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ワールドプリズン 〜その監獄からは逃げられない〜  作者: HAKU
第三章 希望の花

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23/25

22話 偽りだらけの華

 前回のあらすじ

 お祭りが始まった『チウデッド』に来た、アイドル『アネモネ』。

 彼女のマネージャーが落とした、香水を拾い、届けに行ったコウ。

 その香水に対して意味深な事を言っていたアネモネは、コウがそれを盗み聞きしたと決めつけ、怒り気味に対応する。

 香水をコウから奪おうとして転ぶアネモネを、支えようとしたコウは、そこで記憶を失ってしまう。

「…?確か君を『腸の発掘家』から助けた日にも、この都市で歌っていたと思うが。」


 コウが意識を取り戻すと、ココルの声が聞こえてきた。


「あれ?俺は?」


 コウが頭を抑えていると、ココルが「大丈夫か?」と聞いてきた。

 しかし、彼にその声は聞こえなかった。


「(さっきココル大尉が言っていた言葉は、アネモネと出会う前の言葉。俺は、また帰ってきたのか?

 なぜだ?あの時俺は、死ぬような状況じゃなかった。転んだアネモネを支えて、それから…)」


 彼にはそれ以降の記憶がなかった。


「(どういうことだ?なんであの状況から…。アネモネは俺が手を出そうとした時、『ダメ!!』と言っていた。彼女は男性が苦手だとも聞いた。であれば、考えられることは1つ。『俺の手に触れたくなくて、彼女は俺を押し飛ばした。そして、飛ばされた俺は、壁に頭を打ち、その打ちどころが悪くて…。』的なことか?)」


 コウはそう考えた。しかし、彼の気は余計に落ち込んだ。


「(偶然とはいえ、せっかく死んだのなら、せめて、メリーが壊される前に戻れたらよかったのに。そしたら…。)」


「どうした?大丈夫か?」


 コウが絶望をしていると、ココルが彼の頬を軽くたたきながら言う。


「あ!す、すいません。ちょっと考え事をしていて…。」


 コウがそう言っていると、アネモネの声が聞こえた。


「『チウデッド』のみんなぁ〜。今日は、みんなのお祭りに、参加させてくれてありがとう〜。

 わたし〜。今日をず〜っと楽しみにしてたから。思いっきり歌っちゃうよ〜。

 でも、ショーが始まるまでもう少し待っててね〜。」


 ──────────


 アネモネは、前回と同じように、笑顔で機関の人に挨拶をして、用意された自分の部屋へ移動する。そして、マネージャーが小瓶を落とすのも前回と同じだった。

 コウは再び、その小瓶を拾い上げ、アネモネに返そうとしたが、そこで思いとどまる。


「(そういえば、前回、彼女は『ボクがアイドルでいる為にあの香水が必須。 』って言っていたな。それに、俺も、周りの人も、彼女の『匂い』にとりこになっていた。)」


 コウは持っている香水に疑いの目を向けた。


「(もしかして、なにか良くないものが混ざってたりするんじゃないか?でなければ、香水1つであんなにうろたえたりするだろうか。それに、ココル大尉は、昔からあの子がアイドルだというが、やはり、俺が子供の頃に見たのはあの子じゃない。元々アイドルの子の活躍を横取りして、それがバレないように、香水を使って皆を騙しているんじゃないか!?)」


