第四章 「引火」
「最近カラオケ全然来てなかったよね〜」
「確かに、久しぶりかも」
真美とカラオケに来ている。楽しみにしていたけど、頭の中は江舞ちゃんのことでいっぱいで自分が少し嫌になる。
「違うよ、青藍のこと誘ってるけど毎回空いてないんじゃん。忙しいの?」
「、、、うん」
最近、確かに忙しい。
「秋人くんと会ってるんだ?」
「まあそんな感じかな」
嘘、がぽろぽろと出てくる。違う、会ってるのは江舞ちゃんだ。
「あとさ、ちょっと思ったんだけど」
真美の前では普通の顔してるけど、次の言葉が怖くて何を言われるか不安で、仕方なかった。私の嘘はうまく隠せているだろうか。
「青藍さ、おしゃれとかするようになった?」
「え?」
「いや、髪染めたし、ピアス開けたし、メイクも教えてって言ってきたしさ。前までなんもって感じだったのに」
「それはね、なんか、高校生にもなったし、身だしなみの一環として、みたいな?」
「うわ、理由も真面目だな。」
これは嘘じゃないけど、本当でもなかった。真美と二人でいろんな歌を歌ったり、私のお気に入りの歌を歌ったけど、ラブソングの背景にはいつも江舞ちゃんが浮かんだ。この歌、江舞ちゃんが歌ったらもっと絵になるだろうなとか、友達と一緒にいることで紛れると思っていたものはもっと私のモヤモヤを擦らせていった。
友達のデートには一丁前に、楽しむことが一番!とか、緊張してたら勿体無い!とか言ってたくせに、相変わらず一番緊張してる。
『ごめん、電車遅延してて遅れる』
『暑いと思うから、涼しいところにいてね』
スマホの通知から届く小さい優しさ、気遣い。自分も誰かからもらったことのある優しさなのかもしれないけど、その誰かが江舞ちゃんだから、何倍も嬉しかった。
今日から一週間前、フッ軽な江舞ちゃんが何気なく誘ってくれたおでかけ。ぼーっと眺めてたスマホの画面に、プラネタリウム行こ、ってそれだけ急に来た時はびっくりした。夜だったけど、心は大騒ぎだった。
「初めてきたかも、、」
「プラネタリウムなんか私も久しぶりだわ〜」
「ずっと行ってみたかったんだよね」
「青藍のプラネタリウムデビューの相手私でよかった」
また心臓がぎゅってなる。江舞ちゃんがかけてくれる何気ない言葉にいつもドキドキしてるよ。
ブザー音が聞こえてきたのでもうすぐ始まる。あ、ちょっと暗いの怖いかも。でも大丈夫、大丈夫。
「背もたれ、けっこう倒れるね、」
「せいら、大丈夫?」
「こうしてたら、不安じゃないよ。」
と言って、手を繋いでくれた。もしかして、暗いのが苦手なの覚えてくれててくれてるのかな。女の子の顔はしっかり覚えられなさそうな癖して、こういうのできちゃうからずるいなって思った。
「江舞ちゃん、、、」
江舞ちゃんより小声でこぼす。真っ暗で何も見えないのに、どんどん目が冴えてきて江舞ちゃんの表情が見えるようになった。横顔に恋しそうになった。
少しずつ明るくなって案内のアナウンスが始まったら、安心してきて、
「江舞ちゃん、手ありが、、」
私は、離そうとしたんだ。このままでいたいけど、このままでいたら、
「このままでいよ、ね?」
でも、江舞ちゃんが離してくれない。ぎゅっと優しく繋ぐから、勘違いしそうになった。溶けそうになる温度の声だった。
プラネタリウムのいっぱいの星空は本当に綺麗で、星を肉眼で見たことがなく、知識もない私だったが楽しむことができた。
「いやぁ、ほんと綺麗だったね。」
「うん、今も空には、夏の大三角形が見えるのかな?」
「そうだね、本物の自然とかで見たらもっと小さい星とかも見えたりする。いつか行こうね。」
「行きたい、夏は山とかの方が見えるんだよ、きっと」
「江舞が必ず、本物の星空見せてあげるね」
「えー、ありがとう」
ほんとかな。心の中で、約束だよと唱える。江舞ちゃんの言ってることはどれもこれも本気にできないからな。
辺りはまだ六時半だというのに、明かりがつくほど暗かった。
「さっき、手繋いでくれて、安心させてくれてありがとう。」
安心させてくれただけ。それ以外ないと知ってるけど一応、聞いてみて否定を待ってみる。
「うん。安心してくれたならよかった。」
やっぱり、手を繋ぎたかったから繋いだとかそういうわけではなさそう。変な予感を感じたのは私だけだ。
「青藍、今外暗いじゃん?」
「うん、さっきよりは暗いね」
「手、繋いでおこ。」
「え?」
「暗いから、迷子になられたら困る。もっと言えば、繋ぎたいし。」
と言って私の手を取って、同じように握ってくれる。江舞ちゃんの手っていつもあったかい。
「わたしも、、、」
この瞬間、今日見た星空の景色より今の記憶で満たしたい。江舞ちゃんと手を繋いでるこの瞬間で埋めたい。呟くように本音が出た。
「ん?」
「なんでもないよ、」
「そっかそっか、青藍も私と手、繋ぎたいのか〜」
「え? もしかして聞こえてたの?」
「青藍はほんとかわいいなぁ」
と言ってまた悪戯な笑顔だけど、それってどのかわいいなんだろう。悲しいけど、それは誰にでも言う可能性の方が高いから間に受けないでおこう。間に受けて、期待してってそんなの絶対嫌だ。今日も一緒にいてみて、時間が足りなかった。この前会った時も朝だって、江舞ちゃんとの時間がほんとに足りないの。そんなこと江舞ちゃんの前で思ってたら、
「青藍、どうしたの? なんか切ない顔してるけど」
「切ない顔してないよ、」
「帰るのやだよね」
「、、、」
やだって言っていいのかな。やだって言ったら、アウトな気がする。戻れない感覚がする。言葉が出ない。
「嫌っていうか、、、」
「わかった、江舞ともっと一緒にいたいんだ?」
「そういうことかも」
口に出してから自分で気づいた。思わず口を手で押さえる。
「近いうち会おうね」
と、それだけ言って腰を引き寄せて抱きしめられた。それはあまりに呆気なくて、彼氏にされるハグとはあまりにも重みが違った。
「、、、うん」
それだけ言って身体を離して、でも手をもう一度繋ぎ直してくれる。まだ行かないで。それも言えなかった。
だから何も言わずに、またねとだけ言って精一杯の笑顔で応えた。
「うん、ばいばい」
手を離して気づいた。ばいばい、じゃ嫌だ。またねって言って欲しい。こんな小さいことでもいいから、私とまた会ってくれるって思わせて欲しい。
正直、この時間で、今までの疑惑が確信に変わっていった。江舞ちゃんが見えなくなるまで見つめていた。さっきまで会っていたのにもう会いたい。この気持ち抱えちゃダメだ、絶対に。
今日の夜、夢で会えたらどんなに嬉しいことだろう。言い換えれば、夢で会えたら、どんなに忘れられなくなるのだろう。




