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ワールドプリズン 〜その監獄からは逃げられない〜  作者: HAKU
第三章 希望の花

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23話 暴食と憤怒と強欲と

 前回のあらすじ

 

 アネモネの香水を盗んだコウは、彼女がサキュバスであるため、人を魅了しないために、あえて香水で、サキュバスのフェロモンを消していることを知る。

 彼が、香水を返しにいくが、その時にはすでに、彼女のフェロモンは街中の男達を昇天させるほどの、凶悪なものになっていた。

 彼が彼女の部屋の扉を開けてしまい。『チウデッド』の男達は、皆死んでしまった。

「…?確か君を『腸の発掘家』から助けた日にも、この都市で歌っていたと思うが。」


 コウが意識を取り戻すと、彼は再び、アネモネと出会う直前の時間に戻ってきた。

 それからコウは、今までと同じ通りアネモネと出会い香水を拾って、すぐに彼女に返しに行った。

 話を立ち聞きする暇もないぐらい、すぐにノックして、部屋に入ったためか、彼女はコウに対して、最初の『香水を持ってきた時』の対応とは違い、皆に話しかけるような、優しい口調をしていた。

 一応、コウが話を盗み聞きしていないか、確認してきたが、彼はそれに「何も聞いてません。」と返した。


 ──────────


 香水を返したコウは、ココルと一緒に祭りの会場の警備に入った。

 辺りはいろいろな屋台を出しており、とても賑やかになっていた。

 老若男女、誰もかれもが楽しんでいるその姿を見て、コウも楽しい気持ちになっていた。

 しかし、そんな中、コウ達の心を持っていく言葉が聞こえた。


「のう。ここは食い物屋じゃないのか?何故(なにゆえ)、人がおらんのじゃ?」


 言葉の主はバグジアスだった。


「さ、さぁ。な、なんででしょうね…。」


 バクジアスに怯えながら、屋台の店員はそう答える。


「よぉ、バグジアス元帥!休暇か?」


 ココルの言葉に、バグジアスはコウ達を見た。


「む?アヒル女と勇者の卵君か。妾はこの祭りに参加している『あいどる』?とかいう奴の護衛に来ているんじゃ。」


 バグジアスの言葉に、コウは驚く。


「え!? この『アネモネ』の護衛って、八元帥も参加してるのか!? じゃなかった、してるんですか?」


 コウの反応に、バグジアスは笑って言う。


「別に、わざわざ言い直さなくても良いぞ。八元帥全員じゃのうて、ジルド殿と彼の率いる『承和色(そがいろ)の盾』がその『あいどる』を直接護衛していて、妾とオニギジア殿が祭り会場を警備中じゃ。

 ついでに腹が減ったから餌を探しておった所じゃ。祭りは餌がいっぱいあってよいのぉ。仕事中につまめるから、妾は祭り大好きじゃ。」


「『刃無き騎士』と『復讐の鬼』も参加してるのか。…。ん?ちょっと待て。貴方、思いっきり任務中にサボってるんじゃないですか!!」


 コウのツッコミに、バグジアスは口をとがらせる。


「だってぇ、四六時中、妾は腹ペコだしぃ。妾が本気出すとジーギガス殿が怒るしぃ。妾は基本呼ばれた時に助太刀すればいいのじゃ。」


 そう言って、バグジアスは再び、屋台の方に向き直る。


「して。何故(なにゆえ)、この屋台は客が来とらんのか!不味いのか?高いのか?」


 バグジアスの質問に、屋台の看板を見たコウが言う。


「この屋台の名前…。『たこ焼き屋』って。まさか、この場所。あのタコを焼いてるんですか!?」


 そう驚くコウに、店員は言う。


「はい。この球体にはタコの足が入っています。」


「そりゃあ、売れるわけないでしょうよ…。」


 コウとココルがひいていると、バグジアスが質問する。


何故(なにゆえ)タコだと売れんのじゃ?」


 その質問に、コウが返す。


「タコは『海の怪物』なんですよ。そんなもの、誰も食べたいと思わないんですよ。」


 コウの言葉に、店員はため息をつく。


「東の、『ワの国』でなら、かなり好きな人が多いんですけどねぇ。」


 コウはそれに、「(こんなものを食べる人達がいるのか。)」と思う。


「ふむ。海の怪物か。であれば、そのたこ焼きとやら、『貪食の怪物』が食うてやろうぞ!それで、美味であれば、妾は嬉しい。妾の反応を見て誰かが買えば、汝も嬉しい。『うぃんうぃん』?と言う奴になるな!」


