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5. 予言めいた言葉、最後の宴席

ユーリは、やはりこう言う

華やかな大人数の宴席は苦手であった。

この奇抜な楽しいはずの冒険譚を耳にしても


どうしても、この場を去りたい

皿を片付けたい

清算の話がしたい

と言う、欲求から逃れられないのである。


大変素晴らしいお話をありがとうございます〜と言いながら

様子を観察するに

パーティのリーダーでありそうな

このサムエルにこそっとお話をした。


「すみません、祖母は今疲れてしまって引っ込んでしまったものですから

私も今到着したばかりでわからなくて・・・

この宴席のお支払いはアルト様御一行様がお支払いするとか言ってたのですが

如何様に??」


極力下手にお伺いした。


「ああ!それは全く心配ないよ!これに必要な金額書いてね。」


と、ペッと紙を渡してきた。


人間の、王立銀行の手形である。

名義人欄にはこのサムエルの

長ったらしい名前が書いてある。


何という豪胆な・・・


「ありがとうございます。

一度、お皿の片付けに行きますので、また改めて・・・」


「その必要はないでしょ、ほら。」


サムエルはまた最後まで聞かずにキッチンの方を指差して言った


ユーリがその方向を見やると、皿がふわふわと浮いており

キッチンの方に吸われていっていっている。

誰かが魔法でお皿を綺麗にしている様だ。


「ここにはコボルトがいるよね?任せておいたら?」


ユーリはハッとした。

コボルトとは、家に取り憑くと言われている

家事全般を担ってくれる妖精だ。


思えば、この状態はフィヨナお婆ちゃんから聞いていた人材で回し切れるはずがない。

ハウスキーピングなど考えただけで一番厄介な仕事であるはずなのに。


その正体は、このコボルトのおかげだったのかと

ようやく合点がいった。


「コボルトもいい奴らだけど、扱いには気をつけたほうがいいよ、特に・・・」


「ユーリ、俺たちそろそろ戻ろうと思うんだけど、お会計・・・

あ、ごめんね、お話中だったね。」


今度はサムエルの話が遮られることとなった。

現れたのは、ここまで馬車に乗せてくれた

幼馴染のエミルであった。

エミルの荷馬車はエールを運んでおり

ここに卸していったのであった。


エミルは、サムエルに向かって

こんばんはと、にこやかに、爽やかに挨拶をした。


対しサムエルは

急に怪訝な顔になった。


エミルをジロジロと見やり

どうも、と軽く挨拶をした。


誰も何も話し始めないので、

サムエルが突然話題を変えて話し始めた。


「ユーリさ、フィヨナから

王都の大手魔法道具店の内定辞退してきたって聞いたけど本当なの?」


打って変わって急に不機嫌になってしまった。


ユーリは、その棘のある態度に

違和感を覚えながら

ええ、そうです。と答えた。


「エドルド魔法道具店だろ。

あそこの社長、俺の後輩なんだよね。」


ユーリは

「そうなんですか、凄いですね。」

と、言うしかなかった。


王立魔法学校出身なら、主要な会社の社長はもしかしたら

ほぼ同じ学校なのではないだろうか。


サムエルは話の脈略もなく続ける。

「俺たちがゴンゴルドを倒したら

このあたりのマーケティングは相当変わると思うよ。

その辺は、考えて来た?」


突然の質問に、答えかねているところ

更ににサムエルは畳み掛ける。


君 は(・ ・)、賢そうだし、根性もありそうだから

何があっても何とか乗り越えていきそうだけども。」





「この宿、これから苦労すると思うよ。」




ここまで言い切り

少々間を置いたサムエルは

エールを改めて飲み直す。


ユーリが突然の言葉に言葉を失っていると


サムエルは今度は元の楽しげな様子を取り戻す。

と言うより自身を落ち着かせるかの様に

改めて話し始めた。


「まあ、僕はね

