27. 雨季の終わり
出現した温泉の噴水は一時
森の木々と同じ高さまで吹き上がったが
徐々に落ち着きを見せ
最終的には人の高さ程の噴水になった。
温度は少々高めである。
「本当にすごい、モメラス・・・!」
純粋にモメラスに
尊敬の眼差しを送った。
「僕もピザ食べたいな。」
モメラスは微笑みながらユーリの方を向いて言う。
「当然です、ご馳走させていただきます。」
ユーリは深々とお辞儀した。
モメラスは楽しみにしてるね。
と楽しそうにしていた。
「さ、ここから小羽屋まで給水工事しないと!」
そこからザイカの仕事は早かった。
たった3日間で
小羽屋の屋上の浴槽まで温泉を通してしまったのだ。
工事が完成した頃には
その噴水は姿を消しており
穴を掘った所は
元の河原と何も変わりがなかった。
穴を掘り進めて、配管し
小羽屋の敷地内まで引っ張ってきた
とのことであった。
「メンテナンスができる様に人が入れるからね!」
その配管の通ったトンネルは
高さ2m、幅2mほどのトンネルになっており
モメラスがギリギリ通れるくらいの大きさであった。
小羽屋の敷地内からしか入れない。
「あの噴水見て、ユーリさ
利権大丈夫かな?とか呟いてたでしょ。
だから、見えないように地下を掘ることにしたの。
モメラスに土の精霊たちに声がけしてもらって
地上からこの穴を探知できない様になってる。」
「俺みたいな精霊使いのトロルなら気づくかもだけど
他の種族は大丈夫だよ。」
モメラスは付け加える。
「他のドワーフも上歩けば気づいちゃうけど
ドワーフが掘った穴だってわかるはずだし
チクることはしないよ。」
ザイカも自信ありげだ。
実はユーリは、あの噴水を見て感動した直後
一瞬だけ、あの爽快感を邪魔するかのような思考に
とらわれたのである。
声に出ていたとは・・・
あんなポソっと言ったことまで
覚えててくれて
しかもケアしてくれるなんて・・・
ユーリはザイカにも尊敬の眼差しを送る。
「私ももう何枚かピザとジンお願いね!」
「いくらでも焼かせていただきます。」
ユーリは2人に、最敬礼した。
・・・・・
その次の日、無事に小羽屋の屋上浴槽に温泉が溜まる。
排水も追加して
所謂、源泉掛け流しという状態だ。
今日はこの雨季最後の大雨が降っていたため
小羽屋のお客様は大層少なく
ユーリはザイカとモメラスに
試しの入浴と、ちょっとした酒宴の場を設けることにした。
小羽屋の大浴場は、男湯と女湯に分かれている。
ユーリは掃除ばかりしていて
自分で堪能したことなど無いのだが
半露天になっているこの大きな風呂から臨む
ルミナス地形は本当に美しかった。
さぞかし風呂に浸かりながら楽しむこの景色は
素晴らしいだろうなと
掃除をしながら思っていた。
・・・が、しかし、ちょっと考えればわかることである。
夜は、何も見えない。
食堂からの景色がまさにそうじゃないか。
食堂は夜、少なくとも造園のトーチライトアップが
綺麗に見えるが
真っ暗なその先は
やっぱり何も見えない。
ここは高さ的にも本当に何も見えない。
広大な闇が広がっているだけであった。
あの絶景は昼間限定の代物なのである。
さあっと風が通る音がする。
ユーリとザイカは並んでそれを眺めていた。
「・・・まあ、知ってたよね。」
ザイカも薄々勘付いていた様だった。
「モメラスーそっちはどおー?」
ザイカは問いかける。
露天の方は男女で上が繋がっている。
「湯加減大丈夫だよー!景色は何も見えないねー!」
やっぱりな感想が返ってきた。
「お湯ちょうど良くなってよかったね」
ザイカは満足げであった。
源泉はかなり温度が高く、人が長く浸かるには少々きつかったので
お湯が出てくる魚のオブジェを改良して
氷結魔法を駆使し
ちょうど良い温度になるように
氷を通ってから出てくるシステムにしたのである。
そのせいで、この魚のオブジェは
触るとキンキンに冷たい。
ユーリの専門は氷結魔法ではなかったが
すっかりこの氷結魔法が得意になっていた。
その後湯から上がり
ユーリはお二人ご所望のピザを振る舞う。
ジンも用意した。モメラスは自家製エールも持ってきてくれた。
初めモメラスは
エールを氷結魔法で冷やして飲むと美味しい
ということを頑なに信じてくれなかった。
「エールは俺たちの古い文化だよ?
そんなわけないね。」
そんなモメラスに無理やりザイカが
冷えたエールを飲ませたところ
「エールの概念が変わる・・・!」
と大層喜んでいた。
とて、モメラスは
さほど酒に強いわけでは無い様であった。
ザイカと話し込んでいると
いつの間にモメラスは姿を消していた。
「トロルって飲み会でいつの間にか消えるんだよね。
私は慣れてるけど、ユーリも気にしないでね。
そういう文化みたいだから。」
とのことだった。
気にしてはいないが
文化とは色々あるものだと
改めて感心していた。
最近は他人種間の交流がとても多い。
非常に勉強になることが多かった。
しかし、このシチュエーションは都合はいい。
ちょうどザイカと2人で話したかったのである。
ユーリは一つ
ザイカにお願いしたいことが生まれていた。
「ねえザイカ、こんなにしてもらって
さらに心苦しいんだけど
お願いがあるんだ・・・」
「何?楽しい話?」
・・・・・・
次の日の朝もザイカは来てくれた。
いつもの作業着よりもやや綺麗な作業着を
着てくれている。
「ユーリおはよう、流石に昨日のは覚えてるでしょ?」
ニカっと笑う。
「ザイカ、ありがとう。もし来なかったら
迎えに行こうと思ってた。」
ふふふとユーリも笑う。
ユーリは昨晩ザイカに
小羽屋の営繕担当として勤めてもらえる様に
お願いしたのである。
ザイカは二つ返事で受け入れてくれた。
ザイカは営繕だけでなく
受付、朝食作りも
シフト制でやってくれると言う
有難い提案もしてくれた。
頼りになる存在である。
そうして新しい従業員を迎え
ユーリの心もほくほくとしていると
しばらく後
サムエルから
暇ができたのでこちらに来る
と言う手紙が届いた。
3日後であった。
そして、あのウェイティングルームでの対話から
2週間と少々が過ぎていた。
空いている窓から不意に
甘い香りが漂ってきた。
庭を見るとゴールドユピテルと言う木に
その名の如く黄金色の小さな花がたくさんついているのが見えた。
この木は秋になると
こうして花をつけて良い香りを放つのだ。




