表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/129

11. 小切手

突然の握手会は、徐々に

この小羽屋経営陣にも侵食してきた。


ファインツ会長がニコニコとフィヨナお婆ちゃんに話しかけ始める。

「この人らに目をつけられたなら、大丈夫ですよご婦人!

きっとこ宿屋も上手く行く!」


と言って、フィヨなお婆ちゃんの肩に優しくを置いていた。


「こちら、ユーリエ・ローワン。

この宿屋を切り盛りするために

エドルド魔法道具店の内定を蹴ってまで

ここに来たんですよ!」


サムエルがユーリの背を押して、ファインツ会長に紹介する。


「思い切りが良いな!勇気があるね君!

あそこの社長にはイーシュトライン支店を出す時に

私がかなり世話をしてやったんだよ!

私はファインツ・モルガン。

今はもう会社は息子に託して、隠居しているけれどね。」


意外とこの紹介はファインツ社長にウケたらしい。

丁寧に握手をしてくれた。

そして、前職の社長とまた繋がった。世間は本当に狭い。

エドルド(元バイト先の)社長とちゃんと話したことがないのは

最早私だけでは無いかとユーリは疑い始めた。


そして、モルガンには聞き覚えがあった。

モルガン建設という、ここら一体の大規模な、建築、施工を手掛け

公共事業にも多く参加してる会社である。


「それで、この宿は返済の見込みがないって?」

サムエル・ロビンズが、若い銀行員に突然聞いた。


「あ、いえ、私はただ、経営状況を確認に来ただけで・・・」

と、ごにょごにょと言う。


「残額は一体いくらなのさ。」

サムエルは、銀行員に詰め寄る。

銀行員は、ハイっと慌ててカバンを漁る。

「あ、えっと、残額にして元本 7,800,000マルです。」


渡された返済予定表をみたサムエルが早速突っ込む

「この利息って、何年ローン分?」


「あと10年です。」


「じゃ、今返済したら、コレよりもっと安くなるね?」


「はい、金利はこちらになってまして・・・え?」

銀行員は、耳を疑った。

ユーリも耳を疑った。


「僕が持つよ、このくらいなら。」


コレには、一同驚いた。

ユーリや、フィヨナお婆ちゃんはもちろんのこと

他の面々も、え?っとサムエルを見やる。

ははは、サムエル君も豪鬼だなー!

と、愉快そうなのは

ファインツ会長だけである。


元本の7,800,000マルと言う金額は

この辺りなら、土地付きの家が買える

食堂で昼食を取ろうと考えれば8,000食分くらい


とにかく、ポイっと支払えるような金額では無い。


「今は確かに小羽屋史上一番経営が難しい時だ。

周辺の現場から判断するに、銀行が返済の見込みがないんじゃないかって

判断するのは当然のことだからね。

一括返済を検討し出してもおかしくない状況だとは

僕も理解できるよ。」


サムエルは真面目な顔で続ける。


「でも僕は本気でここを黒字転換させる自信がある。

ユーリ、この前渡した小切手があるだろ?持ってきて。」


ユーリが躊躇していると


今度は強めに


「良いから、持ってきて。」


と言う。


ユーリは、控え室の棚に入れてあった小切手を持ってきた。

最後の宴席の場で、渡された、空の小切手。

サムエル名義の、王立銀行のものである。


サムエルはその銀行員が告げた金額を

その小切手にペンでサラサラっと

金額を書き足し、見せつけた。


「本当はこんな話、支店長にするべきだけれど?

この場にいる皆様が証人だから、良いよね。

君これ、銀行に持ってってくれない?」


高額小切手をずいっと、目の前に突き出す。


しかし若い銀行員にそんな権限も度胸も無い事は

明白であった。


「あの、私、支店長に聞いて・・・」


「フーン・・・てゆか明日にでも僕とこの子と行くから。

支店長のアポ取ってよ。」

ユーリを親指でさす。


「かしこまりました!・

・・あ、すみません、サムエル様。」


若い銀行員が何かに気がつき、申し訳なさそうに言う。


「ここを今から出て、馬車が見つかって、どんなに早くついたとしても、

イーシュトラインまで馬車で5,6時間はかかります。

あと1時間ほどで銀行の業務が終わってしまいますので

明日、と言う訳には・・・」


「はあ?銀行が転移の巻物ストックしてないわけないでしょ。」


サムエルは、自身が持っている転移の巻物を銀行員に渡した。


「後で支店長に新品の巻物に変えてもらうから

コレ使って早く戻って聞いてきてよ。」


私のような下っ端には使用する権限もなく

・・・みたいなことを

蚊の鳴くような声で言っていたが

ここでクラウドが

銀行員にとっても、サムエルにとっても

助け舟を出す。


「急いでイーシュトラインに戻るなら、今来た時の巻物で戻ろう。

アレは役場とこことを繋げたんだ。まだ発動してるはずだ。

その高価な巻物を使うまででもないだろ?」


パーティは、また今度だな!と言ってサムエルの肩を叩く。

サムエルはまあ、良いけど・・・

と言い、転移の巻物を引っ込めた。


「と言うことで、俺たちはコレで戻ることにするよ。

転移の巻物の効力が切れる前に急いだほうがいいな。

サムに、銀行員君もくるだろ?ファインツ会長はいかがですか?」


「帰りは早くていいな!お願いするよ。」


「わ、私も・・・」


今まで空気であった、サイラス爺さんが

図々しくも馬車道より

目の前の転移の術を所望した。


ユーリはゾッとした。

一瞬サムエルの顔が、見たことがないくらい冷たく

仄暗いものになっていたのを見たのだ。


しかし、瞬時ににっこり笑顔に戻り

サイラス爺さんに話しかけた。


「僕もあなたにお話しがありますので

是非一緒にイーシュトラインに帰りましょう。

特に、屋上のすぐ壊れる出来の悪い風呂について

ご相談がありまして。」


魔法使い建築家の男は、それを聞くとアワアワと

そういえば、リトルウイングで用事が・・・と言い始めたが


サムエルが、肩をガッチリホールドしたので

逃げ出すことができていなかった。

ファインツ会長には、これであなたも安心ですなー

などと言われている。

会長の方に悪気はなさそうだが

サイラス爺さんにはやはり、逃げ場など無かった。


「ちょっと!私たちも連れて帰ってよね!」

クロエが、騎士アルトを半ば抱えながら、急いでついて行く。

アルトは、もうただ担がれるのみの体になっていた。


「あ、あの、サムエル・・・」


完全に流れについていけていないユーリも

慌てて後を追ったが

そろそろ時間切れになりそうな転移の巻物の向こう側へ

皆が皆、慌てて行ってしまったのだった。


ユーリが転移の巻物に手を触れた瞬間

巻物は、ただの紙に戻ってしまった。


「今のは何だったの?」

エミルが恐る恐る様子を観にくる。


ユーリにも、今起こったことが、掴めないでいたが

今日のために作った新しい収支を

まだ握りしめていることに気がついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