「江舞⑪」
おかしいとは思っていた。不自然になるスマホの通知、それを隠す青藍の姿。でも私にそれを咎める資格も、立場もなかった。今だって泣き疲れて江舞の腕の中ですやすや寝てるけど、意外とエグいこと言ってるからね、青藍ちゃん。そして、さっき青藍にかけた言葉に嘘は一つもない。世の中の世間の味方しかできないつまらない男と一緒にしないでほしい。純愛がいつだって賢明な主人公視点からだと思わないでほしい。今の関係性を正当化したいわけじゃなくて、私の気持ちを正当化してる。私よりは軽いその身体をソファに寝かせる。布団をかけて、もう苦しい夢を見ないようにおやすみのキスだけしておく。
「青藍、もう大丈夫だからね」
小さな声でそう言って自分はテーブルの上のココアの残りを飲み干した。
彼氏がいるのか。しかもそいつに酷いことをされているのか。もっと早く逢えてたら、青藍がそいつと付き合うことなんてなかったのに。江舞がタイムスリップして、アタックして、好きにさせて、絶対幸せにしたのに。
青藍はあまつさえ自分のものだと思っていた。でも違った。それだけの事実なのに。
今、私たちはよろしくない関係で、結ばれてはいけない関係だ。青藍の身体を思い出したら、涙が出てきた。この日は寝れなくて、ソファで眠る青藍のことをずっとずっと離さず見ていた。夢の中にでも会いに行きたい。
私という人間は、窮地に立たないと心が燃えないと思うし、大事なことに気づかない。だとしたら、今はすごく心が燃えている。
朝、青藍がぼーっと起きて、もう私の家から出れるって支度を済ませた頃、いつも通りの会話をいつもより少なめでしていたとき。
なんだか考えが整理されちゃって、よく考えたら私以外に、誰かが青藍に触れてるのがまず無理かも、たまらなく嫌かも。
「ど、どうしたの? 江舞ちゃん、、、」
その言葉を聞き終わる前に、ソファに押し倒す。いつもならもっと優しくできる。
「別にどうもしてないけど」
青藍はたちまち不安な顔になって、
「、、、ごめん、私が昨日。急に言ったことだよね、だまってて、ごめんなさい。」
と言った。
「違うよ、もうその話やめて」
「う、うん」
ただの嫉妬だよ。嫌だったんだ。他の男と距離近くなるとか、想像しただけで不快。他の女の子に妬いたことなんか一度もなくて、それは他に代わりが効いたからで。でも青藍は違った。青藍の代わりは誰もいない。青藍だから無理。
「何もしてないよ?」
青藍は、何もしてない。周りの奴らが手出すのだけは許さない。
「私に押し倒されんの、こわい?」
「こわくないよ」
ちょっとどころじゃないぐらい強引に指を絡めて両手を繋ぐ。
「江舞のこと、すき?」
女の子に、いや未琴以外の人間に滅茶苦茶にされていると、初めて思った。同時に、滅茶苦茶にしてやりたいとも思った。
「え?」
「す、好きだよ?」
「どのぐらい?」
「い、いっぱい?」
「それじゃわかんない」
照れる時目線外す癖、ずっと私だけのものだと思ってた。わかりやすくて可愛いって、私以外思っちゃダメ。手を繋ぎ直して、それまであと三センチぐらいまで近づく。他のこと考えないで、他の人考えないで。
「ん、ちょっと、今は明るすぎるって、せめて電気消して、」
「キスだけ」
今、女の顔してるかも自分。やばい、正直めっちゃ好きすぎるんだ。止まらない。人生でこんなにやらしいキスはしたことない。
「ん、あ、えまちゃん、キスだけっていってたのに」
「じゃあその顔やめて」
「む、むりだよ」
「江舞もむりなの」
眉を顰めてそう言った。
わがまま女な私は青藍の言うことを一切聞かなかった。でも結局、少し脱がせたら、足を使って器用に脱いでいた。
青藍は細いので、仰向けで寝た時に腰回りの骨が突起するのが伺えた。半ば強引に足を開かせて、わざと嫉妬を含ませた。気持ちはいつもより丁寧だったのに、行為では裏腹に出てしまい、乱暴になってしまった。それでもやめずに、もう勘弁して、と言わせるまで、青藍が良くなるまで続けた。
呼吸が整わない青藍が、私にしがみついて腕の中で息をしていた。何回もこれが最後だって言い聞かせて会ってたけど、青藍の顔を見るたび、次も会いたいってなった。こんな自分は生まれて初めてだった。どうすればいいのか、わからなかった。
女の子とは身体だけの関係で、ここまでの関係に留まるとさえ思っていたのに。
私、未琴のことが好きなはずなのに。




