6. 訪れた平和と新たな脅威
雷のゴンゴルドが本当の意味で倒された
あの最後の宴席があってから約3ヶ月が経とうとしていた。
ユーリはと言うと
青息吐息の表情で、辺境の宿屋小羽屋のカウンターに座っていた。
季節は雨季
じっとりと嫌な雨が降っている。
そして本日の宿泊客は0人。
・・・思い返せばリトルウィング村は
雷のゴンゴルドが倒されしばらくの後は
お祭り騒ぎになっていた。
その間はユーリも休む暇がないくらいに働いていたと思う。
ゴンゴルド討伐から一ヶ月を過ぎた頃である。
今度は、王都郊外に魔物騒ぎが勃発した。
何でも、王都郊外の閑静な地域リンボスと言う街にある
大層な規模の私立博物館が
丸々ドラゴンに陣取られてしまったらしい。
しかも、その龍を使役している闇魔術師がいるとかで
その博物館が迷宮化してしまった
とのことである。
何と冒険心をくすぐられる話であろうか。
途端に、冒険者の興味はこのリトル・ウィング村から離れ
猫も杓子もリンボスへ!
と言う有様になってしまった。
・・・片や、ここリトルウイング村といえば
たまに、田舎者や、駆け出し冒険者が
"雷のゴンゴルドが生きている"
と言う半年前の情報を信じてここにやってくる。
専らこの宿にある問い合わせといえばそれだ。
ユーリは何度、訪れてくる冒険者にと言ったことか。
「雷のゴンゴルドは騎士アルト・ルーベン一行によって倒されました。」
と。
最近では、カウンターの黒板にそう書いておくことにしている。
しかも厄介なことに
ゴンゴルドが手下として使っていた
ゴブリンたちが定着してしまったのであった。
大将を失ったとしても
ゴブリンは元々独自の社会を築くほどの力がある。
長閑であった周辺の治安が、絶妙に悪くなってしまった。
実際数週間前、村の女性が
ゴブリンに矢を射られて村の教会に救急搬送された。
こんな小さな村の教会で
完全な処置ができるわけもなく
女性は、完治しないまま
イーシュトラインへ運ばれたとのこと。
こんな話があっては、旅行者の足が遠のくばかりである。
ユーリも、小羽屋の裏庭に生えている大きな樫枯木の根空に
穴を掘って巣を作ろうとしていたゴブリンを
何度退治したことか。
観光客に喜ばれていた
庭にある池、卵を取るための平飼いのニワトリ
食堂のためにある小さな菜園
立派な実の成るライムの木
この件に関して言えば仇になっていた。
ゴブリンが狙ってくるのである。
ユーリは常に結界を張ることを迫られていた。
最近では、リトル・ウイング村でゴブリン1匹
死骸であろうと、生体であろうと村役場に持って行くと
ゴブリンが用いる毒の血清が作れるとかで
助成金が出るようになった。
もはや宿のお客様より、そっちの方が稼ぎが多い。
しかし、これを本業にするのは無理である。
害虫駆除を生業にしているイーシュトラインの業者が
都市や村に委託を取り付け
大規模に、且つ効率的に、ゴブリンを退治を始めたのだった。
そこに割り込んでゴブリン退治で稼ぐ
と言うのはまず無理である。
ゴブリンは見つけたらラッキー程度のものなのである。
ということは、冒険者にとっても同じことで
こんな辺境の地にやって来るメリットは無いに等しい。
冒険者の経験値を稼ぐには良いモンスターでも
実際問題それに需要がない以上
百害あって一利なしの厄介な存在であった。