第6話 Friend
「イマ、キキノコトヲブジョクシタナ?」
人形はそう言うとココルに向かって飛びかかる。ココルはそれを剣で受け止める。
「ユルサナイユルサナイユルサナイ!!」
人形はどういう原理か浮遊し、次々とココルの首を斬ろうとナイフを振るう。しかし、ココルはそれをすべて捌く。
遂にココルは人形を弾き飛ばし、吹き飛んだ人形は地面に顔を擦る。
「今だ!!」
ココルは地面に落ちた人形に向けて剣を下ろそうと構える。
「・・・!!」
キキがその黄色い目を開き何かを呟く。突如…
「なんだ⁉」
ココルの動きが剣を振り上げた状態で止まってしまう。それを見てコウは「かなしばりか!」と叫ぶ。
人形はゆっくりと立ち上がりナイフを構える。
「アリガトウキキ、ワタシハスグニコノクズノシタイノウエニ…」
人形は地面から飛びあがりココルの首を狙う。
コウが「危ない!!」と叫びながら走り出す。そしてココルを押し飛ばし人形からの攻撃からココルを守る。
「ありがとうコウ…
コウ⁉」
ココルは体を起こしコウに礼を言うが、その瞬間驚き目を見開く。キキもコウを見て手で自分の口を押さえる。
コウはココルを押し飛ばした後ココルを斬ろうとしていた人形のナイフに当たってしまい腕に傷を負っていた。その傷は致命傷とはならない程のものとはいえかなりの深手だ。
腕を押さえるコウを見て一番うろたえたのは以外にも人形だった。
「アレ?オカシイナ?オカシイネ?ナンデアイツガキズツイテンノ?ワタシガキズツケタ?
ダメダヨネ、ダメダネ。キキノトモダチコウホガケガスルナンテオカシイヨネ?」
人形はナイフを持っていない左手でせっかくキキに整えてもらった髪をぐしゃぐしゃにする。しかしその行動はすぐに終わり、改めてココルに怒りの眼差しを送る。
「コノクソオンナ!!オマエノセイダ!!オマエガヨケナケレバコノオトコハキズツカナカッタ!!」
人形はナイフで空気を斬り、再びココルに斬りかかろうとする。
コウはケガをした方の手を人形に向け伸ばし「待て!!」と叫ぶ。
「この状態じゃすぐにはココル大尉を救えない。くそ!またダメなのか…」
コウがそう諦めかけた瞬間、商店街の方から規則的な革靴の音と声が聞こえてきた、
「噛み付け、蛇の如く…」
その声は静かで、しかし聞いたものをどこか恐怖させる威圧感があった。
「縛り付けろ、鎖の如く…」
そしてその声はコウには聞いたことがある声であるにも関わらず今までの彼のイメージとはかけ離れた雰囲気の物だった。
そして声の主が姿を現し、腕を人形の方に向けて振るう。
「絡みつけ!!鎖蛇!!」
瞬間、先端の尖った鎖が人形に絡みつき縛り上げる。さらにその奥にいたキキまでも縛り付ける。
コウが鎖の伸びてきた方を見て驚く。
「ココル大尉に新人君。『殺人人形』の逮捕おめでとうございます。」
コウの目線の先は右腕の袖から鎖を伸ばしいつものように顔に張り付いたような笑顔をしたヒルがいた。
「ココル大尉の通信が途中で切れるものですから『純白の羽根』の仕事を後回しにして急いで探し回りましたが。いやぁ、間に合ってよかった。
それにしても、新人君。『殺人人形』の逮捕なんて大手柄ですね。さっそく昇格かもしれませんねぇ、隅に置けない男ですね貴方は。」
ヒルの言葉にココルが膝を付きながらヒルの方を冷めた目で見ながら「いや、お前が捕まえてるじゃん。」と答える。
「…え~、ほら、貴方達がその『殺人人形』と戦ってくれて力を奪ってくれたから私のような貧弱な男でも捕まえることが出来て、『殺人人形』が今もおとなしくしてくれているじゃないですか。もし、『殺人人形』が抵抗してきたら私は何もできず逃げられてしまいますよ。ハハハッ。」
偽物の笑みのような顔のまま乾いた笑いを出すヒル。それに対してココルは人形を見ながら言う。
「いや、お前の鎖って抵抗するほど締め付ける仕掛けがしてあるじゃん。だから抵抗してても逃げれないんだろ。」
それに合わせるかのように人形が「コノクソクサリガ!!」と抵抗していた。
「しー、お黙りなさい。新人を育てるコツはまず褒めて伸ばすことが大切なんですよ!!」
ヒルが指を口の元に持っていきココルに向かってひそひそと言う。最もその声は本来聞かせないようにすべきコウの耳にもはっきりと聞こえていた。
「オメェラワタシタチヲムシシテクダラネェコトシテンジャネェヨ!!」
その光景を見て耐えられなくなったのか人形が騒ぐ。
「うるさい人形ですねぇ。それじゃぁ15時49分、殺人の容疑でキキ=モーラを連行します。」
