表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/129

22. サムエルガールズ

時は一気に進み夏が終わった。


秋を前に時折強い雨風が吹き荒れる時期でもある。


この時期はせっかくのルミナスの空も

暗い雨雲で覆われるため

お客様の入りは年間を通しても少なめである。


ユーリは、新しい従業員イーリス・サイモンズのおしゃべりを

うんざりする程聞いているところであった。


「サムエルはよくゴンゴルド討伐は私がいなければ成し得ない偉業だって!」


「サムエルは私の腕があれば冒険に行く時には声かけるって!」


「それで、サムエルは私のことをなんて言っていたのですか?」


サムエルサムエルうるさい・・・

ユーリはかなり面倒臭くなっていた。


何故こうなっているのかというと

遡ることそれは

真夜中のメニュー開発の翌朝のことである。


朝食をピザ中心に提供する。それは決まった。


飲食業というのは

メニューをひとつ変えるだけでも大仕事である。

食器、カトラリー、メニュー表全て変更になる。


ユーリはメニュー開発の次の日はその作業に追われることになる。


誰かに託すことを前提としたオペレーション作りのはずだが

現にそんな人はいない。

些細な矛盾を感じつつも、作業に追われるユーリ。


サムエルが帰るとのことで声をかけてきた。


「人手なんだけど、僕に何人か当てがあるんだよね。

呼び寄せてもいいかな?」


と言って徐に、明日から約一ヶ月半くらいのカレンダーを見せてきた。

一週間刻みくらいで色分けされており

それぞれ名前が書いてある。


「この子ら、弟子の舞踏家なんだけど

僕がここで働けって言えば来るはずだよ。

ユーリと同年代の奴らを選んでおいた。

その代わり、本職があるから、一週間の単発で

ここの一室に泊まってもらうことなるけども。」


「今舞踏家も増えてるから仕事が少ないんだよね。

彼女らにとってもいいと思うんだ。」


・・・悪くない案だとは思うが


「舞踏家の方が宿屋の下働きなんてしてくれますかね?」


この世界の舞踏家と言うのは

両家の子女が嗜みで習う舞踏を職業にしたものである。

サムエルのように舞踏家として活躍できるようになるには

教育に途方もないお金がかかる。

つまり、舞踏家自身がお貴族様であるケースが多い。


「まあ、僕の弟子だし、やれっていうよ。

その代わりどこかで単独公演をねじ込んであげるさ。」

お得意のバーターである。


最後の一週間働いてくれる子

イーリス・サイモンズ・・・

ユーリは、目をシバシバとさせる。

「このイーリスってあの?」


「うん、ゴンゴルド討伐のね。

まあこいつは俺の弟子ではないし

年はわかんない・・・

けど、この前手紙が来てて

返事にここの宿手伝ってるって書いたら

行きたいって、すごい興味持ってたから

頼んだら来るよ。」


あの宴席の場でしか会ったことがないが

あのエルフの女性か。

サムエルにやたら熱い視線を送っていたし

様子から察するに


・・・それはこの宿に対する興味では無い気がするのだが。

まあいい、来てくれるならありがたい。

