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1. Iターン、辺境の宿

リーブラックポートから

小羽屋があるリトル・ウイング村に行くには

アステア岳と言う山を迂回する必要がある。


深い森の道を数時間、細い馬車を走らせる。

最後に魔除けの結界が施されたトンネルを抜けると

アステア岳の反対側へと抜けることができる。


トンネルを抜けた先にはにはルミナス山、ルミナス盆地、ルミナス湿原

一体のルミナス地形という美しい景色が一望される。




ーーー雷のゴンゴルドは、冒険者によって討伐された。ーーーー




これは道中、知らされた事実であった。


ユーリも突然の吉報に少々混乱していた。


やがて馬車は、ユーリの心配を他所に

リトル・ウイング村に到着した。


アステア岳の麓の小さな村。


幼少期の旅行先といえばここであった。

思い出の街並みとほぼ変わりない。

雷のゴンゴルドとの戦いがあったとは

信じられないくらいに綺麗な街並み。


と言うより、街中は一切被害が出ていなかった。


なんなら、討伐のお祝いか何かだろう

街ゆく人はみんなニコニコしている。


道に人が転がっていた気がしたが

それは、ゴンゴルドのせいではないはずだ。

ユーリの見間違いでなければ

大きな酒瓶を枕にして寝っ転がっていたからである。


村人は全員無事であるとも聞いていたが

フィヨナお婆ちゃんの顔を見るまでは

たまらなく不安であった。


養母であるフィヨナお婆ちゃんの経営する小羽屋は

街並みから少し外れた景色の良い高台にある。

市街地を通ってから

もう一度アステア岳を登る必要があった。


里山の中に突然現れるムーランの木と言う

薄ピンク色の花をつけた大きな木

ちょうど美しく咲き誇っている時期であった。


ユーリの小さい頃から変わらない光景。

この大木の辻を曲がると現れる

自然の中には少々不釣り合いな大きな建物。


小羽屋である。


馬車が止まるや否やユーリは、荷台から降り

小羽屋の入り口へとかけだしていた。


ユーリは扉を開けようとする。


・・・しかし、扉を開ける前から嫌な気配がする。


どんちゃん騒ぎ、耳をつんざく笑い声、何かの音楽・・・


・・・これは、無礼講を過ぎてはいないか?


中に入りたくないと言う純粋な感想を退けて

意を決して扉を開けることにした。


途端に、後悔する様な

もわっとしたタバコ、酒男臭さを100倍濃縮した匂いがした。


冒険者、村人たちが沢山

ここで酒を飲みまくってるのであった。


げえっと、胃から何か込み上げてきた時

中の一人が、こちらに気づいた。そして大声を出す。


「おー!!ユーリ!!ユーリが帰ってきたぞー!!

おーいフィヨ婆!!ユーリだぞ!!」


酒場にいるほとんどがこちらを見る。

一瞬静かになる酒場。


今大声出したのは、どこの何奴だ?

誰の許可を得て私の愛称を呼んでいる?


・・・また失礼な感想が芽生えるのを押し殺し

なんとか笑顔を取り繕い


どうもー、お世話になりますーと

思ってもいないことを言いながら

ユーリは中に入ることにした。


こっち見るな、私に呼びかけんな

とまた残酷な気持ちが込み上げる。


「ユーリなの?帰ってきたのね、まあ心配かけたねえ、悪かったねえ・・・」


と、台所からフィヨナお婆ちゃんがトコトコと出てきた。


以前に会った時よりもさらに痩せてしまって見えた。


ユーリはすでに色々な感情が混ざってしまっていた。

思わず小走りで駆け寄る。


「あ、お婆ちゃん、無事で本当に良かった・・・

ここが封鎖されたって聞いたから、どうなったかと・・・」


まぁまぁ・・・

とお婆ちゃんが、ユーリを抱きしめてくれる。


ユーリはハッと気がつく。


・・・すごくいいシーン風になっている。


ユーリは、こういう御涙頂戴系の

わざとらしい演出が大嫌いであった。


それを、自らやってしまうとは。


さっと血の気が引いた途端、時はすでに遅かった。


一瞬静かになっていた酒場が再び盛り上がりを見せてしまった。


ヒューー!!


ユーリおかえりー!


ユーリ!!


フィヨばあちゃん!!


ゴンゴルド討伐万歳!!


ばーちゃん!とその孫!良かったなー!!


孫おかえりー!!


そして再び聞いたことがない謎の音楽が奏で始められた。


フィヨナお婆ちゃんは、困った顔で小さく笑っていた。


若者のユーリですら不愉快なほどの音量だ。


フィヨナお婆ちゃんに良い環境であるはずがない。


ちょっと、ちょっと、、と言いながら

裏の控え室へと

お婆ちゃんを連れていった。

扉を閉めれば、若干はマシである。


「お婆ちゃん、ちゃんと休んでる?

こんな荒くれの相手なんて

・・・こんなの非常識だよ。」


ユーリは心配で仕方なくなってきた。


「休めてはいるのよ、もう事態が事態だから、私も諦めてるんだけど。

キッチンも、食器も、もう何もかも使って良いわ、って言ってあるの。

そろそろお酒も足りないから、

冒険者さんたちにリーブラックポートにお使いにも行ってもらって

給仕なんかも、もう全部冒険者さんが勝手にやってるわ。

みんな、私は座ってていいなんて言うから・・・」


フィオナお婆ちゃんもどうしたら良いのか

わかっていない様子である。


ユーリは、はあーっと、頭を抱えた。


やはり、非常識だ。


「とりあえず、お婆ちゃんは一旦家に帰って日常生活に戻ろう?

こんなの疲れて当然だよ。

避難だってしてたんでしょ?

私はひとまず、場を納めて、お金とか回収してくるから。

お金はどうなってるの?」


「アルト様とお仲間の冒険者の方が全部持つと言っていたわ。

彼らがオーガの将軍を倒したのよ。」


フィオナお婆ちゃんがにっこりとした。


お婆ちゃんの言う、アルト様とはアルト・ルーベンと言う冒険者であろう。

その声のトーンを聞けば、アルト・ルーベン御一行が

何やらフィオナお婆ちゃんの心を掴んだ。

と、言うことだけはよくわかった。


「とにかく一旦休んで。」


いいのかしら、と遠慮するフィヨナお婆ちゃんを

ユーリは足早に居住棟へ誘う。


自身は、再びあの喧騒へ戻る決心をした。


意を決して再びあの男臭さ漂う扉を開ける


案の定


ヒューーー!!


ユーリが最高のエールを持って帰ってきてくれたぜえ!!


ありがとう!!


アルト・ルーベン様一行ありがとう!!


ユーリの頭にガンガン響く歓声。


もうこの喧騒は放っておいて

今はこのキッチンに山積みになっているお皿を片付けたい。



















挿絵(By みてみん)

ムーランの木。名の如くです。

生家の近くに立派なモクレンの木があり

目を見張るような

美しい花を咲かせていました。

By Chat GPT

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