第十一章 「流星火」
変わらずこの日も、こっそり落ち合う。江舞ちゃんに告白まがいのようなものをしてしまったけど、本気にはしてないだろうな。ギリギリセーフ。スリルがたまらないとかじゃなくてただ江舞ちゃんに会うこの時間が至福で、たまらない。誰にも言えない罪悪感すらも感じてない。
「あ、青藍、あのリップひいてる?」
「う、うん、、、なんか変かな、やっぱり江舞ちゃんが塗った方が上手?」
「いや、かわいいよ。」
「江舞ちゃんと会うようになってから、メイク始めてる」
「メイクしてなくても青藍はかわいい」
「全部江舞ちゃんに可愛いって言われたいから、やってるから、、、」
「江舞のための努力ってのが一番可愛いね」
かわいいの嵐がこの日も止まらない。悪い気はしない。
私が好きな、頭を支えてしてくるキスをこぼす。せっかくひいた可愛いリップも江舞ちゃんと会うとすぐ取れちゃうけど、これも嫌な気は全然しない。でも江舞ちゃんに見せたくてやってるのに、とか思ってたら、唇が離れた途端、目線があっちにいったり、そっちに行ったりしている。
「え、あの子見て、あの茶髪の子」
「うん、あの人がどうかしたの?」
「めっちゃかわいい、タイプ。やばい。」
え? 目の前にいる私が可愛いって話はどこにいったの、もう。
「もう! なにそれ、、、」
私は江舞ちゃんからのその言葉が欲しくて今日だって昨日だって頑張ってるのに。いいなぁ、そんなに容易くかわいいとか言われちゃって。私が他の人のことをかっこいいって言っても、「江舞の方がかっこいい」って言われたら否定できないし。だけど、明日になったらその子のことなんて忘れてるし、江舞ちゃんのかわいいはおはようとおんなじだと思ってるから、今は少し気が楽。それよりも、江舞ちゃんが今日、私の隣で笑顔でいてくれたらそれでいい。
江舞ちゃん、私は今こうやってやきもちやいてるけど、他の女の子にたくさん目移りし過ぎてやきもち妬かなくなったら終わりだからね? いつも心の中でお説教している。こういうところ嫌いではないけど、好きでもないかな。でも、他の女の子に全く可愛いを言わなくなる江舞ちゃんを想像したら、なんか違和感があるかもしれない。何か毒でも食べたの?って心配になるよ。
バイバイの時間が近くなったら、寂しいの虫が湧いてきちゃいそうになるの。江舞ちゃんが好きって気持ちはそんな虫に食べさせないよ。夜が深くなったら、もっと帰りたくなくなる。
「江舞ちゃん、やっぱり、」
「うん?」
「帰さないで」
「青藍〜ダメだよ。そりゃまだ一緒にいたいけど、お母さんが心配しちゃうからね。」
その通りだった。私の方が甘い思考だった。
「帰したくないよ、正直に言うと。」
江舞ちゃんの寂しそうで真剣な、その顔が一番キュンとくる。
「きょうで帰るの遅いのはおわりにする」
少し背の高い江舞ちゃんにいつも抱きついて甘えて、「今日で終わり」を何回も繰り返していた。こんなにドキドキして押しつぶされそうな感覚、知らなかった。これ以上なんかなくていいから、どうか今の幸せのままでいさせてください。
「あーあ、もう、お母さんにしっかり連絡してね、なんか言われたらすぐ帰すから。」
「うん!」
もう一回二人でバイクに乗って、江舞ちゃんの家に向かった。肺が凍てつくぐらいの寒い風も全部温かくて、嬉しくて思わず江舞ちゃんの体をいつもよりも、さらに強くぎゅっとしてしまった。
「青藍、どしたの?」
「気分だよ」
「じゃあずっとそうしててね。」
何も言い返さなかった。言い返せなかった。でも私の目の奥の中でずっとキラキラしてる。もうどうにかなっちゃいそうだよ。これ以上のだいすきって多分溢れたら止まらないんだと思う。
「青藍にとって唯一の存在になりたい」
風を切って声が届く。時が止まった感覚がしたけど、江舞ちゃんの細い腰からは手を離さずぎゅっとし続ける。
「え、うん」
どういう意味かな。もう私にとっての大好きな江舞ちゃんは、ここにしかいないのに。
「行きたいところあるから、ちょっと付き合って。」
そういってバイクを走らせ続けた。初めてバイクに乗った時よりも風が気持ちいい。
しばらくすると小高い丘がある森へ来た。こんなところあるんだ。
江舞ちゃんに言われるがままついていくと、綺麗な広場に出た。草原と更地の間のような場所だけど、、、
「ねえ青藍、空、見てごらん。」
「え、、?」
