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4.奇抜な作戦

サムエルの話を聞いて欲しい圧がすごい。

この様子では、聞きたいと言わざるを得ない。


「え、ええ、是非お聞かせ・・・」


「僕たちは、と言うか、この中だと僕とアルトだけども

先の戦いでゴンゴルドを逃しちゃっただろ?

そのせいでこの村に迷惑もかけたみたいだから

それが、ここの村に申し訳なくてさ。

だから、今回は、ちょっと卑怯な手を使わせてもらうことにしたんだ。」


また最後までユーリの言葉を待たずに

まあ飲みなよ!とユーリを座らせ

エールをどくどくつぎ、今回の作戦について語り始めた。

流れるような速さであった。


「先の戦いでアルトがゴンゴルドの首を飛ばしたのを

僕はバッチリ見ていたのにさ

ここにまたゴンゴルド現るって宣言している奴らがいるって

何かおかしいと思っていたんだよ。」


「ええ、神に誓ってもこの剣で、ゴンゴルドの首を落としました。」

騎士アルトも頷いた。


「だから今回は、この魔法使いのクラウドに相談してみたのさ

クラウドはほら、そこの街の、ほら

今はここら辺て誰が治めているんだ・・・?」


「イーシュトライン侯爵様だよ。良い加減覚えろ!」

魔法使いクラウドが口を挟む。

察するにこの人がこの辺一体を収める侯爵様の

お抱え魔法使いなのか。


「俺の専門は、ビーストテイムと、使い魔使役だから

リトル・ウィング半島にできたゴンゴルドの根城に

密偵を送ったんだよ。」


「王立魔法学校時代、ふざけてナメクジを使役してた!

あれは僕も世界が変わったな!」

サムエルが口を挟む


「彼らほど賢い生き物はいないよな。」


あはははは・・・

と2人は笑っていたが、魔法を学んだユーリと言えど

ハイレベルすぎてついていけないジョークであった。


王立魔法学校出身で、イーシュトライン公爵お抱え魔法使いの

クラウド・フィラデル様・・・と

頭のメモにそっと書き留めておいた。


「とにかく、俺が手下のゴブリン数匹をテイムして

密偵をさせて、更にカラスを数羽密偵にやったのさ。」


「今回はナメクジにしなかったんだな」


うるさいと、クラウドはサムエルを軽く蹴った。

2人は本当に仲の良さそうな雰囲気であった。


ここまで聞いて、ユーリはこのクラウドの実力がよく分かった。

クラウド氏の卒業した王立魔法学校は

超弩級エリートの通う学校である。


そしてこのモンスターや動物を服従させるテイムと言う魔法を

ユーリは学校の実習でしか使ったことがなかったが

普通、は、1人につき1匹が原則。


1匹だって自身の脳みそに

その使役した動物の視界やら

思考やらが入ってくる状態になるのだ。


学校では、一番実用的なカラスの使役をしたが

ユーリはあの飛んでいる時の浮遊感に吐き気を覚えた。

それを複数操るこの人は

どのような脳みそをしているのだろう。


しかも、テイムを日常生活で使用するには

ビーストテイマー1級と言う難関国家資格が必要であった。

王都のしがない私立魔法学校出身ユーリには

天上人のように思える。


「その結果僕たちは

ゴンゴルド一派にちょっとやばい黒魔術師がいて

あの世に行きかけてるゴンゴルドの魂を繋ぎ止めている。

そして、その次の新月の夜に、ゴンゴルドの魂を肉体に戻すために

魂の召喚儀式をしようとしていた

と言うことを突き止めたんだ。」


と、サムエルは続けた。


「そこで、彼女の登場さ!」


と言って、召喚士イーリスの肩に手を置いた。

イーリスは、ニコニコとサムエルの方を向いた。

うっとり眺めているように見える。


その雰囲気を見て、ユーリは何やらこの2人の関係性に

ひらめくものがあった。

今回の話には関係ないことなので、深掘りはやめよう・・・

と、黙って話を聞いていた。


「なんとイーリスは、ゴンゴルド直属の魔法使い

ダークエルフのオネギンから

ゴンゴルド蘇生の助手に勧誘されていたんだ!

彼女はここら一体のエルフの集落の中でも

召喚術に長けた一族の出身なんだよ!」


・・・何やらさらっとすごいこと言ったこの人。

敵の将軍直属の部下に勧誘?

反応に困るユーリ。


「そこで僕たちは、彼女にお願いして、お願いして・・・」


「やだ!サムエルったら!

私だって、オネギンがたまたま血縁だったってだけですよ!

私の一族の中でも、闇堕ちしたのは彼だけです。

オネギンだって、アラミンドル(エルフ本国)の王様から

"ノル・ルミナス"の名を正式に外されたもの。

それなのにオネギンったら

図々しくも力を貸してくれなんて!!」


何やらイーリスはとても楽しそうに話してくれた。

話から察するに、このイーリスと、オネギンはあのルミナス山にある

エルフ自治区の者なのであろう。その縁を頼ってきたか。

オネギンとは良好に縁が切れている様で何よりだった。


「それで私たちが、ゴンゴルド蘇生のためと言って

イーリスの手下としてゴンゴルドの根城に入ったの。」

ちびちびとジンライムを飲んでいたクロエは口を挟んだ。


「私なんて、初めはサムエルにイーシュトラインに遊びに来ない?

