第五章 「花火」
朝起きて、学校に行って、帰って、夜寝て。いつもの日常に江舞ちゃんとの出会いが全てを変えた。だけど、私は安定をとっていきたい。こんな気持ちなんて捨てた方がいい。だから、今日で終わりにしよう。今日の夜、夏祭りの夜で終わりにしようと思った。江舞ちゃんにドキドキしてる時点で、おかしい。そして何より、どんなに好きになったとしても、私は残酷な未来しか辿れない。江舞ちゃんみたいに何人も女の子がいて、遊んでる人よりもやっぱり私を一途に思ってくれる彼氏の方がいいんだと言い聞かせている。
今日の私はすごく可愛かった。どのくらいかというと、江舞ちゃんが他の女の子に目移りしないぐらい。髪だってお母さんに丁寧に結いてもらって、水色の浴衣を着てみた。可愛いって、思ってくれるかな。江舞ちゃんは浴衣で来てくれるのかな。期待とワクワクで胸がいっぱいな反面、今日で全てが終わるからどうしても苦しくなった。江舞ちゃんに会う前の日の夜ご飯は少なめで、お風呂は長め。どの努力も江舞ちゃんは知らないけど、最後までもうそれでいい。
駅の時計台の前で待ち合わせ。同じように浴衣姿の人たちで溢れかえっていた。歩きにくいけど嫌な気はしない。もう最後だから、こんなこと気にしてる余裕なんかないの。待ち合わせで合流して、夏祭り会場へ流れていく人たちを見る。江舞ちゃん、まだかな。
「ねえねえ、きみ、もしかして一人?」
「だれと待ち合わせしてるの?」
うわぁ、ぜったい大学生の男の人たちだ。
「え、えっと、、、」
私にとって江舞ちゃんって、何だろう。友達?友達って呼びたくないな、特別な存在だから。
「彼氏?」
「彼氏じゃなくて、、、」
この否定の言葉だけはっきりと出た。
「じゃあいいじゃん」
私はこういう王道の展開を求めてるんじゃないの、ただ江舞ちゃんに会えればそれでいいの、身を縮めて抵抗していた時、
「その子は江舞ちゃんの女の子だから、触んないでね。」
男の人たちの手を後ろから払ってくれた。
「江舞ちゃん!?」
江舞ちゃんがお団子姿で浴衣を着ていた。ただひたすら綺麗でかわいい、色気のあるお姉さんにみんなには見えているだろう。私には王子様にしか見えない。
「ごめんね、遅くなった。」
そういって私の腰ををぐっと抱き寄せた。はあ、心臓止まりそう。
「なんだ、二人ともお姉さん?」
「そうだけど? でもこの子のお姉さんは私だけだから手出さないで。」
そう言って男の人たちを睨んでいた。
「す、すみません」
足早に逃げる男の人たちを江舞ちゃんは睨み続けてたけど、私は江舞ちゃんだけを見ていた。
「ありがとう、」
「ううん、遅くなってごめんね。何もされてない?」
「ぜんぜんだいじょぶ、、、」
「本当? 良かった」
そう言って頭を撫でてくれた。う、私の中でひたすら騒ぐ気持ちが止まってくれない。今日固めたもうやめようって決意も、江舞ちゃんの一言で簡単に壊されてしまった。
「青藍ちゃん、浴衣似合うね〜可愛い」
「あ、ありがとうございます、」
「江舞ちゃん、人多いから、てつなぎたい、、、」
人混みだからって合法的に手がつなげる。これも最後だから、何も言わないから。
「いいよ、江舞も今言おうとしてた」
「うん、」
花火大会だから、近くに屋台も出ているようで、江舞ちゃんと見て回った。暑さのせいなのか、ずるすぎる江舞ちゃんのせいなのかいつにも増して江舞ちゃんの言動が頭から離れない。
「何か食べたいものとかある?」
「暑すぎるから、かき氷がいいです、」
「あーいいね、そうしよ」
まだまだ繋がれてる左手の細胞にに、私の身体の全細胞は嫉妬してる。江舞ちゃんともっと繋がれたらなって。
私はいちご、江舞ちゃんはブルーハワイのかき氷を食べている。青くなってる?と舌を見せてくる。猫みたいで、無邪気なところに張り詰めた心も和む。
「これ食べ終わったらそろそろ花火のとこ移動しよ」
「うん、そうする」
花火が終われば、今までのことはまるでなかったかのようにしないといけない。だから今笑顔でいないといけないんだけど、
「青藍、浮かない顔してる」
