第9話 ココルの過去
コウとココルは朝礼を終えた後、街のパトロールに向かおうと廊下を歩いている。
「しかし驚きましたよ。あの人が『八元帥』しかも人を食う化物だったなんて…
今思い出すと震えが止まらないです。」
コウが自分の腕をつかんで震える。
「世間の評判や過去のことのみで人を判断するのはどうかと思うぞ。
バグジアス元帥はただ食いしん坊なだけで性格は優しい。」
ココルがコウの方を向いてそう言う。コウはバグジアスを庇うような発言をするココルを不思議に思う。
「今は人を食べたりしないんですか?」
「いやまぁ食べているらしいが貧しかった昔とは違い、今は普通の食事をしていることの方が多いぞ。」
「食べてるんじゃ怖いものは変わらないんですが…」
コウとココルがそんな話をしていると二人の前にヒルがいた。
「あ!お二人さんいい所に、今そちらをお尋ねしようと思っていたんですよ。」
「うわ、めんどくさい奴が現れたな。」
笑顔を向けながら2人に近づくヒルにココルは嫌そうな顔をする。
「めんどくさい奴ってなんですか!!
まぁ、良いです。貴方達今お時間よろしいですかね?」
「まぁ特に優先してやることは無いな。これからパトロールに行こうと思っていた所だ。」
ココルは嫌な顔をしつつもヒルの質問に回答する。
「それは良かったです。ちょうど調査に行ってもらいたい所がありましてね。」
そう言ってヒルは胸ポケットから紙を1枚取り出し広げる。
「古びた館があるのですが、何十年も前から無人のはずなのに壊れないんですよね。突然壊れても危ないという理由で大工の方がその館を見に行ったらしいのですがその後その大工は突如行方不明になるらしいんですよ。
それでいよいよ『世界統一機関』が調査に出ることになったんですよねぇ。お願いできますか?」
ヒルが紙から目を離し顔を上げる。その目に映ったのは…
「そ、それってつまりお化け屋敷…」
普段の無表情では想像がつかないほど怯えた顔をしてコウの後ろに隠れるココルの姿だった。
「と、突然どうしたんですか?ココル大尉!」
コウは驚いてそう聞く、それに対してココルはコウから目を逸らし下手な口笛を吹きながら答える。
「い、いや別に…お化け屋敷が怖いとか…そんなんじゃないけど…」
「ああ、そういえば貴方、夜御手洗に行く事も出来ないぐらい怖がりでしたね。まだ直ってなかったんですね幽霊恐怖症。」
ヒルは眉を曲げ、困った顔をして言った。それに対してココルはコウの後ろから顔だけ出してヒルに言う。
「だからそんなんじゃないって!!」
「であれば館の調査、行ってくれますか?」
「おう!いいさ、行ってやるよ。どこにあるんだよその館は!!」
「えーとですね…」
ヒルは改めて手に持った紙を確認する。すると急に紙を折りたたみ始め「あー、すみません、今の話は忘れてください。」と言った。
「だから怖くないって!!」
ココルはコウから離れずそう言うがヒルは首を振る。
「いえ、そういう理由ではなく…」
「大丈夫だから早く場所を教えろ!!」
頑固なココルにヒルはため息混じりに答える。
「では言いますよ?場所は『ゴストン村』。」
「『ゴストン』…?」
コウは知らない村の場所を言われ頭に疑問符を浮かべる。しかしココルはヒルの言葉に再び顔をこわばらせる。
「それって…」
ココルの質問混じりの発言にヒルは静かな声で答える。
「ええ、恐らくココル大尉が最も行きたくない場所です…」
――――――――――
コウとココルは蒸気機関車に乗り『ゴストル村』に向かう。コウは列車の中で販売していた唐揚げと白米のみの弁当を食べている。
「コウ…よく食うな…」
「寝坊して朝食べれていなかったので…」
コウが照れながら答えるとココルは「そうか…」と静かに答え窓から見える景色を悲しげな目で見る。
「今回の場所、『ゴストレ村』がココル大尉の行きたくない場所ってヒル少佐が言ってましたよね?
理由を聞いても良いですか?」
コウが聞くとココルは「ああ」と言って静かに笑う。
「ココはあの村出身なんだ。村自体豊かでは無いのだがココの父が酒好きでな…
いよいよ金が底をついた時に父はココを奴隷商人に売り飛ばしたのさ。
あの村はココにとって売り飛ばされた過去を思い出す場所だな。」
ココルの驚きの言葉にコウは何も言えなかった。
「ああ、気にしなくて良い。知らない事を聞くのは当然だしな。」
ココルはそう言って悲しげな笑顔を見せる。
「しかし、よく奴隷商人から逃げられましたね。」
「君、気にしなくていいとは言ったが結構ズカズカ来るな…
それにココは今でも奴隷だ。ヒル少佐が奴隷商人からココを買い取ってな。一応ココはあいつの奴隷ってことになっている。」
2人が会話をしていると列車が『ゴストレ村』につく。2人は列車からおり、館へと足を運んだ。




