16話 ティティーの日記
前回のあらすじ
父の死の光景を見たシャーロッテは、発狂しどこかへ行ってしまう。
シャーロッテを探し、風呂場に来たコウは、首を括り死んでいるシャーロッテを見つけた。
ウィジャ盤が指し示すは『A』の文字、彼らに残った時間はわずか。
コウは、今まで開かなかったドアに鍵をさす。
「(ティティーはこれを、書庫の鍵と言っていた。新しい部屋なら、鍵があるかもしれない。)」
5つ目のドアに鍵を指した時、ドアの鍵が空いた。
中は大量の本が並んでおり、そこが書庫であることを確定する。
「何か、鍵かヒントになるものは…」
コウは、机の上に赤い本がある事を見つけた。
コウは、本を手に取る。
そこには、子供らしい字で『ティティーの日記』と書いてあった。
コウは中を開く。
『10月2日。おねぇさまが日っきを書いていたので、わたしも書くことにした。これから日っきがうまっていくのが楽しみだ。』
『10月3日。リティが、わたしのくまのぬいぐるみをほしがってきた。おわかれはさみしいけど、わたしはあの子のあねだから、あの子にあげた。笑顔がかわいくて、にくいわ。』
『10月4日。しつじのやつとかくれんぼをした。おゆうはんまで見つからなかった。わたしってかくれんぼの天才?』
次々と書かれる日記には、ティティーの生前の記録が書いてあった。
彼女は父と母、姉と妹の5人家族で、くだらないジョークを言う、サボり魔の執事と、忠誠心がとても強い騎士達と一緒に暮らしていたらしい。
彼女の日記では、彼女の楽しそうな事が書かれていた。そして―――
「なんだ… これ…」
コウがページを開くと、血のような赤い文字で次の日記が書かれていた。
『10月31日。海ぞくがおそってきた。
家が荒らされた。きし達がしんだ。しつじも。
お父さまとお母さまも。おねぇさまも、リティも。
そして、わたしも。
みんな、みんな
しんだ。
なんで?
わたし達は、何もしていないのに、どうしてわたしの幸せをうばうの?どうしてわたしのたいせつなかぞくをうばうの?
ゆるさない。
ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ
ゆるさない。
わたしは、その時、いえにとりついた。何もかもをうばった海ぞくを、つぶした。』
『しばらくして、家には、無礼にも無断で入ってくる奴らが現れた。招待なんてしてない。私の宝物に触れるな!!』
『大工の男が家を訪ねてきた。茶髪で筋肉質の男。
家族の骨に触ろうとした。だから、殺した。』
『騎士の男が家を訪ねてきた。金髪で、黄金の鎧を持つ男。
騎士の鎧に触れようとした。だから、殺した。』
それからも、赤い文字でひたすら殺人の記録が書いてあった。
『死んだ奴らは私の家に住み着いた。魂が心に残った物に宿り、自由に暮らしていた。
新しい家族ができた私は、人を殺す事を重要に思わなかった。』
『死んでから何年経っただろう。生前の記憶がもう薄い。
だけども今は幸せ。ある意味、第2の人生ってことなのかもしれない。』
『女の子が家を訪ねてきた。茶髪で、ゴーグルをつけた可愛い娘。』
その次のページは、のり付けされている様に、血が固まったかのように、張り付いていた。
コウが、やっとの思いでページを開く。
『コックが殺された。
飄々としてて掴みどころが無かったけど、とっても親切な奴だった。』
『フランケンが殺された。
いつも寝る前に本を読んでくれた。お父様のように優しい奴だった。』
『魔鎧が殺された。
真面目で、自分の仕事を毎日こなしてきた。騎士の手本のような奴だった。』
『怠惰が殺された。
くだらない話ばかりだったけど、いつも私を笑わせてくれた奴だった。』
『決闘者が殺された。
いつも私の部屋の前で、私を侵入者から守ってくれる奴だった。』
『あいつが、私の部屋に来た。』
『あいつは、私の家を燃やした。
生者は再び、私の大切な家族を奪った。
私の命を奪った。』
『私の恨みは、再びこの家を作り上げた。
私は再び、生者を信じられなくなった。』
『2人の男が家に来た。
1人を人質に、1人が鍵を探すゲームをした。
幼なじみの彼らは、人質は信じていると、鍵探す方は『俺を信じろ。』と言っていた。
鍵を見つけた男は、人質を見捨てて逃げ出した。』
『3人の女が家に来た。
1人を人質に、2人が鍵を探させた。
親友の彼女達も、互いを信用してると言っていた。
だけど、2人の女が鍵の奪い合いを始め、時間が無くなり死んでいった。』
『2人の男と2人の女が家に来た。
男女のペアが2組のようだ。
女1人を人質に、残りの3人に鍵を探させた。
鍵を探していた女は、父親の死体を見つけて首をくくった。
男の1人は、女が死んだ事を悲しんだのか、涙目で階段を走り、首がちぎれて死んでった。
人質は、最後の1人の帰りを待っていた。
そして、最後の1人は―――
呑気に他人のプライベートを覗く遊びをする為に、彼らを見殺しにした。』
日記はそれで終わっていた。
コウは、最後の文字にゾッとした。
まるで、自分の事が書かれているようだった。
「何を見ているの?」
コウの後ろから、ココルの声が聞こえた。
「ココル大尉!?」
「それ、私の日記よね?勝手に覗かないでくれる?」
「お前まさか… ココル大尉の体を奪ったのか!」
「そうよ。だって時間切れだもの。それにこの体。私にしっくりくるのよね。だから、貴方を殺した後、この世界の生者を皆殺しにする旅に出るわ。
体がないから、家から出られず困ってたのよね。」
伸びをするココルの体に入ったティティーを睨む。
「なんでそんな酷いことを。」
「もう面倒なのよ。呼んでもないのに人は来るし、勝手に宝物を取っていくし。たまに、生者を信用する為にゲームをするのに、誰も信用させてくれない。皆皆、自分勝手、死ねばいい。」
「皆殺しなんて、残酷なことさせない!!」
コウが、剣を抜き突撃する。
「へぇ?お前に出来るの?この娘を殺すことが。」
コウが、ティティーに剣を振り下ろす。その直前、彼女はそう言った。
「きゃ!コウ!な、何をしている!?」
ティティーが、尻もちをつきそう言う。
いや、それはティティーではなく、意識を取り戻したココルだった。
「いや、これは…」
コウが、戸惑っていると、ココルが自分の剣を首に当てる。
「え?」
ココルがその光景に驚きの声を上げた。
自分でも何をやっているか、分かっていないようだった。
いや、ティティーが彼女の腕だけを操っているのかもしれない。
「まさか!やめろぉ!!」
コウが剣を捨て、ココルの腕を止めようとする。
「ほら、殺せない。」
ココルが突然笑いだし、剣でコウの胸を貫いた。
次回予告
再び蘇るコウ。彼はシャーロッテを助けようと必死になる。
次回 17話 脱出