「え? してないよ」
「かき氷食べすぎた?江舞が残り食べてあげようか?」
「食べたいだけでしょ」
五歳児みたいに目を輝かせて狙ってくる。でも江舞ちゃんは私の笑顔を狙ってるんだろうな。そんなとこも結局私は江舞ちゃんのペースに乗せられて、笑顔になる。
「江舞ちゃんにはあげないよ〜」
「ええ、欲しい」
「結局欲しいんじゃん」
と言って江舞ちゃんのおねだりに負ける。今日で最後だから、なんでも聞きたい。
辺りにはいっぱい人がいて、カップルの人たちもたくさんいた。私たちってどんなふうに見えてるんだろう、やっぱり仲良い良い友達?それとも姉妹?どれも腑に落ちない。
「青藍、もう直ぐだよ、楽しみ」
「花火、こんな近くで見るの初めてだよ」
「意外と、声聞こえないぐらい音大きい」
「えぇ、ほんとに?」
「ほんとだよ、だから告白とかしちゃってもバレない」
「え!?」
「じょーだんね、冗談」
本格的に心臓が止まり始めちゃう。そんなに音が大きいんだ。そんな中でも江舞ちゃんの声は私逃さないと思うけどね。
ぼーっと江舞ちゃんを眺めてたら、空に花火が上がった。予想以上に大きい音で、
「うわぁ!!」
「ねえ、青藍びっくりしすぎだよ」
笑いながら、変な声で飛び上がった私の身体を支えて、くっついてくれる。私も構わずにくっつく。
「花火綺麗だなあ」
君の方が綺麗だよって、本当はそう返す甘いシーンもこの人は近くの浴衣の女の子を見ていた。
「浴衣姿の女の子はかわいいね、みんな」
「あー! もうまたそういうことを、、、」
「うそうそ、青藍が今日一番可愛い」
死んじゃいそうなぐらい好き。今日花火に撃たれて消えても構わないよ。
「でも、だいすき」
思わず気持ちが振り切って、溢れちゃったけど、よかった。花火の音で何も聞こえてなかったみたい。危ない危ない。花火が空に綺麗に上がるたび、江舞ちゃんに今まで言いたくて言えなかったこと全部言ってみた。どれか一つだけでも届いて欲しいような、届いて欲しくないような。でも今は夢みたいな時間だから、いつか覚めるし冷めるよね。
花火大会も終わって、いよいよこの時間も終わる。人生のアルバムに、だれにも分からないところで「ひと夏の恋」とでも名付けて終わらせておこう。そう決めた。
「江舞ちゃん、今日楽しかったね」
「今日もちゃんとお家まで送るからね」
「うん、、、」
会場から出ていく人混みの中、私だけが立ち止まる。意味深な沈黙、周りは忙しないのに感覚が鋭くなっていく。
「青藍? どうしたの?」
心臓がバクバクしてて、ざわざわ人がいるけど目の前の綺麗で、火照った顔が色っぽい江舞ちゃんだけに集中して、全てを振り絞ってこう言った。
「、、、まだ一緒にいたい」
ドラマで一度だけ見たことあったこの展開。お持ち帰りって、もしかしてこれ、、、?そわそわしながら、手だけはしっかり繋がれてる江舞ちゃんの後をついて行ったら、ホテルに着いた。江舞ちゃんの甘くて小悪魔な表情に思考が停止する。
「せいら、夜遅いけど、眠くないの?」
そういって布団の上でスマホをいじっている。一応お風呂から上がって髪の毛を乾かして、今に至る。まだそわそわしてる。
こんな感じのお泊まりは初めてで、友達とする時とは大違いだった。
「うん、、、」
「なんでお風呂一緒に入ってくんないの?」
「恥ずかしいからです。」
「温泉とか苦手なタイプ?」
「んー、江舞ちゃんの前だけ苦手なタイプ、かな」
「ええ、なにそれ。」
顔を隠しながら布団に潜った私の近くに江舞ちゃんは体を寄せる。
「江舞ちゃん、、、」
顔を出して、見つめてみる。
「どうしたの?」
またきょとんとした顔。余裕のある感じが尚更ムカつく。
「あ、おいで?」
体を起こして、あぐらをかいて両手を広げてる。おいでって言われたから、江舞ちゃんに抱きつきにいく。
布団の前の窓の月光が障子越しに江舞ちゃんを照らす。
「ちがくて、、、」
「うん?」
どうせ、全部今日で終わりにするから、一回だけ、勇気を出してもいいよね。
こういう雰囲気ってこういうこと言うの?
