17話 脱出
前回のあらすじ
コウは、初めて鍵の付いた書庫にたどり着いた。彼は赤い本を読む。
そこには、ティティーの生前と、死後、さらに今のようなゲームをする原因となった事件について書いてあった。
日記を読み終わった後、コウはココルの体を奪ったティティーに殺される。
『それじゃあ、始めるわ。『D』。』
コウは再び、ウィジャ盤の前へと戻される。
「(俺は、再びここに戻ってきた。ということは…)」
コウの目の前に、彼が今一番会いたい人物がいた。
「おい!聞いてんのか?」
コウは、シャ―ロッテを抱きしめた。
「ちょ!いきなり、何するんだ!!」
シャ―ロッテの言葉は、コウには届かなかった。
「(良かった。生きてる… 生きてる…)」
コウは、彼女を抱きしめ涙を流す。
「いい加減に… しろ!!」
「ぐふぉ⁉」
シャ―ロッテが、コウの金的に蹴りを入れた。
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「ほんっと、気持ち悪い!」
シャ―ロッテは、自分の足元で悶えるコウを、不快なものを見る目で見る。
「コウ… 怖いからって、今日会ったばかりの娘を抱きしめるのはどうかと思うぞ…」
『同感だ。ほんと生者って自分勝手ね。気色が悪いわ。』
ココルとティティーも、コウを軽蔑した。
「あんちゃん…」
コウの肩に、左手を置くズバク。
そして彼は———
「一発ぶん殴っていいか?」
棘の盾を右手につけ、その拳を見せていた。
「ちょっと待って!それで殴られたら、マジで死ぬ。」
コウは、それを全力で拒否する。
しかし、周りの人たちはズバクを煽る。
「おう、やったれズバク。徹底的に。」
「申し訳ない。そいつを頼む。」
『なんならいっそ、そいつだけ先に殺してくれても構わないわ。』
「ちょっと待てぇ!!」
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コウは、ズバクの怒りの拳を何とか話し合いで回避し、鍵の探索をする。
今までも来たことがあるが、重たくて動かすのに手間取っていた置物や家具をどかしながら、探していた。
シャ―ロッテが発狂する時間になる前に、コウはシャ―ロッテの元へ急ぐ。
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「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
コウが、シャ―ロッテの元に着くと、シャ―ロッテは発狂して外へ出ていった。
コウは少し遅れ、彼女を追いかける。
シャ―ロッテを見失ってしまい、コウは焦る。
そして、彼は急いで風呂場に向かう。
コウがドアを開けると、彼の鼻を異臭が刺激する。
「あっ… くっ… るしい… けて…」
異臭の刺激と共に、シャ―ロッテの苦しむ声が聞こえ、コウは湯舟へと向かう。
そこには、シャ―ロッテが首をくくっている姿があった。
コウが、シャ―ロッテの首を絞める紐を斬る。
コウは、落下するシャ―ロッテを抱きかかえ、湯船に寝かす。
「何やってんだお前!!」
コウの叫びに、シャ―ロッテが泣き出す。
「分かんねぇよ!さっき、首のない死体に触れたら、オレの父が死ぬ光景が目に浮かんで… 気分が悪くなって… 吐いてたらこの湯銭に、縄があって、それ見た途端何かに操られたかのように…」
泣き出したシャ―ロッテを、静かに抱きしめるコウ。
「やめろよ… いい加減… 怒るぞ…」
泣きながらそう言うシャ―ロッテ。
しかし、コウは、彼女が落ち着くまで、彼女を抱きしめていた。
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「次、同じことやったらぶっ殺すからな!」
「なぁ、いい加減許してくれよ。」
コウとシャ―ロッテは、彼女が落ち着いた後、彼女が見つけた遺体の元へと戻る。
遺体の元へ戻ると、コウは遺体の胸ポケットへと手を入れる。
「おい、大丈夫か?気分悪くならないか?」
シャ―ロッテが、コウを心配する。
コウには、何の影響もなく、彼は書庫の鍵を手に入れる。
「なぁ、この後、俺と一緒に行動しないか?」
コウが、シャ―ロッテの方を見て言う。
それに、シャ―ロッテは気持ち悪いものを見る目をする。
「はぁ⁉ お前、どんだけオレの事が好きなんだよ!キモイぞ!」
「ちげぇよ!また、何かあって、死にかけたら危ないだろ。」
コウの言葉に、シャ―ロッテは顎に手を置き、悩む。
「うーん、そう言われると… 分かった。でもなんか変な事したら、お前の大事な玉に矢をぶっさすからな‼」
「分かった、分かった。」
