「江舞⑮」
春、卒業シーズンたまに思い出すことがある。それは未琴とのことだった。今は学校のことぐらいでしか連絡をとっていない。青藍に出会う前の自分の生き方をもう覚えていないので詳しい気持ちまでは思い出せないが、高校生の自分の青春といえばあれなのかな、と思っている。
「江舞ちゃん、今日はどんな髪型にしてくれるんですか?」
美容院ほどの大きな鏡は家にないので、化粧するときに使う鏡の前に青藍を座らせている。
「うーん、そうですね、二つ編み込みして、後ろでまとめてみようかな。」
「ありがとうございます!」
「お姉さん可愛いですね、今度江舞とデートしてください」
こんなことしてると、出会った時のことを思い出す。青藍も私も、あの頃はこうなることわからなかったんだ。今となってはそれが想像できない。
「あー!江舞ちゃん、本当に美容師になったら、そうやってかわいいお客様を誘惑しちゃだめだからね」
「青藍いるからしないよ」
「ほんとかなぁ」
「あれ、江舞どこまでも信用されてなくない?」
「してなくはないけどさー、」
こちらを疑いの眼差しで見てきたので、頭を優しく鏡の方へ向き直させた。
「姫カットまた切り揃えておきますね〜」
「あ、はーい」
美容院ごっこなるものを朝からして、いつまでも無邪気だなと思った。どんな瞬間もしっかり幸せを感じて、青藍の人生で青春を振り返った時に確実に自分がいてくれると嬉しい。私はそうじゃなくても、青藍にはそうあってほしいと込めて丁寧に結いた。
「あ、江舞ちゃん」
青藍は何か思いついたように、こちらへ向き直った。
「どしたの? そんな真面目な顔して」
「今日で卒業だから、出逢ってきてくれた人にありがとうを伝えたくてね、」
「うん」
私は青藍の手を握り、青藍の後ろであぐらをかいていた姿勢を崩した。
「江舞ちゃん、私と出逢ってくれてありがとう。江舞ちゃんと一緒に生きてる世界は、私の知らない世界で不安になることもたくさんあったけど、江舞ちゃんと一緒にいたらいつも笑ってたし、いつも笑わせてくれてたし、ずっと幸せだよ。ありがとうございます。」
「世界で一番大切だよ、大好きです」
私も、同じことを思っている。青藍と出逢って知らない世界を、知らない自分も見つけることができた。大丈夫、君が知らないだけで江舞は本当に青藍のことが世界で一番大好きだよ、大切。想いを言葉にできるのも才能だと思った。青藍は言葉にして伝えてくれたが、私はなんて言ったらいいのかわからなくて、、、
「青藍、、、ありがとうね、これからもずっと一緒にいよ。ごめん、好きすぎてこれぐらいしか言えない」
「うん、わかってるよ、そんな江舞ちゃんが好きだから」
眩しい笑顔に目を掠めながら、優しくハグした。今までしてきたすべてのことが間違いだったとしても、青藍に今こうして寄り添うことができるなら、それでよかったと思う。
今日も私の手でもっと可愛くなった青藍を送り出して、卒業式に顔を出すために自分の支度を済ませた。春に吹く風は心地よくて、優しく頬を撫でた。こんな優しい春は、生まれて初めてかもしれない。