そう思う直すことにした。


「この4番目の奴はこの前の宴会に来たよ。

試しに使ってみてよ。コキ使って良いからさ。」


サムエルがそう言うなら・・・

と、ユーリも深く考えずにその案を飲んだ。


あれからここまでの約一ヶ月

ユーリそれをだいぶ後悔した。


一週間刻みで

サムエルの弟子の舞踏家女子が4名

住み込みで働いてくれた。


それぞれは教養高く、賢い者達ばかりであり

サムエルにキツく言われているのであろう

仕事はきっちりこなしてくれている。


朝食オペレーションも

氷結ピザを温める形式にしたことが功を奏して

彼女たちは難なくこなしてくれた。


そんな彼女たちは

一様に自分たちは舞踏家である

と言う誇りを背負っていた。

それ自体は悪いことでは無い。


ところが、ここは宿屋、接客の場であり

上司は、舞踏家でも何でも無いユーリだ。


彼女たちと接していると

お客様への対応にですらどこか

上から目線感があり

舞踏家でもなんでもない(ユーリ)の言うことなんか聞きたくない。

と言う態度が節々に滲み出ていた。


「飲食店とかでバイトしたことある?」

試しに彼女らに聞いてみると

答えは、当然にNoであった。

飲食店どころかバイトをしたことが無いとお見受けする。


適材適所、との言葉があるが

彼女達は、少なくとも小羽屋の業務が

肌に合わないのではないかと

ユーリは感じ取った。


そして、ダメ押しで来たこのイーリスだ。

舞踏家ではないが

かなりお育ちの良いタイプで

仕事は一族の生業である精霊召喚しか

したことが無いとのこと。


そして最もユーリをうんざりさせたのは


イーリスはここへ来た瞬間から

サムエルの話ばかりするのである。


イーリスはかなりの熱量で

サムエルのことを想っている様だ。

・・・やはりあの時の勘は正しかったのである。


最初の1日は、友人から恋バナを聞いている・・・

くらいに捉えていたのだが


それが3日目に入る今日は

いい加減にうんざりとしている。


「サムエルは手紙をたくさんくれるんです!」


「サムエルはここを手伝う間に一度は来てくれるって!」


「サムエルは私がここの宿の看板娘に良いんじゃないか、とか言うんですよ!」


「イーリスは美人ですし良いですね。」

とユーリ。


「えー?サムエルは私のこと美人とか言ってたんですか?」


「言ってましたー」

と返答する。

言ってた様な気もする。


ここまでなら、少々煩わしいが

期待する回答を言ってあげれば

一生懸命にやってくれるので良し。

まだ我慢ができた。


4日目に入り、今朝からは

ユーリとサムエルの関係を疑い出したのである。


きっかけは昨晩就業間際にした

この会話であった。


「ユーリさんてお付き合いされてる方いないんですか?」


「やー、いないですねー、仕事が忙しすぎて無理ですよー」


「・・・へえ

・・・サムエルも同じことを言っていたのですよね。」

ニコニコとその、可愛い笑顔が一瞬で曇るのを

ユーリは見てしまった。


「!?・・・そうでしたか。

あの人なんて私の比じゃ無いくらい

忙しいからそりゃそうでしょうね!

