第十二章 「蒼炎」
決心がついたあの夜。秋人に別れを告げることにした。怖くても、何を言われても私には江舞ちゃんがいる。文章やタイミングを考えすぎて、あっという間に次の日の夜になってしまったけど何も包み隠さず言った方がいいし、隠したところで全てがバレてしまう。
『ごめんなさい。好きな人ができてしまったので、お別れしてください。』
とそれだけラインをした。朝のラインも返していたが、いつもより冷たく返していた。
既読はまだついていない。
言えれば怖いことも無くなったし、思い返すこともなかった。秋人とのキスを思い出して、吐きそうになってしまうことはある。
ちらちらスマホを確認していると、既読がついた。時間が経った後にただひたすら、え、え、え、え、と来ている。何を考えているのだろうか。
そこからは通知は微動だにせず、何をしたらいいのかわからなかったので、一旦放置ということになった。なんて返ってくるのか、不安だったけど秋人はそれ以上にこれから傷つくんだ。いや、傷の数だけでいえばおあいこなのだろうか。そのとき、通知が鳴った。
『こんなことして許されると思うな』
秋人からだった。本当にその通りだ。最低だ。だけど、この通知だけで体が震えてきて怖くて怖くて。
わなわなと体を震わせていたが、家のピンポンが鳴ったので母が帰ってきたのだと思い、急いでドアを開けた。だけど、ドアを開けても誰もいなかった。ピンポンダッシュ? 今のこの時間に、天気も危ういこの時間に。
私は家から出て、玄関のドアを閉めて、少し辺りを見回してみた。
「、、、青藍」
聞き馴染みのあるその声は、秋人だった。
頭の意識が怖い、で飛びそうになった。
「え、なんで、」
「話をしよう、?」
「待って、来ないで」
「別れたくない、話せばわかるから。好きな人って誰?」
「こないで」
私がどんな抵抗をしても、腕を掴まれて、首もぐっと掴まれた。これはダメだ、死んでしまう。気持ち悪い、汚い、痛い、苦しい、、、
「別れられると思うなよ」
「好きな人って誰だよ」
声が出なくて、私は苦しいと秋人の手を何度も何度も叩いて離そうとしてるのに無意味だった。私が微かに響かせたやめての声を偶然にも通りかかった人が受け取ってくれたようで、様子を見にきてくれた。その一瞬の隙に秋人の腕から抜け出した。
すぐ家に入れればよかったんだけど玄関のドアを秋人に塞がれていて、何もできなかった。
だから、どうしたらわからなくてとにかく遠くへと思って逃げ出した。男の人が覆い被さってきたあの恐怖、動けない体、力じゃまともに抵抗できなかった。それを思い出しながら走った。目的地はないけどとにかく逃げたくて走った。夜の闇に一人で走っていくだけで、パニックになってしまった。
「たすけて、江舞ちゃん、、、」
なぜとかどうしてとかじゃなくて、怖い思いをした時、江舞ちゃんに助けて欲しいってなった。そして江舞ちゃんは必ず助けてくれると信じていた。すぐさま江舞ちゃんに電話をかけた。もう限界だよ。江舞ちゃん、お願い電話出て。
そう願い続けてあれは、何コール目だっただろう。
「もしもし、、、」
寝ぼけてそうな声、ガサガサ聞こえる音、多分独りじゃない。そして、一緒にいるのは本命の子、なんだろうな。私は、やっぱり選ばれないのかな。どんなことを思っても、私には江舞ちゃんしかいなかった。
「青藍、です」
「え、青藍? どうしたの? 泣いてる?」
一気に声色が変わっていつもの、私だけの江舞ちゃんに戻ってくれた。
「、、、会いたい」
どうしよう、泣きすぎて変な声で最悪。がんばってひねり出した一言。
「うん、待ってね、今から行くから」
「江舞ちゃんちの近くの駅にいるよ」
「すぐ行く、江舞が来るまで泣いちゃダメだよ? 電話越しじゃ抱きしめられないから」
その後、すごい小さい声で、ごめん行くわって言ってた。やっぱり誰かといたんだ。きっと私には聞こえてないんだと思ってるだろうな。ねえ、でもすごく嬉しい。
寒いわけじゃないのに震えが止まらなくて、いよいよ壊れてしまいそうな感じ。闇の世界に一人で、どこにも行き場がない感じ。
神様すら味方してくれないようで、この歩道橋を越えて仕舞えば江舞ちゃんと待ち合わせている駅だと言うのに、雨が降り始めた。矢のように大粒で、痛い雨だった。雨で服が重くなるのを感じるたび、私の気まで重くなっていった。もうだめかもしれない。
火で一番熱いのって、青色の部分なんですよね。




