表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/129

18. 家の精コボルト

次の日、やはりエミルは朝食準備に現れなかった。


ユーリは宴会がお開きになった後に

すぐ朝食の準備を始め

文字通り夜なべして段取りを確認していたので

結果的には、問題なく全員に朝食を振る舞うことができた。


小羽屋唯一の従業員を失っても

ユーリは意外と冷静であった。

むしろ少々スッキリした気になってしまっているのは

昨日サムエルの言うことが正しいと言うことを物語っていると

実感していた。


昨日宴席でモーリス村長が

観光案内する約束していたらしく

サムエル御一行は、朝食の後すぐに

この小羽屋を出発して行った。


サムエルは、皆をイーシュトラインに送った後に

こちらに戻ってくるとのことだった。

夜も更けてきて夜の10時を回ってきたことだし

そろそろではないだろうか。


ユーリも眠りたい頃であったがそうもいかない。

諸々の思考が乱雑に巡ってくる頃

カラン、と

小羽屋の食堂の扉が開く音がした。


そして、サムエルがドカドカと入ってきた。


「あー疲れた。昨日の宴会は色々と有意義な話ができたね。

ゴブリン討伐合宿の件は現実になりそうだよ。

みんな乗り気だ!あの雰囲気は実現するやつだよ!

僕は昨日地味に大変だったんだよ。

アルトの奴途中で酔い潰れちゃってさ。

まあドラゴン毒食らった後の

病み上がりだから仕方ないが無いけどさ。

クロエにもまた借りができちゃったよ。」


何にせよお疲れーと締めくくり

ユーリが出した紅茶のカップをカチンとして

乾杯の真似事をしてきた。


そういえば騎士アルトも途中から見なかった。

昨日途中で消えたのはそう言うことだったのか。


「ありがとうございました。営業までさせてしまって。

ゴブリン合宿の件是非招致したいです。」


サムエルは紅茶をズズっと啜った。


「それで、あのエミル?だっけ?

あいつ結局やめちゃったの?」



「はい。」


「フーン、まあいいけど。

で?あいつ何の仕事してたわけ?」


「主に食堂の方で動いてもらっていました。

朝食作りとか、夜の食堂で偉業とか・・・」


「ここ、食堂じゃなくて宿屋でしょ!

宿屋のオペレーションは何してたの?」


「顧客管理、フロント業務、設備メンテナンス、在庫管理は私がしてます。

できるところは私もやっていますが

掃除全般、ルームメイキングはほとんど

コボルトのヒーロがやっています。」


・・・つまり、エミルは何もしていない。


この小羽屋影の従業員

コボルト、ヒーロの存在。

長年この宿屋でルームメイキングや掃除をしているという家の精(コボルト)


掃除やルームメイキングは完璧にしてくれているが

ユーリは未だヒーロと会ったことが無い

交流といえば、間接的なものしか無く


厨房の皿を片付けているのか、遠目にお皿がふわふわ浮いているのとか

箒が1人でに動いているのとかを目撃することはある。


そして、先代の経営者の際からずっとそうらしいが

朝昼夜、厨房に

3つのパンと3カップのミルクを置く。

その際に、仕様変更をメモにして残すと

次の日には反映してくれている。


パンとミルクは空になっているので

食べているのだとは思うが・・・


サムエルは、やれやれ・・・と言う顔をする。

「コボルトねぇ、ああ言うのは当てにしちゃダメなんだよ。

コボルトって、基本的には凶暴なんだからね?

機嫌を損ねるとバラバラ殺人起こしたりするんだから。」


ユーリも聞いたことがあった。

コボルトは、ご褒美を多く与えすぎたり、洋服を与えたり

家主が傲慢になりすぎたりすると

何かしらの報復をし出て行ってしまう

と言う習性があることは知っていた。

しかし・・・


「バラバラ殺人・・・」

ユーリもそれは初耳であった。


「そうだよ、彼らすごく扱いにくいんだからね。

コミュニケーションは取りにくいし

独特の考え方があって

僕らにも理解ができない。」


ユーリはこの場合の”僕ら”とは、エルフを指すと理解した。

種族としてはエルフの方が

コボルトと近そうであるが。


「例えば、ここの場合だと

そのヒーロが10室アウトインができないならできないで

何人の人材を確保しないといけないとか

できるならいくら値段設定できるとか

何ならデイユースできたりとか、色々考えられるだろ?

それが出来る!と思ってたら

ある日いきなりポーンと

出て行っちゃうのがコボルトだからね。

しかも、部屋を破壊したり、家に火をつけて行ったり。

何も無いだけエミルの方がましだろ。」


サムエルは何かコボルトに私怨でもありげだ。

しかし、ユーリもサムエルの懸念は理解した。


アウトインと言うのは

チェックアウトとチェックインとが

同じ部屋で、同じ日に起こることである。

小羽屋のチェックアウト時間は午前10時、チェックインは午後3時からであるが

その5時間で全ての掃除を終わらせる必要がある。

1部屋だけなら未だしも、全部の部屋がアウトイン状態なれば

10室を5時間で完璧に清掃しなければならない。


サムエルは続ける。


「君の言う、ゴンゴルドインパクトのあった時は

客層が"冒険者"だったからね

彼ら泊まれればどこでも良い

みたいに思ってると思うけど

今度相手にする"旅行者"は

綺麗さと、正確さが求められるんだよ。

・・・僕もまさか経営するとは思ってなかったから

前の滞在の時はそんなに気にしてなかったんだけど

その点どうなんだろう。

彼らの能力にも、もちろん個人差あるから。」


サムエルは頭を悩ましている。

珍しく、どうしたら良いのか分からない様子である。


「因みにヒーロと君らは

どう言う役割分担してるの?」


「建物の掃除は全てヒーロがやっています。

建物の廊下、食堂・厨房の掃除、客室清掃、ベッドメイキング、洗濯も・・・

厨房の洗剤等備品の設置、客室のシーツ、タオル等の所謂、リネン類の在庫管理は私です。

ヒーロもシーツ、タオル、洗浄用品がダメになっていると

わかるように分けて置いてくれます。」


サムエルは、イライラして言う。


「なんて曖昧な・・・

じゃあ、そのヒーロがどのくらいできるのか

どの程度まで完璧に掃除できるのか

家を破壊される覚悟で実験するしか無いよね。

ちょうど今日は昨日全室埋まってたろ?

清掃終わってた?」


「今日は5室しかインがないと伝えてしまったので

・・・それは時間内には終わってました。」


フーン、と言いながら


サムエルはちょっと来て、と。

ユーリを連れ出す。


今晩自分の泊まる部屋に招き入れた。


・・・今までの会話とサムエルの雰囲気的に

やましいことでは無い。

と言う事だけは、良く分かる。


と言うより、ユーリは

サムエルが何をしようとしているのかも

大体察しがついたので

気が引ける思いがしながらも

素直について行った。


サムエルは、部屋に入るなり

ベッドのシーツをひっペがえしたり

窓ガラスに指紋をつけまくったり

持って来ていたらしいピーナツバターを

トイレに流し始めたのである。


「じゃ、今日残りの部屋を荒らすから

明日は全室アウトインだって指示出してきて。」


「・・・」


ユーリはそのサムエルの奇行を見守るしかなかった。

時間は、午前0時。

ユーリも徹夜明けで眠いやら、何やらで

変なテンションになってきたのは間違いない。

きっとサムエルも同じである。


「それでは、私は一度、ヒーロと話をしてきます。」

もちろん話したことなどは、一度も無い。


去り際にはサムエルの何か

説教じみた言葉も聞こえたが

今は、聞こえなかったことにし


部屋を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