 バグジアスが、笑顔でそう言う。そして、彼女は首をかしげて店員に質問する。


「して、そのたこ焼きとやらは、1ついくらじゃ?」


 その質問に、店員は慌てて答える。


「え!ど、『貪食の怪物』がお金を払うのか!? い、いや。たこ焼きは、6個で1セット。これを1船と言いますが、うちは1船300トルでやっています。」


「わ、妾だって、常識は覚えようとしてるのじゃよ…。いや、昔は人間の物を食らうのにお金がいるなんて知らんかったから、払わなかった時期もあるからそう思われても仕方ないけどさ…。」


 バグジアスが少し落胆する。

 しかし、すぐに笑顔に戻る。


「しかし、6個セットで300トルか…。妾のお小遣い全部出せば、600個もくえるのか!」


 その言葉に、コウが「元帥の小遣いが3万なのか…。」とつぶやくと、バグジアスが落ち込んだようにして話す。


「だって、妾。いっつも腹ペコだから、すぐ散財して所持金なくなっちゃうんだもん。それで、空腹で暴れられちゃ困るからって理由で、ジーギカス殿が毎日、妾の給料からちょっとを、その日の小遣いとして渡して、妾は給料事態を自由に使うこと出来ないんだもん。

 今日はお祭りだからって交渉して、いつもより多めなんじゃぞ!これでも!」


 彼女の反応を見て、コウは思った。


「(クレッシェ元帥やギャラク元帥の件もあって。結構最近まで、この人を怖がっていたけど。意外と抜けてるところあるな?)」


 店員もそう思ったのか、彼のバグジアスに対する対応が普通になってきた。


「それで、何船買いますか?」


 店員の言葉に、バグジアスは赤茶色のお札を取り出し笑顔で言う。


「そうじゃの、初めて食べる物じゃし、とりあえず60個…。じゃなかった!10船頂けるか?」


 お札を受け取った店員がたこ焼きを準備している間、わくわくしているバグジアスを見て、コウは言う。


「とりあえずで、10個なのか。そりゃすぐ金欠になるわな…。」


「うぐ!だ、だって。1個2個じゃ不味かった時、たまたまそれが悪かっただけで、本当は美味かもしれないしぃ。」


 バグジアスがすねたように、人差し指同士をちょんちょんと合わせていると、店員がたこ焼きを屋台の端に並べ始めた。


「フタとかありませんから、急いで食べてください。」


 店員がそう言うと、バグジアスは、たこ焼きの入った小舟に付いた爪楊枝を手にして、「それじゃあ、いただきますじゃ。」と手を合わせた後、たこ焼きを1個口に入れた。

 そして───


「う~ん!! すっごく美味じゃ!! こんな美味な物食べたの50年ぶりぐらいじゃ!! なんで誰も食わんのじゃ!! 人生の大損じゃぞ!!」


 バグジアスは、手を頬に当て、喜んでいた。

 さらに、彼女は出来上がるたこ焼きを次々と食べ始める。

 その光景を見て、周りの人が集まってくる。


「何?あのタコを食料にしたの?ありえない!」「でも、あの子すっごい美味しそうに食べてるわよ。」「ちょっと怖いけど、試してみるか?お、おい!兄ちゃん!俺にも1つ売ってくれ!」


 バグジアスが美味しそうにたこ焼きを食べるのを見て、色々な人達がたこ焼きを買い始めた。

 しかし、バグジアス自身は自分の行動が、本当にたこ焼き屋を救っていることなど、気付きもせず、ただ淡々と、たこ焼きを食べ続ける。

 コウはそれを見て、「(この小さな体のどこに、たこ焼きは行っているのだろう…。)」と疑問を抱く。

 そして、いよいよ、最後の1個となった時、バグジアスは手を止めた。


「うっ!いつの間にか最後の1個になってしまったのじゃ。お、落ち着くのじゃ妾。まだ、お金があるとはいえ、他にも美味な餌達があるかもしれぬ。それを味わえぬのは、人生大損じゃ。

