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14. サムエル革命始動

それからサムエルが来るまで

少々時間がかかった。

例の契約儀式から3週間程後

雨季が開け、季節は夏となっていた。


リトル・ウィング観光にはもってこいの季節である。


湿原の草木は淡い緑色に芽吹き

水辺とのコントラストを美しく演出する。

ルミナス地形にしか生息していないとされる

コキア・ナナカマドと言う木は

白く、ふわふわとした特徴的な花を蓄え

人々の目を楽しませる。


名産のライムはまだ糖を蓄えていない分

酸っぱ物好きには良い時期である。

ヌマエビは、ルミナス山から降りてきてあの辺に出てきて


この時期にしか現れない美味しい川魚もいる。


最近は小羽屋周辺に

ゴブリンは現れることも少なくなった。


市井では、どこから湧いてくるのか、

減るどころか

出現自体は増えているとまで言われているのだが


彼らも高度な社会性と知性を持った生き物なので

ここは危ないと判断してくれたようだ。


最近では、ユーリがいるので

ゴブリン対策ができるていると言うことは

お客様の方にも周知していただいたらしく

常連のお客様も一部戻ってきてくれた。

フロント業務もありがたく鍛えられていると

実感している。

ちょっとはユーリも胸を撫で下ろしているところであった。


余談であるが最近は、庭に白黒の雄猫が来る様になっていて

非常に懐いている。

今まで猫を飼うことができなかったユーリからしてみれば


非常に珍しく、憧れでもある存在・・・

端的に言えばかなり可愛がっていた。


今は小羽屋の庭で、その白黒の猫と戯れている。

この猫は、全体的に黒色の毛並みで

ピンクの鼻から始まる白い柄が

時計の八時半の開き方の様な中途半端な柄であった。


よって、ユーリはこの猫を"八時半"

略して"ハチ"


と呼んで可愛がっていた。


ユーリは庭に出て、ハチを膝に乗せながら

暖かな陽射しを享受し

束の間の休憩を堪能していた。


すると、宿の方から、フィヨナお婆ちゃんがやってくる。

サムエルが来たとのことだ。


ユーリは、ハチを膝からおろし

急いで食堂に向かった。


サムエルは相変わらずの態度で

カウンター席に座っていた。


「遅いし、獣臭い。」


猫臭いと言うのだろうか。

女性に臭いと言うのは、かなり失礼では?

と思いつつ

その辺は気にしないことにして、話を続けた。


「ご無沙汰しております、サムエル。

先の件は誠にありがとうございました。」

ユーリは、深々とお辞儀をした。


サムエルはここに来ていなくても

ユーリは一通り行動を把握できていた。


魔法契約の通り、イーシュトライン銀行への返済を肩代わりしてくれた。


フィヨナお婆ちゃんが親戚周りにした借金も返すことができた。

ユーリにとっては初めて会う親戚ばかりであったが

大方フィヨナお婆ちゃんに同情的で、急がなくても良いのに

と言ってくれている人ばかりであった。

・・・騒いでいたのはあのサイラス爺さんとやらだけであったのだ。


そのの露天風呂建築費用については・・・

あれ以来サイラス爺さんから連絡が無いので分からない。


あれ以来サムエルから手紙が少なくとも3日に1回は届いていたのである。

内容は経営判断に必要な情報から

参考になりそうな情報やら

サムエルの日報の様なものまであった。

サムエルは非常に筆まめな男だったのだ。


ユーリは、サムエルの懸念通り

その逆の性格をしていた。

しかし、契約のこともある。

サムエルの手紙にはすぐ返事を書くようにしていた。


しかし、何と返して良いのかわからないので

主に、"凄いですね" "さすがですね"

という浅い感想ばかりになってしまうのが

ユーリの最近の悩みであった。


なぜなら、サムエルの日報は

今日はエルフ王国の要人と会うとか

ドワーフ・エルフ国交樹立900年記念祝典で踊ったとか

聞いたことのない種族と交渉しに行くとか

ユーリの一般的な経験では想像も共感もできない

出来事ばかりだからであった。


ちなみに、今日来ることは

2日前の日報・・・基、手紙に

エルフと協定を結ぶ予定の

人喰い鬼(オーガ)の一族のパーティに呼ばれたとの報告と

一緒に書いてあったのだ。


ユーリのお礼に対して

サムエルは、そんな事どうでも良いと言う様に


「お昼ご飯食べた?僕結構お腹すいてるんだけど

この間もらった川魚のフライもらえる?」


川魚のフライ。

気に入ってくれたみたいなのだが・・・


「今の時期はルミナストラウトのフライよりは

スイートフィッシュの塩焼きの方がおすすめです。」


「そうなの?見てみたい。」

サムエルはユーリが案内するよりも先に

厨房へと向かっていた。


魚を調理するには

今朝もらった魚を処理しなくてはならない。

氷結魔法を施した丸ごとの魚を

大容量の冷凍冷蔵機能付き食品棚(パントリー)(自動温度調節機能付)