って言われて来たのよ。

蓋を開けてみたら、バッチリお仕事じゃないの。」

クロエはちょっと剥れた顔をした。


「ごめんてクロエ、だから食事代も飲み代も

この後のイーシュトライン観光も

全部俺僕らが持つからさ。」

サムエルは、わざとらしく謝ってみせる。

おそらく、確信犯であり、悪いとは少しも思っていない。

ユーリはそう認めて眺める。


「もう・・・こんなの王立学校のよしみじゃなかったら

絶対帰ってたんだから。

イーシュトラインのあの大きなスパ施設で

マッサージ、岩盤浴、お食事も!

全部プレミアムコースの方でね。」

と、クロエは所望する。


「お供します!!」

と、アルト、クラウド、サムエル3名が敬礼した。

クロエを含むこの4名は

王立学校で学んだエリート達なのだと理解した。


にしても、この3人を従えスパを堪能するクロエを想像すると・・・

是非、お姉様とお呼びしたい。

と、とユーリは思った。


「実際クロエ、あなたがいなかったら

私はあのまま死んでいました。

この作戦は、私が生贄になることが必要だったんです。」

と、クロエに深くお辞儀をした。


「イーリスが、ゴンゴルドを倒した張本人の

騎士アルトを生贄として差し出すことで

オネギンの信頼を得て、奴らの根城へ全員で潜入したわけ。」


「いやー、私今回、初めて死にました。」

アルトがはははっと笑った。


「いや、あれは実質気絶みたいなもんだよ。

一応、蘇生できる条件は心得てるもの、僕。」

手に掛けたのはサムエルであったらしい。


「本当にやると思わなかったわよ

・・・後、蘇生を絶対に舐めないでね。」


クロエは少々真面目なトーンで言った。

作戦は案外

行き当たりばったりだったのかもしれない。


そして、クロエの言う通り蘇生を舐めてはいけない。

やはりこの世界でも、死んだ者が生き返る

と言うことは基本的には出来ない。


ある程度対象の体が

蘇生のための条件を満たしている事

また、力のある蘇生術師がいないと、出来ない。

それでも成功率はかなり低いと言える。


・・・が、それをやってのけるのだから

このクロエお姉様は

やはり超優秀な人物なのでである。


「あの状態では、ゴンゴルドは殺すこともできなかったんだ。

ゴンゴルドを一度生き返らせる必要があったんだよ。

下手に他の奴らにアルトを殺させたら

本当に蘇生できなくなるからさ。」

クラウドは一応釈明をした。


「アルトは死んだ、と見せかけて、陰でクロエがすぐさま蘇生

でも、やっぱり一魂召喚の儀式に何かしら

生贄が必要だったからさ、別の生贄を用意して

・・・結局あれは何を用意したんだ?」


サムエルが聞く。

イーリスがそれは・・・と言い掛けて

クラウドがそれを引き取った。


「その辺に落ちてたナメクジ。生き物ならなんでもよかったんだよ。」


あはははは!!

とまた2人で笑い転げた。


ここまで話を聞いたユーリは

大分ゲンナリする思いがした。


結局のところ、あの世から召喚されたゴンゴルドは

騎士アルトの魂との融合を経て

強固な魂となり肉体へ戻り、この世へ復活する・・・


はずだったのに、ナメクジの魂と融合して

軟弱な魂と化し、この世に戻って来てしまったと・・・


「だからゴンゴルドの動きがあんな感じだったんだな!」

またサムエルが笑った。


「蘇生後は変にウネウネしていたから

手下のゴブリンと、オネギンを勝手に潰していた!」

クラウドも笑い転げてた。


後のことは赤子の手を捻るように簡単であったらしいが

一発、雷は飛んできたな!とまた2人は笑っていた。


爆笑する2人をよそに

アルトは苦笑いをし

「蘇生したての弱弱の私でも倒せましたからね。」

とぼそっと言った。


イーリスはすごかったです!!と言って、笑みを浮かべている。


クロエは呆れ顔でグラスを傾ける。


ユーリは今

天下に名を馳せた、雷のゴンゴルドと

何の罪もないナメクジに


深い同情を覚えていた。


ユーリは凄まじく破茶滅茶な作戦に、途中から言葉を失っていたが


「それは、なんと言うか、柔軟で奇抜な作戦ですね。

ナメクジの魂を使って敵を弱体化させるなんて

考えたこともなかったです。」


と、何とか、浅い感想を捻り出した。


「だろ?君、なかなか話がわかるね。」


と言って、サムエルはにっこりしながら

またユーリに顔を近づけてきた。


今の感想で一体私の何が分かったと言うのだ・・・

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