0.1. Iターン就職
どこかの世界の、ありふれた街道がある。
そこを走る馬車に揺られながら、物思いに耽る女が一人いた。
ユーリエ・ローワンはこの春
17歳で王国認定魔法学校を卒業したので
"魔法使い"と名乗れる立場にあった。
学校卒業後は
在学時から世話になっていたバイト先の
同じく王都の超有名大手魔法道具店に
商人として、正式に内定をもらい
就職予定であった。
安定した内定先・・・
自慢ではないが、誰しもが羨む内定先である。
長らくそこでバイトをしていたのが功を奏したのだ。
しかし彼女は魔法学校の卒業式を終えたその日から
長距離用の乗り合い馬車の中
今まで起こった事、これからの事を案じつつ
一人ガタゴトと、田舎道の悪さを感じている。
彼女の運命を変える手紙が届いたのは
今から半年前のことである。
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ユーリ
お元気ですか?
最後に直接会ったのはお爺ちゃんのお葬式の時ですね。
もうずいぶん立派になったことでしょう。
実は、相談があります。
最近、うちの近くに闇の帝王の手下が現れる様になったのです。
村長さんの説明によると
オーガとか言う人喰い鬼の将軍が
小さい軍隊を率いているみたいで。
そいつが使っている小鬼が村の牛を殺したとか
食べ物を盗んだりとか悪さをするものだから
やがては、この村全体が落ちるのではないか
なんて言われていたの。
そこで、村長さんが都の冒険者課に言って
将軍と、小鬼の討伐を依頼するようになりました。
冒険者様のおかげで、下っぱが村で悪さをする事は減ったんだけど
こんな辺境の地に宿屋なんて
ここしかないでしょう?
冒険者様が殺到しちゃって・・・
今は、ここの隣に住んでるエミル(よく旅行中はあなたと一緒に遊んでいた子だけど覚えてるかしら?)
に手伝いをお願いしてるけど
とても追いつかないし
最近では私も腰が痛くなってきてしまいました。
都で頑張っているユーリに相談するのは心苦しかったんだけど
休みの時でもいいから
手伝いに来てくれないでしょうか?
王都の素晴らしい宿屋でアルバイトもしていたと聞いていたので
つい、思いついて連絡してしまいました。
もし手伝いが難しくても
一度はこっちに顔を見せに来てくれると
おばあちゃんも嬉しいです。
フィヨナ・リンデン
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その手紙は、幼い頃、闇の帝王の軍勢との戦いで
焼き出された故郷から
出稼ぎに出てしまった両親の代わりに、ユーリ・・・
親しい者は彼女をそう呼ぶが
ユーリを育ててくれた、彼女の遠い親戚の
フィヨナお婆ちゃんからの手紙であった。
お婆さんの住む村は、ユーリのいる都からは
馬が高速で走る魔法をかけても
荷馬車で2日半かかる大陸北東部の高原地帯。
リトル・ウィングという山村であった。
忙しさにかこつけてなかなか会えず
連絡も出来ずにいたのだが
そんなことになっていたとは・・・
当時、闇の軍勢が地方の村を襲い
肥えた土地を手に入れようとすると言う話はよくあって
冒険者やら、軍隊やらが派遣されるということは
珍しいことではなかった。
しかしまさか、自分の養母の現住所付近でそんなことがあり
ましてや経営している宿屋が特需で混乱するなど
思っても見なかった。
いいのやら悪いのやら。
ユーリはかなり複雑な気持ちになっていたが
少なくとも、お世話になったお婆さんが困っていることは
明白であった。
ユーリは実際、学生時代に
王都の少々高級な宿屋でも
バイトをしたことがあったのだ。
もしかしたら役に立つことがあるかもしれない。
結果的に、ユーリは
学校の卒業式を終えた本日
内定先には丁重に辞退の申し出をして
フィヨナお婆さんの営む宿屋を手伝うべく
高速馬車に乗りリトル・ウィング村へ向かっているのである。