から取り出しゴロンと出した。


「ルミナストラウトもいいんですが

このスイートフィッシュは産卵に向けて

この時期脂が乗ってとても美味しいのです。」

このスイートフィッシュは

釣り上げると独特の果実の様な香りがするので

その様に呼ばれていた。


ユーリは説明をつけながら、解凍魔法(とユーリは呼んでいるが、風化の魔法と言うのが正しい)

を施す。


魚釣りは、時々、フィヨナお婆ちゃんの夫である

養父のゴルムお爺ちゃんに教わっていたが

魚を捌く様になったのは

ここで必要に差し迫られる様になってからであった。

鱗を丁寧に取りながら言う。


「このスイートフィッシュは肝ごと

丸々塩焼きにするのが美味しいです。」


「・・・じゃあ、あの美味しいフライサンドは

今は食べられないってことだ。」


と、途端につまらなさそうになった。


ユーリには心外であった。

この男には、季節のものを旬として楽しむ習慣がないらしい。


「出来なくはないですが、この時期はこっちの方がいいと・・・」


「僕らって、あんまそう言うの求めてないよ。」

つっけんどんに答える。


ユーリは、サムエルの言う"僕ら"がどの僕らなのか

"そう言うの"、とは具体的に何かなのか

詳細は分かりかねたが

宮廷魔術師クラウド、王都の英雄アルト、王立病院神官長補佐エリナ、ファインツ会長

その辺の需要をざっくり思い浮かべた。


ニュアンス的には、"お金を小羽屋に落としてくれる富裕層"であると解釈した。


"そう言うの"とは・・・?


「そうですか、申し訳ありません。」

とだけ伝えて

もう考えるのをやめることにした。


ユーリが何に対して謝っているのかは

自身にもよくわかっていない。


「僕が何か作る!」


唐突にサムエルはフライ返しを持ち出した。

急に料理心が目覚めたらしい。


「フィヨナにもあげよう!」


サムエルは意気揚々と料理を始めた。


突然のことに、ユーリは、フスッと

何か笑いの様なものが込み上げてきた。

サムエルと料理が結びつかないのである。


サムエルは、強めに塩をまぶしたスイートフィッシュを

フライパンで焼き始めた。


ジューっと言う良い音と香りが食欲を誘う。

魚と、香草の火の入れ方の順番が気になったが

ユーリはまた目を瞑ることにした。


ユーリは、サムエルに、これお願い

と言われるがまま

魚の肝を取り除く、香草をむしる、ニンニクを刻む、米を洗う・・・

など、楽しくない方の料理作業をした。


出来上がっていく料理を見て

サムエルも段々自分の料理が謎になって行くのを感じたのであろう。


なんだこれ!と言いながら笑っていた。

ユーリも最早笑いが隠せなかった。


サムエルが作った料理は

魚のリゾットの様なものだか

魚を丸ごと一匹使ったものだから

魚が米の砂風呂に浸かっている様な料理が出来上がった。


ユーリとサムエルには笑い転げながらこれを食べ始める。


まあ、素材はかなり良いので

美味しいのは、美味しい。

見た目のインパクトに笑いながらも

そのリゾットもどきを美味しくいただいた。


フィヨナお婆ちゃんの分もちゃんととっておいた。

・・・お婆ちゃんはなんて言うだろうか。


「おいしかったです。サムエルは料理もできるんですね。」

嘘ではない感想だ。


「僕ほど世界各地で料理を食べてる奴もいないからね。

でもこれは素材の味が良いんだ。何をしたって美味しいよ。」

思ったより謙虚な感想であった。


2人とも、お腹がいっぱいになったところで

サムエルが切り出す。


「色々考えてきたんだけど、集客方法を根本から考え直さないとね。」


ユーリとて、その話がしたかったのである。













挿絵(By みてみん)

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