 コウの考察は、かなり適当なものであった。どれも根拠としてはありえるが、それは『彼女が何かをやらかしている』前提での話なのだ。

 彼は本人も無意識に、前回せっかく香水を渡したのに失礼な態度を取られた事、事故とはいえ、彼女に殺されたことを気にしていたのだ。

 しかし、彼女を悪ととらえてしまった今、彼はそのことに気づくことは無い。

 コウはその小瓶を持ったまま、警備の仕事に戻ってしまった。


 ──────────


「まだ来ないか。ライブ開始1時間前だというのに、準備とかしないで良いのだろうか。」


 ココルがそう呟く。祭りは中盤に差し掛かり、いよいよアネモネのライブが始まる1時間前となっていた。

 それでも彼女の姿は見えない。

 コウはやはりなと思う。


「(こんな香水の匂いなんて、高台の上で踊るのに客に届くわけがない。それでもこれ1つで会場に来ないまでとなると、かなりこの香水に変な仕掛けをしているようだな。)」


 コウが小瓶を取り出し、そう思っていると、女性の声がした。


「それは!す、すいません。その小瓶、アネモネの物なんです。返していただけませんか?」


 彼女はアネモネのマネージャーだった。


 コウは彼女の言葉に、「いや…。」と返す。


「お願いします。それがないと、アネモネはステージに立つことが出来ないんです!!」


 大きく頭を下げる彼女を見て、ココルが言う。


「ここまでしているんだ。君がどうして返すのをためらうのか分からんが、返してあげたらどうだ?」


 しかし、コウは首を振って言う。


「それは出来ません。」


 マネージャーが「どうして…。」と涙目になる。コウはそれに返す。


「実は俺、貴方達の会話を聞いてしまったんです。『あの香水の匂いで、周りがアネモネにメロメロになっていた』と。『あれが無ければステージに立てない』と。

 でも、おかしいでしょう?ステージはあんなに高いんです。匂いなんて届くわけありません!

 それに、彼女は男性が苦手なはずです。それなのに、アイドルをして、さらに香水の力が必須なんて、香水に何か仕掛けをして、人々を無理矢理魅了しようとしているんじゃないですか?」


 コウはそう言った。

 男性が苦手な事を知っている理由は話さなかった。話しても混乱を招くだけだと思ったからだ。


「逆です。」


 マネージャーが小さく言う。


 コウとココルが、それに「え?」と聞き返すと彼女は大声で言う。


「逆なんです!アネモネちゃんには黙っていて欲しいと言われたけど、彼女のアイドル活動の為!彼女の秘密を打ち明けます。彼女はサキュバス(・・・・・)なんです!しかもとてもフェロモンの強い。」


 彼女の言葉に、ココルが質問する。


「サキュバスってあれか?フェロモンで男性を魅了して、食っちまうっていう。」


 ココルの言葉にマネージャーは返す。


「ちょっと、物騒な勘違いされてますね。正確には、男性の精気を吸い取るんです。でもアネモネちゃんはそんな、自分が嫌だった。特にフェロモンが強い彼女は、男性に触れるだけでその人を殺してしまうほど。今では、彼女の匂いを嗅いだだけでこの街の男性がどうなってしまう事か…。

 でも、彼女はアイドルになりたかった。そのために、その匂いの強い香水を作った。彼女自身のフェロモンを消すための香水を。

 そして、握手会など、いろんなアイドルが行う行事もやってこなかった。それでも、日々努力して、彼女自身の力でここまで来たんです!そんな彼女の夢を終わらせたくない!

 その香水は、彼女が周りの人を傷つけない為、優しさでつけている香水なんです!それを返してください!!」


 彼女の説明を受けて、コウはショックを受ける。

 彼女は何もたくらんでなかった。むしろ、周りのためにこの香水を使っていた。

 それに、さっきの説明が本当であれば、彼が死んだ理由も明らかだった。

 コウが転んだアネモネを支えようと、彼女の手に触れた。そして強すぎるサキュバスの力を持つ彼女に触れたせいで、コウは精気を吸われ死んでしまった。

 とすれば、彼女の『ダメ!!』という叫びも、コウを心配して出た言葉だっただろう。

 コウは申し訳ない気持ちになりながら、香水を返す。そして、謝罪をする為にマネージャーと共に、アネモネのいる部屋へと向かった。


「アネモネちゃん!香水見つかったよ!それで、コウさんから話があるみたい!早く、出て、会場に向かおう!」


 マネージャーが明るくそう言うが、ドアからは悲しげな声が帰って来た。


「もう遅いよ。間に合わなかった。ボク。どうしていいか分からない…。」


 コウは、そんな彼女を励まそうと。


「な、何言ってんですか!今から走れば、まだライブには間に合う!」


 と言って、一気にドアを開ける。

 アネモネの「やめて!!」という静止も聞かず。

 すると、香水の効果が切れ、部屋に充満しきった彼女のフェロモンは、部屋から漏れだし、小さな隙間を通って、機関内、そして街全域まで広がった。


 そして…。


 その日、都市『チウデッド』の男性は、全員死んでしまった。

 次回予告

 再び死んでしまったコウ。アネモネが香水にこだわる理由を知った。コウはすぐに香水を返し、祭りの見回りへと出かけるのであった。


 次回 23話 暴食と憤怒と強欲と

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