 最後の1口。良く味わって食べるのじゃ!」


 バグジアスが慎重に、最後の1個に爪楊枝を刺そうとすると、赤髪短髪の男性がたこ焼き屋に近寄ってきた。


「おいおい!何の騒ぎだ?蟲野郎。てめぇ何かやらかしたんか?」


「ちょっと!オニギジア殿!妾今、すごい集中してるのじゃ!邪魔しないで欲しいのじゃ!」


 コウは、目の前に現れた男が、八元帥の1人、『復讐の鬼』のオニギジアであることを知り、驚く。

 しかし、そんなことなど、気にも留めず彼は───


「何食ってんだ?おめぇ。」


 屋台にある爪楊枝を、乱暴に取り、バグジアスの手にある小舟から、最後のたこ焼きを取り、食べてしまう。

 バグジアスがそれを見て、「あっ!」と声を上げる。


「妾が食べようとしてた最後の1個なのに!返せ!! たこ焼き代!6個セット300トルじゃから、300割る6で…。え~っと…。」


 頭を抱えるバグジアスに、オニギジアが穴の開いた茶色い貨幣。5トルを取り出して言う。


「5トルだな!ほらよ!」


「そうそう。5トル。感謝するぞ!オニギジア殿!」


 笑顔を見せるバグジアスに、小声でコウは言う。


「300あるパンを、6人に分けると、1人はいくら食べれるでしょうか。」


 それを聞いて、バグジアスはハッとする。


「あ!1人50個じゃないか!オニギジア殿!騙したな!」


 怒るバグジアスに、「こんな簡単な計算に、引っかかる馬鹿のお前が悪いんだよ!」と言って逃げるオニギジア。

 バグジアスは持っていた小舟を食べると、すぐに「逃さんぞ!食べ物の恨みは怖いのじゃ!」と彼を追いかけ始めた。


「俺、八元帥が何なのか分からなくなってきました。」


 2人を見ながら、コウはそう呟いた。


 ──────────


「「アネモネのライブ。午前の部、最後の歌が始まります!! ぜひ、祭り会場中央エリアまで、お集まりください!!」」


 コウ達が街を歩いていると、突然そんなアナウンスが流れ、コウ達は祭り会場の中央エリアへと移動する。

 すると、ステージから手を振るアネモネの姿があった。


「みんな〜。午前の部最後の曲歌うよ〜。今回は新曲だから、みんなしっかり聞いてね〜!!」


 アネモネの言葉に会場は大きな盛り上がりを見せる。


「それじゃあ歌うよ〜。新曲『希望の花』。」


 アネモネがそう叫ぶと、会場から電子音が流れ出した。


「【花はただ日を求めまして、ひたすらに空を目指しました。気づけばカルミア()を踏み潰してた。アネモネは一番上に咲いていた。

 草に慈悲はなく、腐ったカルミア()のことを、冷たい記憶の奥底に、隠してしまいました。

 意味も分からないけど、枯れたカルミア()は忘れ去られ、ただそこに咲いていた毒花が愛された。


 アネモネ()は周りを腐らせて、たちまちに希望の花と言われ、貴方の肩書を奪っては、ひたすらに泣きました。


 誰も覚えてなく、ただそこには私がいて、ただの幻と言われても、確かに貴方はいた。

 顔も崩れていき、声も遠くなるけど、だけど、最後に私だけは、貴方を覚えてたい。

 ノイズ、響くだけの、野花とは違った、ただひたすらに美しい、高嶺の花を見た。

 それに、魅了されて、ハンデを背負っても、いつか隣に咲くことを、いつまでも夢見てた。

 いつまでも夢見てた。今でも泣いている。】」


 アネモネの歌が終わると、拍手が舞い上がる。

 ただ、コウ1人だけは、彼女の歌詞に違和感を覚え、ただ立っていた。

 アネモネがお辞儀をして、ステージを降りると、突然観客の方から、男の叫び声が聞こえた。


「やっと降りてきやがったな!アネモネぇ!!」


 男は手に包丁サイズの刃物を持って、観客の中から現れる。


「ア、あなたは!一ヶ月前わたしに、ストーカーしてた男!! の方!」


「俺はお前に50万トルも使ったんだぞ!! ライブチケットに、CD。何個も買ってやったのに、なんで、握手会を開けって願いすら聞き入れてくれねぇんだよ!!」


 後退するアネモネに、ストーカー男は刃物を握りしめ走る。

 コウ達が慌てて、それを止めようと走る。

 直後、白髪の男性がアネモネの前に立ち、両手を突き出す。


「『強欲の大盾(マモンシールド)』!!」


 彼がそう叫ぶと、彼の目の前に、彼の背丈ほどの大きさの、黄色味がかった白色の盾が現れ、ストーカー男の刃物を止める。


「あなたは!?」


 アネモネがそう聞くと、彼は彼女の方を向いて、笑顔を見せる。


「私は『世界統一機関、八元帥』の1人、ジルドです。『刃無き騎士』の名の方が有名でしょうか。

 そんなことはさておき、安心してください。この盾はあらゆる衝撃を吸収します。

 最も、問題解決するかどうかは、私の口次第ですが…。」


 ジルドはそう言うと、ストーカー男の方に顔を向ける。


「さて。アネモネさんが、私の護衛対象に入っている間、貴方は決して彼女を傷つけることは出来ません。その刃物を捨て、今すぐにこの街を立ち去るのであれば、今回は私は見逃すつもりです。

 勿論、アネモネさんが捕まえてほしいというのであれば、逮捕しますが。」


 ジルドの言葉に、ストーカー男は怒声を上げる。


「うるせぇ!! 『刃無き騎士』か何だか知らねぇが。握手会を開いてもらおうとして何が悪い!! 俺は6年もあいつのファンをしていたんだぞ!!」


 ストーカー男の言葉に、アネモネは下唇を噛む。

 それを見て、ジルドが言う。


「彼女にも、理由があると思います。ですので、ここは一旦落ち着いて、引いてください。もしかしたらいずれ、彼女から理由が語られるかもしれない。こんな、物騒な行為をする意味がない!!」


「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!」


 ストーカー男はそう叫び、『強欲の大盾(マモンシールド)』を斬りまくる。

 しかし、その盾には傷1つ付かない。

 ジルドは再び彼に言う。


「早くこの街から離れてください!! これは、貴方の命にもかかわる話です!! どうか、私の我儘。誰1人(・・・)死なせたくないという私の強欲。それに付き合ってください!! 早くしないと、彼らが…。」