江舞ちゃんが上を指差すのでその方向を、みる。見上げるとそこには、ありえないほど綺麗な星空が広がっていた。
「嘘でしょ、、、すごい綺麗!」
「綺麗でしょ。前約束したもんね。ほんとの星空見せるって。」
プラネタリウムに一緒に行った時の江舞ちゃんの言葉を思い出した。
その時見た景色の何倍も綺麗で、今すぐにでも星に手が届きそうで、降ってきそうだった。そして、あの時の私よりも、今の私の方が何倍もあなたのことが好き。
江舞ちゃんに言いたいことは、今もあの時も変わらず同じだった。だけど言ったらダメ、伝えたらダメ。叶わない。終わりがわかって、一緒にいるのに。また悲しい気持ちが今の幸せを塗りつぶそうとしていたから、そんなこと考えないで今と向き合った。
「ありがとう、こんな素敵なところ、初めて来た。」
「忘れなくなるな。・・・星空も、青藍も」
「うん、わたしも、ぜったい忘れられないよ」
差し出された手のひらの上に、私の手を置いて、夢みたいな時間を過ごした。もうずっと離したくない。駆け落ちしてる王子様とお姫様みたい。江舞ちゃんはバイク乗りで、私はドレスを好まないお姫様だけど。いつものあれを期待した自分をここで恨んだ。だってこの上ない幸せだから。
「もう全部が、江舞ちゃんでいっぱいだよ。あぁ、もっと早く逢いたかった。」
「過去を変えたら、今はないかもしれないから私はこのままでいいかなって思うけど」
そう優しく笑ってしゃがみ込んだので私も隣でしゃがむ。
「江舞ちゃんが、星空見せてくれるって言ってくれたの、本気だと思ってなくてね、、、」
「青藍が本気なんだから、私もそうだよ」
心から嬉しいって、文字通りに思った。信じたいって思った。
確かに、女の子好きだし、すぐいろんな子に可愛いって言うし、私のこと一途に見てくれるわけなくて、何回も凹んで密かに泣いてた夜もあった。だけど、すごい優しいんだ。会うと楽しくて、ずっといたくて、会えてない時はずっと痛くて。私、江舞ちゃんに言ってないだけでこんなに大好きなの。不思議だよね。江舞ちゃんは私の気持ちに応えてくれるわけないのに。でも私の本気には応えてくれたの。そんな江舞ちゃんを信じないわけにはいかなかった。
「待って、青藍、泣いてる?」
「かんどうしちゃって、しんどいぐらい嬉しくて、」
「あははは、感動? そんなに綺麗だった?」
気づいたら私は涙目なのに、この人ったらお腹を抱えて笑ってるよ。
「笑いごとじゃないもん。」
「いや違う、なんか愛おしいなって思ってるだけ。」
「、、、うん」
一言で一喜一憂したり、その一言が宝物になったり、だいすきって言えない方が幸せに感じたり辛かったり、いろんな感情が生まれてる。
「それもそうだけど、江舞ちゃんといれて嬉しいから。」
「よかったよ。江舞も青藍が自分の中で想像以上に大切な存在になってるのに気づいた。だから青藍との約束は必ず守るし、未来への不安を忘れさせるくらい幸せにする」
「え、、、そんなこと、、、」
人って信じられないぐらい幸せな時って手で口を抑えてしまうんだ。オーバーに見えるけど、全然オーバーじゃない。出逢えただけで、今隣にいてくれてるだけで幸せなのに、それを言葉にして伝えられなかった。気持ちが溢れ出す時は、言葉にもならないんだね。最近の江舞ちゃんは様子がおかしくて、もしかして、おんなじ気持ち、なのかなって。だとしたらそれはすごく嬉しいことだけど、同時に現実世界へと引き戻す材料にもなってしまう。
「あと少し見てよっか。」
細い指を絡める。江舞ちゃんの手は今日はめずらしく、かなり冷たかったから私が江舞ちゃんを守りたいと思った。
もう恋ではないと言い逃れはできなくなってしまった。ずっと前からそうだったのかもしれないけど。江舞ちゃんは、江舞ちゃんの知らないところで、私の想像以上の幸せをいつもくれるの。もうこれが遊びだっていうなら、あなたがここまでしてくれて本気じゃないっていうんなら、私はもうお手上げだよ。遊ばれてるのってダメなことかもしれないけど、もう遊ばれてもいいやって思っちゃう。どれもこれもそう思わせる江舞ちゃんが悪いんだ。
ほんとに大好きって、きっとこれだ。一言で言うと、この人に嘘つけないっていうこの感情。
二人でこの夜を過ごして、何度も超えて二人だけの世界で、ずっといようって言うと江舞ちゃんなら、困って笑うだろうな。