前の経営者の時からここが好きで通ってたんだ。

夜は見えないけどさ、食堂の大きな窓からの景色がすごくいいよね。

フィヨナが改装してからはずいぶん使いやすくなったし

屋上のお風呂は最近出来たの?あれは正直微妙だけど

とにかくいい宿だから気に入ってるんだよ。

僕としては、このまま頑張って欲しいんだ。

あの舞台は特に僕のお気に入りだし。」


この食堂にある、舞台を指さして言った。

あれは、昔からある舞台

と言っても少々小上がりになっているだけの

細やかな演芸用の舞台である。


背景は庭が見える大きな窓になっている。

小さいながらも池を中心にした、ルミナス湿原風の造園がしてあり


魔法の篝火(トーチ)でライトアップができるのである。

夜は見えないがその先には

ルミナス湿原が広がり、ルミナス山が一望できる素晴らしい景色だ。


ユーリがまだ何も言えないでいると

さらに、サムエルが続ける。


「まあ、数ヶ月後にはまた遊びに来るよ。頑張ってね!」


と言って、ユーリの背中をバシッと叩き

ニコッと、笑いかける。


そしてヒョイっと立ち上がった。


そのまま、サムエルは

舞台にヒラヒラと移動し、職業である、舞踏を始めたのであった。


それに合わせて、楽器を持っている冒険者たちが思い思いに、音楽を奏でていく。



「・・・彼、怒らせちゃったかな。君に話しかけたから。」

エミルは困っていた。


「何でよ?別に私に誰が話しかけたらダメとかある?

そもそも私、あの人と初対面なんだけど。」


先ほどバシッとされた背中がジンジンと地味に痛む。

ユーリはむしろ

あのサムエルの態度の方が非常識であるとも思えた。


「・・・何でもない。とにかく俺はもう帰るよ。

エールの伝票ここにおいておくからね。

割高なのは、あの冒険者様に免じて許してよ。」


ユーリが伝票を見やると、確かに見たことの無い値段が書いてあった。

しかし、この緊急時にここまで来てくれた恩がある。

言い返すほどの値段でもなかった。


「エミル、いろいろありがとうね。気をつけて帰って。」

とユーリが言うと

エミルはモジモジと話し始めた。


「俺、ちゃんと話していなかったんだけど

実はちょっとだけフィヨナにお願いされて

ここの宿を手伝ってたんだ。」


知ってるよ、ユーリは答える。


・・・多忙なあまり、突然トンズラしたことも。

全てフィヨナお婆ちゃんに聞いた。


「でも、急に辞めちゃって、フィヨナにもなんて謝ったらいいか・・・

僕もいっぱいいっぱいだったんだ。」


「もう良いって、お婆ちゃんにも、経営観念とか無いと思うし

私もエミルが辞めて当然だと思っているよ。」

ユーリは改めて本心を伝えた。


また、エミルはモジモジ話し始めた。


「よかったら、時々また手伝うよ。

本当に悪いと思ってるし

今度は事情も知ってるから、ちゃんと頑張るし。」


これからの生活に不安を抱えていたユーリにとっては

とても嬉しい言葉であった。


「ありがとう、そう言ってくれて嬉しいよ。

また、近いうちに会おうね。」


と言って、手を差し出した。


エミルは、エヘヘと言って、握手に応じる。


エミルが帰った後も、

この宴会は明け方、空が白んで来るまで続いた・・・・


その後も、オーダーされる料理に

ユーリはできるだけ答えた。


と言っても、できる料理など、自身が食べるものと

学生時代、王都の酒場でや宿屋の厨房で

バイトしていた時に作っていた

鶏の唐揚げくらいなものだ。


それでも皆は、特にサムエルは

美味しい美味しい、と言って食べていた。


あの時のサムエルが舞っていた踊りは

何の踊りかは分からなかったが

非常に迫力のある踊りで

見る者を惹きつけるエネルギーがあった。


ユーリの目から見ても、美しく忘れ難い光景となっていた。

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