 ジルドが叫んでいると、彼の左側から声がした。


「なんだぁ?ライブも終わってるはずなのに、人だまりが消えねぇと思ったら。

 てめぇ?『世界統一機関』(俺の仲間)に、何してやがる!」


 その声に、ジルドが怯えた声を上げる。


「オ、オニギジアさん…。」


 ジルドが声のする方を見ると、そこには怒りの表情をあらわにしたオニギジアの姿があった。


「『統一機関』への暴力。これが、10年の懲役。さらに、『八元帥』への暴力で、さらに50年。」


 両腰に1丁ずつある赤に黄色の装飾をした拳銃に手をかけ、じりじりと近寄るオニギジア。


「そして、俺を怒らせた罪。これは必ず死刑!!」


 彼の言葉を聞いてジルドが、ストーカー男に向けて叫ぶ。


「逃げろ!!」


 ジルドの言葉を聞いて走り出すストーカー男。

 オニギジアがそんな彼に、拳銃を向ける。


「『憤怒の弾丸(サタンズバレッド)』!!」


 オニギジアはストーカー男に向けて、赤色の弾丸を連射する。


「おらおらおらおら!逃げても無駄だぞ!俺様の弾丸(怒り)は無くならねぇぜ!!」


 観客達がそれに、叫び声を上げる中、ジルドが部下達に言う。


「直ちに、会場の人を護衛せよ!オニギジアさんの弾丸から、皆さんを守れ!!」


 ジルドの叫びを聞いて、オニギジアが言う。


「てめぇ、もやし男!後で覚えとけよ!! 俺を犯罪者か何かみてぇに扱いやがって!!」


 ジルドも彼に言い返す。


「実際、貴方の行いは、あの犯罪者より凶悪です!!」


 ジルドの言葉に、オニギジアは足を止め、ジルドに向けて弾丸を放つ。


「てめぇ!今にでも死にてぇらしいな!」


 しかし、ジルドは『強欲の大盾(マモンシールド)』に守られ傷付くことは無かった。

 オニギジアが、ジルドの攻撃に集中していると、ストーカー男が、バグジアスとすれ違う。


「ふっふふ~ん。ワッフルにアイス。色々食べたけど、やっぱり本日最後を締めるのは、たこ焼きじゃねぇ。

 おん?なんじゃ?こんな祭りで、血相を変えて走る男がいるとは。便所か?」


 バグジアスの言葉に、オニギジアが再びストーカー男の方に振り向き、走り出す。


「てめぇ、逃げんじゃねぇぞ!! 死刑の決まった大罪人が!!」


 オニギジアの言葉を聞いて、バグジアスはストーカー男を見る。


「ふむふむ。死刑の決まった大罪人か…。なら。()ってことじゃな?」


 バグジアスがたこ焼きを咥え、あいた右手を後ろに向ける。

 すると、その右手に、次々と紫色の小さなハエのような蟲が集まる。


「『暴食たる蟲(ベルゼブブ)』。」


 バグジアスが、最早紫色の玉と化した、蟲の塊をストーカー男に放つ。

 蟲はすぐに、ストーカー男に向かっていき、彼を包み込んでしまう。


「痛い!やめろ!やめて!だれか!タスケ…。」


 男の絶叫は次第に小さくなり、そこからは、肉を食いちぎる音と骨を削る音、そして血液をすする音だけが響いた。

 吐き出してしまいそうになる異臭が消え、蟲達がその場から飛んでいくと、そこには彼の骨どころか、血の1摘、さらに彼の匂いすら存在しなかった。

 それはまるで、食われたというより、この世界から消えてしまったと言ったほうが正しく思えるほどだった。