詳しくないですけど!!」


山の天候レベルで瞬時に変貌した

そのイーリスの表情にユーリは大層驚き

その上何か良からぬ雰囲気を感じ取ったため

"全然詳しくない"部分を強調してしまったせいだろう。


逆に怪しまれてしまったのかもしれない。


そもそもこの文句は

これ以上, 自分の恋愛事情につっこまれたく無い人が

手っ取り早く相手を納得させるための常套句であるため


サムエルと私じゃなくても皆言うだろ・・・

と思うのだが。


今日はやたら探りを入れる質問が多い。


「サムエルに最後いつ会いましたか?」


「サムエルはどのくらいの頻度でここに来るんですか?」


「サムエルって本当に彼女いないんですかね?」


「ごめんなさい。仕事の話しかしないから

何も知らなくて・・・」


事実であった。


そんなユーリの返答に満足できなかったのであろう

イーリスは4日目

恋する乙女鬱モードになってしまっていた。


「サムエルがルミナスの集落まで会いにきてくれればいいのに。」


「サムエルって、あちこちに女いそう。」


「サムエルって、すごくチャラいですね。」


「サムエルは最初は私と一緒にここ手伝うからと言っていたんです。」


「サムエル最近は手紙の頻度もめっきり減ったんです。」


「なんで、ですかね?」


イーリスは相変わらず可愛らしく聞いてくる。

しかし、ユーリと合わせる目は

どことなく血走っているよう思えた。


「いやー、でもあの方本当にお忙しそうですし・・・」


ユーリはその目を逸らしつつ

・・・今日はそのくらいしか

都合の良い返しが見つからなかった。


そして、頼むからその"女"の1人に

私をカウントしないでくれと

願うばかりであった。


5日目、イーリスがやらかした。

例の朝食対応

しっかり仕込んで5日目になるので

もう大丈夫だろうと思っていたが


イーリスは提供時に氷結ピザの加熱時間を

間違えて、間違えて、間違えて・・・と

結果的に氷結ピザを10枚無駄にしてしまった。


挙句、イーリスは、遅いと怒るお客様に対して

申し訳ありません、と言えば良いものを

そこまで言うこと無いじゃないですか!

と言い返して泣き出してしまったのだそう。


見かねた他のお客様が

3階で部屋の点検をしていたユーリを呼び寄せてくれたのだ。


ユーリは飛んで行って

必死に謝る&朝食代の返金という形で

収めることにした。

お詫びにリトル・ウイング村名産品のジンをプレゼントした。

結果的には、お客様も納得していたと思う。


場を全て納め


控え室にいるイーリスの元へ戻った。

ユーリが控え室に戻ることには

イーリスは椅子に座って項垂れていた。


ユーリはイーリスにフォローする。


「失敗は誰にでもあることだからそこまで

気にしないでいきましょう!

お客様に何か言われたら

基本的には謝るしか無いので

対応が難しいと思ったら

私を呼んでくださいね!」


ユーリは最大限、優しく言ったつもりだ。

色々と言いたいところだが

仕方がない。


「残り2日だけど、よろしくお願いしますね!明日は朝食の時私も・・・」


「辞めます。」


「はい?」


「もう辞めます、私。」


イーリスはまた泣き始めてしまった。


「え?そんな・・・

気にする必要はありませんよ。

結果的に丸く収まったし・・・」


「そうじゃない!私はもう貴方の下で働くのが嫌なんです!」


ユーリはポカンとしてしまった。


「私は召喚士として実力もあるし

悪いけど、貴方の魔力なんかよりよっぽど強い!

それに、貴方より顔もスタイルもいいし

私の方が魅力的です!」


ユーリは冷や汗が出てきた。

・・・そう言うとことか。

流石にこれはまずい。


ユーリは彼女の疑惑を取り払う作戦に移行する。


「あの・・・イーリス?

誤解しないで欲しいんですが

私とサムエルは、借金の借主と貸主みたいな関係で

決してそう言う仲じゃない・・・」


「バカにしないで!!!」


逆効果なのか・・・

更に怒らせてしまった。


しかしながら解せない。

なぜ今の状況で私が責められているのか。

もちろんピザ10枚のロスは、かなり痛い。

さっきは気にするなと言ったが


正直の所、気にして欲しい。


ユーリがまた話始める前に

イーリスは封筒をバンと机に叩きつける。

先払いした給料だ。


「こんな物いらない!私は召喚士として生活できてるんだから!」


・・・そう来たか。

色々思うところはあるが

ひとまず状況は、受け入れよう。


「いや、せめて今日までのは受け取って・・・」


「いりません。もうルミナス山に戻ります!」


とだけ言うと、バンっと扉を乱暴に開けて

イーリスか出ていってしまったのであった。


ただ茫然とそれを見送るユーリ。


あああ・・・っと頭を抱えた。

この約一ヶ月間

特に最後のこの5日間は

いったい何だったのか。


また、エミルの時にも似たシチュエーションを

また起こしてしまった。


自分の人身掌握能力の無さは

認めざるを得ない。

様々な思い出がフラッシュバックする。


・・・一旦落ち着こう。

とにかく顛末をサムエルに手紙で伝えるしかない。


一先ず自分のやるべきことを思いついたのだが


そこで、ハタ、と


ここ一ヶ月、サムエル自身は勿論来ていないし

あれほど煩いくらいに届いていた手紙も

この1週間、1通も届いていない事に気がついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