28. 転移の姿見鏡
突然、サムエルが暇ができたからそちらに行くるとの手紙が来た。
サムエルが到着したのはあのウェイティングルームで話してから
1ヶ月後のことであった。
イーシュトラインへの送迎は
ザイカに高速馬車で行ってもらった。
ユーリは、一応定期報告として
ザイカと言うドワーフの女性が
営繕、送迎を担ってくれると書いていたので
サムエルも存在は知っているはずだ。
最も、手紙を読んでいたらではあるのだが
馬車から降りてきたサムエルは
かなり疲れた顔をしている。
最後に会った時が、会った時であったし
それ以来間が空いていたので
怒り心頭でここに来ないものと思っていたが。
・・・そういえばエルフ国の
内親王との公演会と言っていたか。
あれは本当だったのだろう。
ザイカは、荷物をサクッとおろし部屋まで運ぶ。
随分大きな荷物を持ってきている。
ユーリと、サムエルも無言でそれに続く。
「それでは、控え室の方におりますね。」
と言ってザイカは引っ込んだ。
サムエルとユーリ
部屋に2人で残されてしまう。
ユーリから口を開くことにした。
「あの、サムエルこの間は・・・」
「いやー、この一ヶ月大変だったんだよ!」
また、ユーリの言うことを最後まで言わず喋り始める。
いつもの調子のサムエルであった。
「例の内親王殿下のパーティもさ、
新聞に載ったよね!みてよ!」
サムエルはさっと数日前の新聞を取り出す。
それは、新聞, "日刊多人種新聞"
人間王国中では一番有名な新聞で
ユーリも食堂に置くために購読していた。
「ほらここ」
一面記事であった。
アラミンドル国王、サラリエ内親王殿下、ご成婚パーティ
竪琴をご披露。
大きな写真中央に
竪琴を奏でる内親王サラリエ王妹殿下と
ご成婚相手のエルフの男性が笛を吹いていた。
端っこに小さく映る
踊るサムエル。
「一面じゃ無いですか!」
・・・サムエルはちっさいけども。
そういえばエルフの王女様が
結婚したと言う記事を見たな。
サムエルはどや顔をしていた。
そしてカラカラと喋りはじめる。
「それで、今回西大陸行ったからさー
今度は、・・・これオフレコだけど
闇の帝王軍勢から声がかかっちゃった!
地方のホールでやった公演会に
こっそりオーガの大臣が会いにきて
力を与える代わりに一緒に世界を征服しないか?
とか言うんだよ!
やんわり断りつつ戻る言い訳に
ちょっと早めに返ってきたんだ。
ねえ?どうする?
そっちに魂を売った方がここも儲からない?」
ユーリは、また信じられない気持になる。
「で、でもサムエル、そんなことが出来るのですか・・・?」
以前夢物語だと言ってサムエルに鼻で笑われた
自分の小羽屋再興メモ
“魔物の招致”
なんと、サムエルが自らの手で叶えられると
言うことではないか。
複雑な心境ででサムエルを見ると
そこには、いつもの不遜な顔でニヤッとしている
サムエルの顔があった。
「僕も、日和見なことは嫌いだけど
最終的に世界がどうなったとしても
小羽屋にはうまくいってほしいし
僕も生きたいしね。
世界なんて誰がハンドルを握っても一緒だよ。
その中でどう生きるかは自分ら次第ってだけ。
まあ、可能性は残しておくに越したことはないでしょ!」
それが冗談なのか、本気なのか
判断ができずにいた
ユーリが黙っていると
そうだ!これ見てよと言って
気になっていた
大きな包みを豪快に開けてみせた。
中からは、ややユーリやサムエルよりも背の高い
立派な姿見鏡が現れた。
しかし、ただの鏡ではない。
「・・・これは、転移の姿見鏡ですよね??」
「うん。魔法が使えるならさ
これを使わなきゃやってらんないよ。」
ユーリがポカンとしていると
サムエルは、何てことない様に続ける。
しかも、王都のサムエル宅にあった
転移の鏡とは違うものである。
縁取りの形が全く異なる。
「これは、僕の実家にあったやつを持って来たんだ
後何個かあるし、ここにあったほうが良いかなって
持って来たんだ。
一応純正エルフ製のやつだから安心して
僕の実家、これがたくさんあるんだよ。」
サムエルは鏡をペシペシ叩いた。
「あ!あげるんじゃないからね
貸すんだからね。他で僕が必要になったら、返してよ。」
貸す、と言ってもこの鏡一つでどれだけの価値があるか。
それで思い出したことが一つあった。
魔法道具店の、先輩が取引をしていた
転移術に長けているエルフの一族で
エルフ本国の首都郊外にある川沿いに住む一族。
転移術を用いて国を繁栄に導いた功績で
エルフ王から貴族の称号を与えられたとか・・・
転移の鏡を作るのにはこの一族の協力が
必須なのだとか何とか言っていた。
その一族の名前が
「カシリオン・・・」
サムエル・ロビンズ・ラウレヘン・ノル・カシリオン
この人の先祖だか何だかが
転移の鏡開発に関わっていたのではないか。
「あ、気づいた?