 会場の人達や、アネモネ、コウがその光景に恐怖している中、明るい声が聞こえた。


「うむ。満足満足!やはり人の肉は不味いな。口直しのたこ焼きが美味、美味。」


 笑顔でたこ焼きを食べるバグジアスに、怒りの表情を見せたオニギジアが現れる。


「てめぇ。ふざけんなよ!奴には60年の懲役もあったんだよ!! 死体がなくなっちゃあ、何を牢獄にぶちこみゃいいんだよ!!」


「何じゃ!せっかく罪人を処罰したというのに。というか、50トル返すのじゃ!!」


 喧嘩する2人に、ジルドが低い声で話す。


「ふざけているのは貴方達両方でしょう。彼は、死んでよい人間ではなかった。不必要な虐殺をしては、『世界統一機関』へのイメージが悪くなっていく一方でしょう!! 元より、貴方ら2人とガラネラネさん。『三女神(エリネイス)』達のせいで、我々のイメージは、結構悪いというのに。」


 喧嘩をしている八元帥3人を止められる人などおらず、誰もが傍観している中、突然、コウの後ろから声がした。


「あら。あんなストーカー男を殺したぐらいで、アイドルの護衛が終わったって思うなんて、結構甘いわよね。彼らって。」


 コウはその声に、ぞわっとした。

 その声は、6年前に出会った。『腸の発掘家』と同じだった。

 コウが急いで、後ろを向くが、それらしい姿は無かった。しかし、直後。女性が叫び声を上げた。

 コウが声の上がった方を見ると、その目に映ったのは、腹を斬られ、倒れこむアネモネの姿があった。


「え?なにこれ…?血?ボク…、何されたの…?このまま死ぬの…?彼女にも、出会えないまま…?」


 ぼそぼそと呟くアネモネに、周りの人が慌てて駆け寄る。

 そして、コウは見つける。人だかりに隠れて見えなかった、裏路地に入っていく、『腸の発掘家』の姿を。

 彼女はこちらを見て、笑っているようだった。

 コウは、すぐに彼女を追いかけ裏路地に入っていく。

 しかし、どれだけ進んでも、彼女の姿は見えなかった。

 そして、反対側の路地に出られるところまできて、コウは再び声を聴く。


「そんなに張り切っちゃって。そんなに彼女を殺されたのが憎いの?まぁ、そうよね。あの子に何回も救ってもらってたし…。あれ?この記憶は消されてるんだっけ?」


 コウは、声のする方向。後ろを振り向くと、そこには『腸の発掘家』が血濡れた刃物を持って立っていた。


「見つけたぞ!『腸の発掘家』。」


 コウが剣を構えると、彼女は「ふふっ」と笑った。


「ええ。確かに見つかったわね。でも、私から現れたのだから、鬼ごっこは貴方の負け。そろそろ、いいかと思ってたけど。今の貴方じゃまだ、楽しめないわね。」


 『腸の発掘家』が一瞬にしてコウの真後ろに移動する。

 そして、コウの首にするどい痛みが走る。

 それが、何なのかに気づくよりも先に、彼の命は尽きてしまう。


また。会いましょう(・・ ・・・・・・)。」


 最後に、彼女の言葉を聞いて。

 次回予告

 『腸の発掘家』に殺されたコウ。彼は再び、彼女を追いかけ、思いもよらない現象を目の当たりにする。


 次回 24話 死に戻り

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