コウとシャ―ロッテは、2人で書庫を調べ始める。
「っていうか、よく鍵の場所分かったな。」
「か、感だよ。」
「良い感してるぜ、まったく。
お?なんだこの本。」
シャ―ロッテが、机の上にある赤い本を手に取り読み始める。
「おい!これ読んでみろよ!」
シャ―ロッテがコウに、ティティーの日記を見せる。
「ああ、これか…」
コウが、それを手にする。
改めて、コウがその文字を読んでいると、シャ―ロッテの口から驚きの言葉が流れる。
「ほんと、我儘よね。このティティーってやつ。」
「え?」
「だって、そうじゃない。金も執事も、母親もいて、それなのに、失ったことばっか恨んで…
別に、両親に先立たれたわけでもないのに、勝手に現世に居残って、それなのに周りを恨む。
我儘にもほどがあるわ。」
「そんなこと言うなよ。」
「何よ、本当の事じゃない。待ってなさいよ。ぜってぇーに見つけて文句言ってやるわ。」
シャ―ロッテはそう言って、突如天井を見ながら歩き出す。
そして、本棚の前で立ち止まる。
「おい、お前。オレを肩車しろ!」
「は?なんで?」
「オレの背丈じゃ、この本棚の上に何かあっても取れないだろ!早くしろ。」
コウは仕方なく、シャ―ロッテに肩車をする。
しかし、本棚の上には届かない。
「おい!もうちょっと、高くしろ!」
「無茶言うな!これが限界だよ!」
「何やってるんだ、お前ら。」
いつの間にか、2人の横に、ズバクが立っていた。
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ズバクの肩車によって、シャ―ロッテは本棚の上にあった鍵を手に入れる。
「へっへーん。どうよ!ズバクはすげーだろ!」
「だから、なんでお前が胸を張るんだ?」
「とにかく、鍵は見つかったんだ。ウィジャ盤の部屋に戻ろう。」
ズバクの言葉で、三人は、ウィジャ盤のある部屋に戻り始める。
しかし、豪華な廊下の途中で、コウは足を止める。
「ここのドアも開かないんだ。念のため、その鍵が合わないか調べてみてもいいか?」
「ああ、いいんじゃないか?」
ズバクの許可を得て、コウは、ドアに鍵を差し込む。
すると、ドアは、ガチャリと開く。
シャ―ロッテが、その部屋を見て「この部屋は…」とつぶやく。
その部屋は、シャ―ロッテの父が、殺された。紫髪の少女がいる部屋だった。
しかし、その部屋に少女はおらず、紫ドレスの骸骨、その手前に緑ドレスの骸骨、その手前に白ドレスの骸骨。それと、血まみれになったベッドがあった。
「随分と酷いありさまだな。」
ズバクがつぶやく。
コウも、辛くなってくる。
彼らが戻ろうとした時———
「私の部屋で、何をしているの。」
後ろからココルの声が聞こえた。
コウとシャ―ロッテ、ズバクが後ろを見ると、ココルが、剣を抜いて立っていた。
シャ―ロッテの「あ?あんた。何言ってんの?」という言葉を遮るように、コウが言う。
「お前、ティティーだな?」
「あら、気づいてたのね。」
2人の会話に、シャ―ロッテが疑問を飛ばす。
「は?どういうことだよ!」
「あいつは、ココル大尉の体を奪えるんだよ。」
「そういうこと。さて、この部屋に鍵は隠してないわ。さっさと出てってくれないかしら?」
「やだね…」
ティティーの言葉に、シャ―ロッテが静かに言う。
「は?」
ティティーは、訳が分からないような顔をする。
「やだってんだよ!」
シャ―ロッテが、ココルの首の横にある鎧を引っ張る。
「せっかく、てめぇと話せんだ。せっかくだから、文句言わなきゃ気が済まねぇ。」
「は?」
「おい、シャ―ロッテ。だから、すぐに喧嘩を売るなっていつも言ってるだろ。」
「ズバクは黙ってろ!!」
シャ―ロッテが、ズバクを黙らせると、改めてティティーの方を見る。
「てめぇ、自分ばっか。失ったみてぇなこと書いてたけどなぁ。金も、執事も、母もいて、先立たれたわけじゃないのに、現世に勝手にいながら、生者を恨んで…
最後にゃ、でっけぇ胸と身長も得る気か?あぁ!」
「何の話をしているの…?」
少し困惑するティティーに、シャ―ロッテは続ける。
「オレには、全部ねぇんだよ!金も、母も、父も、無論執事も。」
「それに、胸と身長ね。
何?ただ羨ましいって妬みかしら?」
「あってっけど!ちげぇよ。
オレは、お前と違ってなんも持ってねぇけど、人を恨まないし、お前より幸せだと思ってる。
理由は分かるか?」
「さぁ、知恵も無いんじゃないかしら?」
「て、てめぇ。
そうじゃなくて、オレは前を見てる、お前は今まで持ってたものばっか見ていて、今を受け入れられない。だから、もはや行き場所のない恨みが永遠にお前に残ってる!