流石元大手魔法道具店でバイトしてただけあるね。
僕も人間国の王都に収めるやつを何度か作らされたんだよ。
これ実はちょっと失敗作なんだよね・・・」
「何を失敗したんです?」
ユーリも、扱ったアウトレット品の中に
転移中髪の毛をごっそり置いて来てしまうと言うものがあった。
最早実用的で無いと
研究機関に売ることになったと聞いた。
「これ何故か、ある程度の大きさの金属製品と
一緒に通ることができないんだよね。
剣とか、甲冑とか、異空間に投げ出されてしまうらしいんだ。
うっかり、高級品を無くしたりできないだろ?」
サムエルは、何故そんなことになったのか分からぬ。
と言う顔をしていた。
「だから、ユーリ、君もアクセサリーとか気をつけてね
杖は木製だったでしょ。」
ユーリは、アクセサリーをほとんどつけないので
自分が通る分には問題が無いと思った。
それでまたあることを思い出す。
「あ、転移の鏡設置には自治体の許可が必要なはずで・・・
しかも、鏡自体も、人間領地だと
王立検査機関の認定が必要ですよね。」
と言って、サムエルを見る。
少々バツの悪そうに笑っている。
「うん、だからさ、あんまり大っぴらには使えないの。
僕がちゃんと経営に関わるんなら
なるべくここにいた方が良いかなと思って。
僕地方公演とか、大陸も移動することあるし。
いちいち馬車移動できないでしょ!
まあ、僕の友人なら、使っても大丈夫だし。
何かと便利だと思うんだ。」
ユーリの訝しげな顔を察して続ける。
「・・・まあ、許可はおいおい
と言うことで!何か言われたら教えてよ!
王立検査期間に僕、知り合いいるから!」
ユーリはあまり気が進まなかったが
こうして、小羽屋に、脱法転移の鏡を
設置することになったのである。
・・・つまり、今まで以上にサムエルが
ここ小羽屋に来ると言うことである。
ユーリは心強いような
忙しくなりそうで、少々煩わしい様な。
そんな気持ちになった。
「サムエル、あの、なんというか・・・」
こんな高価なものお借りするのも悪い・・・
と言おうとしたのを、サムエルがいつもの調子で遮る。
「あ、ユーリ
それを言うならあの高速馬車もだぞ。
手紙に導入したって書いてあったから気になってたけど!
高速馬車だって人間の王国は王立検査機関の基準があるはず!
検査に入られたらやばいんじゃないの?」
サムエルが突っ込む。
ユーリは、そのことか、と、合点する。
ふふッと笑い、とある書状を見せた。
サムエルはそれを読み始める。
まさにその許可証である。
「運転手がドワーフに限定されていて
ドワーフ製の馬車である場合は
検査基準が甘いのです。
ドワーフは強靭な体を持ち、体力もあるし
ドワーフ製の機材は丈夫ですからね!」
本日サムエルを迎えに行った高速馬車は
ザイカが暇を見て作ってくれたものであった。
5日間で安全基準の馬車を作ってくれたのである。
馬は、知り合いの家畜農家さんから安値で譲ってもらった牝馬。
名をアリーナと言う。
夢物語メモは、一つ叶えられたのであった。
「しかも、空いている時間はザイカにレンタルしています。
ザイカはそこでも高速馬車を利用して
乗合馬車を運用してもらっているのです。
もちろん売り上げ歩合で。
ここの売り上げに左右されることの無い
自律的な運用もできています。」
ユーリもこのシステムは
少々胸を張って報告した。
中々にいいアイディアだと思っていた。
サムエルは、納得いかないと言う顔をしながらも
「君策士だね、経営者向きだよ。」
と、素直に認めた。
ユーリは、サムエルが素直自分の能力を褒めてくれるのを
初めて聞いた気がした。
雨季を過ぎたリトルウイング村は
村の木にもなっている
コキアナナカマドの葉が少々赤くなっているのにも気がついた。
季節は秋
今日の空はリトルウィング晴。
世の中は長期休暇に浮かれる時期でもある。
小羽屋にはまた、多くのお客様が
たくさん訪れるシーズンの始まりである。
1巻終わりです。ここまで読んでいただいて、誠にありがとうございます。すぐ2巻続きます。