江舞ちゃんがもっとこっちに近づいて、私の腰を持ち上げて、寄せてくる。
このまま江舞ちゃんに預けちゃっていいのかな?
今夜だけ、虚しいのも悲しいのもやめて、今だけ幸せの中だけにいさせて。
「はじめて?」
「、、、」
首を縦にも横にも振らなかった。
「違うの? ふーん、意外とやることやってんだ」
「ちがうよ」
私、彼氏がいるから、って言えばよかったんだけど、言えなかった。言わなかった。だって、女の子だから距離が近くて、ただそれだけで、わたしと江舞ちゃんがこうなるなんて、って思ってたから。
「大丈夫だよ」
細くて綺麗な手で頬を撫でられる。次に、首下。全然大丈夫じゃないよ。初めて誰かに身体を預けて幸せだと感じた。この感覚を味わった女の子が私の他に、何人もいる。あぁ、いやだな。でもそんなこと感じないな。
「待って、私、、、」
自分が自分じゃない感覚、大好きに包まれておぼれちゃいそうだった。
「すき? 私のこと」
「、、、好き、です」
どうしたらいいかわからなかったから、江舞ちゃんの目を見て、とはいかず私は目を逸らして、それしか言えなかった。
もう正直になってみた。
「嫌だったら突き飛ばして」
江舞ちゃんは急に切羽詰まったように、余裕が、ないように押し倒してきた。布団の中で動くと、浴衣が着崩れていく。自分以外に下着姿を見せたことはなかったから、場の状況に収集がつかないぐらいドキドキする。
胸に唇を這わせてきて、もうどうにかなりそう。
そのあとの江舞ちゃんとの初めてのキスは案外あっさりで、この人にとって何回もの一回でしかないんだろうなと思ってしまって少し苦しくなった。だけど江舞ちゃんはかっこよくて、何より優しかった。
感じる体温はわたしの体温よりもあったかくて、身体は、私と同じぐらい細い。ぜんぶ上手な気がして、こんなに熱くて苦しくて痺れる夜は生まれて初めてだった。
「大丈夫?」
「うぅ、、、」
「ん、かわいい。」
やっぱりこぼれ出した、
「好きだよ」
「ごめん、江舞の方が好き」
もう、嘘つき。絶対そんなことないよ。
昨日の夜から止まった浴衣、二つ敷かれた布団の片方は原型を留めていた。
最後という最後はないけど、してしまった。
一瞬、とても後悔してしまった。
そんな憂鬱そうな表情の私を見て隣で横になる江舞ちゃん。
「どしたの、下手だった?」
笑いながら、余裕綽々の表情を浮かべる。
「んぇ!? いや、そんなの、、、わからないです」
「あはは、青藍ちゃん、かーわい」
こういうのって、都合のいい関係っていうやつなのかな。この先どうなっちゃうんだろう。最後にしたいって思って出した勇気の矛先がこんなところに向くなんて。心臓が鳴ってはいけない音をどんどん立てる。ねえ、どうしたらいいの。江舞ちゃんの言葉、熱、空気感が全部忘れられない。
、、、足りない。
江舞ちゃん上手いよなぁ、、、
青藍もドキドキのまま突っ走ってるけども、全然大丈夫じゃないよね、、、