失ったもんばっか、見てねぇで。新しい大切なものを探せばいいだろ!」
「へぇ、私に説教ね… 確かに、私は過去ばかり見ているわ。けれど———」
ティティーが、剣を抜き、ズバクへと向ける。
「お前も、すぐに分かるわ。どれだけ前むいて手に入れた宝といえど、失えば、それしか思うことができないってね。」
ティティーが、シャ―ロッテを押し飛ばし、ズバクを刺そうとする。
そして———
それは、シャ―ロッテによって防がれた。
シャ―ロッテが、素手で剣を持ち、ズバクに刺さることを防いだ。
「シャ―ロッテ!」
ズバクの叫びに、シャ―ロッテは笑顔を返す。
「へぇ、お前。やはり、失うのは怖いんじゃない。」
「ああ、怖いよ。だから、失わないように庇うんだよ。失ってから、関係ない奴を殺すんじゃなくてさ!」
「つっ」
ティティーは思い出す。騎士たちが、ダメ執事が、父が、母が、姉が。必死に自分たちを守ってくれた時のことを。
「(私は、あの海賊を殺した。それで、復讐はすんでいた?だから、他の人を殺すのは間違いだったのか?
でも奴らは、私達の思い出の品に触ろうとした。
だから?良く考えたら、彼らはそれが私達の宝物って分からない。話し合えば解決できたかもしれない。
そこに気づくのが遅かった。だからあの茶髪のようなやつの異常性にも気づけなかった?
もともと、平和に解決できないやつとわかっていたら… 彼らを失わずに済んだ…?)」
ココルの体が、突然倒れる。
「ココル大尉⁉」
「ん、あれ?ここは?」
「よかった。ココル大尉が無事で…」
コウは、ココルを抱きしめる。
「ちょ、ちょっと。コウ。やめてくれ。」
「まったく、どこでもいちゃつきやがって。」
シャ―ロッテが、2人から目を離す。
すると、シャ―ロッテの目の前に紫髪で、紫のドレスを着た少女が姿を現す。
「改めて、こんにちは。姿を見せるのは、初めてね。私がティティーよ。」
少女が、シャ―ロッテに向けて手のひらを見せ、握手を催促する。
しかし、シャ―ロッテは、胸の前で腕を組み、ティティーを見下ろす。
「へ、なーんだ。お前、オレより背も胸も小さかったのか。」
その言葉に、ティティーは手を下ろす。
「貴方… 6歳相手にその自慢してて虚しくならない?」
そして、彼女はベットに座る。
「まぁ、いいわ。貴方の説教を聞いて、私も新たな宝探しの旅に出ようと思ったわ。黄泉の世界にね。
でも、この館は、私の怨念でなんとか立っている物。私がいなくなったら、壊れると思うわ。
私は、1時間ほど、この館にお別れを告げるわ。貴方達はその間に、ここから出ることをお勧めするわ。」
「は?お前が玄関に鍵を閉めたんだろ?鍵が無きゃ出れねぇじゃねぇか。」
シャ―ロッテの言葉に、ティティーはベッドから降りる。
「ああ、まだ教えてなかったわね。ココルさん、貴方の胸の谷間に隠してたのよ。」
「は?」
全員が唖然とし、ココルの方を見る。
ココルが、自分の胸に手を入れると、そこから、小さな鍵が出てきた。
「いつの間に…」
ココルの質問に、少女は答えた。
「ゲームが始まって、彼らが鍵を探しに出かけてすぐに、貴方の体を操ってしまっておいたわ。」
「なぜ、そんなところに…」
シャ―ロッテのつぶやきに、少女が答える。
「この前、館にきた女性が、やってたのよ。それを見てかっこいいと思ったから、やってみたのよ。」
「そんな理由で…」
コウが「(そんなところに、あったらもとより鍵を手にすることは出来なかったな)」と思いながら、つぶやいた。
———————————
赤い日記が、一人でに開き、インクの染みた羽ペンが、文字をつづる。
『2人の男と2人の女が家に来た。
男女のペアが2組のようだ。
お兄さんは、とても力強く、常に冷静で頼りになる人だった。
小さなお姉さんは、子供っぽかったけれど、前を向いて生きていて、幸せそうだった。
大きなお姉さんは、怖がりなのに、3人をとても信頼していて、恐怖に耐えようと頑張っていた。
そして最後の1人は———
すぐ女の子に、抱き着く変態でした。
これから私は、旅に出ます。
だけど、こんな変態に捕まらないように気を付けます。』
次回予告
無事に、館から脱出できた4人。彼らを迎えるのは、ヒルだった。
そして、彼らに新たな悲しみが襲う。
次回 18話 現実