ヒルはその鎖を引っ張って人形とキキを機関に連れていく。コウは機関に連れていかれるキキがコウに向けている寂しそうな目が気になった。
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キキと人形は牢屋に入れられた、キキはそのままではあるが柵から逃げれそうな人形は縄で体を縛られての投獄である。
「フザケンナヨアイツラ。ナンデワタシガシバラレナキャイケネェンダヨ。」
その人形の声が暗い監獄に響く。その声が聞こえなくなったぐらいに何者かの足音がキキ達の牢屋に近づいてくる。キキの牢屋の前に現れたのは白いナース服の茶髪、エメラルドのような緑の目をした女性だった。
「キキちゃん…どうしてこんな…」
女性は小さな声でそう呟く、それに対して人形が質問する。
「オマエ、キキノナンナンダヨ。」
それに対して女性は下を見ながら答える。
「元・友達…一方的ではありますが。」
「トモダチィ?キキハトモダチナンテイママデイナカッタッテイッテンゾ?」
「そうですね、今は違いますから。それに今の私にはその権利もありません。」
「ナニイッテンノ?オマエ。」
女性と人形が話しているとコウがそこに現れる。
「あれ?貴方は⁉どうしてここに?」
「これはコウさん、私はただキキち…いえ、『殺人人形』の健康状態の確認ですね。
それでは私は失礼します。」
「ハ?ワタシラソンナノウケタオボエネェケド?」
「と言ってますが…?」
人形とコウの質問に帰ろうとしていた女性は振り向き答える。
「いえ、今は道具もないので見るだけで。本格的なものは明日行います。」
そこまで言うと女性は再び監獄から出ようとする。コウの「待って!!」という静止すら届かず。
コウは追うか迷ったが、まず先に言うべきことがあると判断しキキの方を見て言う。
「キキ、俺は今のお前とは友達にはなれねぇ。」
その答えにキキは悲しそうな目をコウに向ける。その目に心を痛めつつコウは続ける。
「だが、ちゃんと反省してもう二度と殺人をしないなら。罪をしっかり償ってくれたなら、俺はお前と友達になりたい。いいかな?」
コウのその言葉にキキは目を光らせる。そして目をつぶり本気で大声を出すようにして話す。
「分かった・・・私・・・ちゃんと償う・・・だから・・・」
その声はあまりにも小さかったがコウの耳にはしっかりと届いた。
「ああ、その時は友達になろう。」
コウはそういってキキに笑顔を見せた後、茶髪の女性を追いかけ走り出す。
コウが見えなくなってから人形は呟く。
「ヨカッタナキキ。ワタシノヤクメモオシマイカ…」
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「ちょっと待って。」
コウは茶髪の女性を追いかける。それに対して茶髪の女性は振り向く。
「なんですか?私に何か用でしょうか?」
「いや、キキのこと何か知ってそうだったから。」
「ええ、知っています。いえ、正確には今の彼女については知りませんが。」
女性のその意味不明な発言にコウは混乱しながらも話す。
「では人形。メリーについては…」
「あの人形からは人への恨みが強く感じられました。オカルトじみた話ですが、強い感情を持って動き出す人形はごくまれに誕生します。そしてキキは祖母の影響でオカルト関係に詳しいのであの人形とも関われたんでしょうね。」
女性の答えはコウにはよく分からないものではあった。しかし未来の友達について少しでも知れたことに満足した。
「ありがとうございます。あ、最後に貴方の名前は…」
それに対して女性は驚いたように少し目を開き答える。
「あれ?貴方には話していませんでしたか。」
そして女性は両手を前に重ね上品にお辞儀する。
「私の名前はイルオです。」
「イルオ…
かっこいい名前ですね。」
その答えにイルオは今まで以上に目を開く。
「え、ええ、ありがとうございます。この人は感が悪くて良かった。」
最後の言葉はコウには届かなかった。そしてイルオは続ける。
「仕事は主に治療ですね、コウさんが怪我した時や気分が悪くなった時また、面倒を見ますから気軽に医務室に来てください。
まぁ、今回みたいに私以外が対応することもありますが。」
イルオはコウの腕の包帯を見ながら続けた。
「ええ、また倒れたときはお願いします。」
その答えを聞いてイルオとコウは分かれ、コウは自分の部屋に移動する。
途中「(あれ?今回の俺って倒れて医務室に、ってことあったっけ?)」という疑問が出たが、それは今回の疲れによってすぐに消えてしまった。




