・・・・


「何でこんな事になってるの?」


ミーミーと可愛い子猫達に絡まれながら

サムエルが不機嫌にユーリに聞いた。


「だって、こんなの見捨てられないじゃないですか。」

ユーリはしゅんとする。


「ですから、猫がいる宿って言って、売りにするのはどうかと・・・」


「絶対それうまくいかないよ!

現に君コントロールできてないじゃないか!」


ユーリは一層しゅんとする。

ユーリはよく見ると目にクマできていて

以前と比べるとやつれている。


サムエルの言うことはご尤もで

最近はアリーナの世話、子猫の世話、猫トラブル続きで

疲れていてた。


一つ失敗してしまったこともあった。


24時間張り巡らせていたゴブリン避けの結界が

ある時切れてしまったのである。

ゴブリンは非常に賢いので

同じ結界だと結界を破られることがある。

一般的には24時間ごとに

貼り直しの作業が必要であるとされているのだが

ユーリは多忙のあまりそれをうっかり忘れており

三日間放置してしまったのである。


結果としてゴブリンが入ることはなかったが

それに魔法使いのお客様が気づき

お叱りを受けたのであった。

これは完全にユーリのミスであった。


アリーナは穏やかで賢い年配の牝馬であったので

ユーリも比較的、苦労なく

お世話ができているとは思うが

なにしろ初めての馬の世話なので

慣れないことが多く

間違いなく負荷はかかっている。


何か一つオペレーションを増やすと

10も20もそれに対するケアの行動が増えるものである。


オプションに気を取られて

宿の基本である信用、安全、衛生が疎かになってはいけない。

以前サムエルに言われたことでもあった。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありません・・・」

ユーリは相変わらずしゅんとする。


「別に謝る必要はないけど。」

珍しく落ち込んでいるユーリを見て

サムエルも少々狼狽えていた。


サムエルは、子猫達を見やる。

全部で5匹の子猫。


二匹は母親と同じ三毛柄、母親に似て目が綺麗な緑色だった。

2匹は茶トラのオス。2匹ともやんちゃでよく戯れあっている。

手が大きいので大きくなりそうだ。

もう1匹は茶トラのメス。少々小さめである。


最初サムエルは興味なさげにしていたが

戯れる子猫達を見て

だんだんと、猫じゃらしで遊び始めていた。

情が移ってきたらしい。


「とりあえずこの子たちの貰い手見つけよう。

その母猫は直ちに不妊手術ね。」


王都では、繁殖力の強い猫をコントロールするために

飼うにはこの不妊手術が必須であった。

おそらく例の家畜農家のお爺さんに相談すれば

問題ないはずだ。


「馬の管理だって考えなくちゃ。

せっかく朝食オペレーションを楽にしたのにさ。

どうして僕に相談しなかったの。」


「それは、サムエルがしばらく連絡がつかないと言うから・・・」


サムエルは頭を掻く。


「わかってるよ、だから鏡を設置したんだから。

これからは何か導入する時は相談してくれよ。」


と言ってサムエルは

また子猫との猫じゃらしファイトを始めた。


しばらくして、サムエルが転移の鏡越しに話しかけてきた。

「社長仲間が三毛猫は縁起がいいとかって言って所望してる。

その家先住猫がいるけど

三食おやつ付き、定期マッサージ付きの待遇だよ。

呆れるよね。」


ユーリは、羨ましい・・・と思いながら

ありがたく提案に乗ることにした。


ユーリも必死に子猫の貰い手を探した。

結果的には、モメラスが自治区の実家で

鼠取りのために飼うよと

雄の茶トラを1匹引き取ってくれた。

もう一匹の雄の茶トラは、村のチーズ工房で

やはり鼠取り係のために引き取ってくれることになった。


ユーリは猫問題勃発後

ゴブリン避けに加えて

様々な結界を施してみたのである。


しかし、なぜか猫にはこれが効かない。


ユーリが術式を構成し完成した直後

平気な顔で猫はその横を通っていくし


改めてユーリが組み直した

自信たっぷりの結界ですら


ちょっと匂いを嗅いでみるものの

その後難なく超えていく。


以前都で調達した高級な護符も試して見た。

その上を、跨いでいく。


腹立たしい。


ユーリは猫には何か、こう言う猫避け的なものが

全く効かないことに気がついたのである。


どうしても引取り手が見つからず

最後に残った小さい茶トラ柄の雌猫を

ユーリが飼う決心をした頃


家畜農家のお爺さんが

ハチの治療が終わったので

また、同じく不妊手術を終えて戻ってきた子猫の母猫と

一緒に連れてきてくれた。


ユーリは母猫も、ハチも一緒に面倒を見る決心をした。


更なる事件はその日の晩起きたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