このあとどうやって過ごすかは、この世界の誰にも内緒。二人だけの秘密にする、江舞ちゃんはまだ見つからない星の在処も、まだわからない未来だってもうなんでもわかっちゃうような気がする。そんなところが大好き。
夜も底を尽きてく。満点の星空に呑まれるだけじゃまだまだ足りない私たちは、次は江舞ちゃんの少々人間らしい愛に呑まれていく。帰ってから流れるようにベッドの上。もう慣れたけど、慣れないのは江舞ちゃんの優しくて、満足する愛のある、あれ。
恋は付き合うことが全部じゃないよね。好きな人に、両手を繋がれてやっと0センチの距離で身体が重なる。あぁ、幸せ、幸せ、、、
「ん? ここ、どうした?」
「え、?」
江舞ちゃんの酸素を忘れそうなキスから離してもらうと、青紫に太ももと腕が腫れていることに江舞ちゃんも気づいた。朝見た時よりも、暗いとこで見ても色がはっきりしてる。江舞ちゃんが切ない顔であまりにも優しく撫でるから、傷ついた細胞が喜んでるみたいで、
「えっ、大丈夫じゃないよね」
「ううん、大丈夫だから、気にしないで、続けて」
咄嗟にそんなことしか言えなかった。もっとしてって、それしか言いたくない。泣きたくない。首に腕を回してぎゅっと抱きしめたのに、江舞ちゃんは何かに気づいたように身体を放した。
「いや、待って、無理だよ。青藍、、、泣いてるから」
そう言って私の目から流れた涙を細い人差し指で拭ってくれた。
「え、、、?」
泣いてることに自覚はなくて、本当に誤魔化しの気持ちなら、遊びなら、今からすることに対して涙なんて出ないんだろうな。
あー、やっちゃったな。泣くって一番冷めるらしいのに。
「大丈夫? 今日はやめようか。」
「うぅ、ごめん、」
「謝んないで。なんか飲む?」
「うん、、、」
「じゃあ、待っててね。」
そう言っておでこにキスして、キッチンへ向かった。切なくて、胸がギュッとされて今は私が唇を噛む。私は何してるんだろう。江舞ちゃんと一緒にいたくてさ。でも嘘をついてるみたいなの。
「もしかして寒かった? 大丈夫? 今日はゆっくりしようね。」
温かいココアを淹れてくれていた。まだ涙目の私をもう一度見て、もう一度おでこに優しくキスしてくれる。
そんなに不安げな顔させて、ほんとにごめんね。
「江舞ちゃん、ありがとう。」
「何かあった?」
「何かあったわけじゃないんだけど、」
「うん。」
ぎゅっと心臓が痛んで、江舞ちゃんに抱きついた。
「、、、江舞ちゃん、どこにも行かないで、一人にしないで。」
理由も伏せて、こんなこと言って今すごいめんどくさい女になってるんだろうな。彼女でもないくせに、図々しくて、最低な女。
「青藍のこと、絶対一人になんかさせないよ。」
そんな切ない声で細い声で言われたら全部本気だって思っちゃうんだよ。
「わがままだよね、」
「青藍のわがまま聞くよ。青藍だから聞くの。」
「青藍の居場所はここだよ、大丈夫だから江舞のこと信じて、言ってみて?」
江舞ちゃんの腕の中は本当に頼りなかった。
「うん、そうするから、、、」
もう、今日で嘘つきでずるい自分を終わりにしよう。今日しかない。今日しか言えない。
「今からさ、、、変なこと言うね。」
「うん」
「嫌われるかも、しれないこと言うね」
「うん、」
どんどん不安げな江舞ちゃんの表情、自分勝手だけど見ていられなかったから目を合わせずに、言った。
「私ね、彼氏が、いるんだ」
「えっ」
「それで、その彼氏に、DVされてるの」
続けて、小さくて消えそうな声で話した。
「じゃあ、さっきのここのあざも跡も、、、」
「ずっと騙ってて、ごめんなさい」
次はちゃんと目を見て言って、深々と頭を下げた。
長い沈黙の後、江舞ちゃんは話し始めた。
「正直、、、私は何も言えない。普通の人ならここで君を許さないって言って、君のことを裏切りものだと言うところだけど、江舞は普通の人じゃないからさ。世間の味方もしないし、江舞は青藍のためなら、世間だって犠牲にできる。いつだって青藍の味方にいる。」
「江舞ちゃ、、、」
ありえないけど、私の体を抱き寄せてくれた。
嘘でしょ。殴られても、捨てられてもおかしくないと思って、その覚悟できたのに。
「だからさ、私にして。今更、青藍から離れる気ないから。」
江舞ちゃんの腕の中で私は、死ぬほど泣いた。私が恋してるのは江舞ちゃんなんだ。正直に生きたい。気付くのが遅かっただけ。タイミングが悪かっただけ。違うの?
「許さないそいつ、」
「別れたいって言ったら、また、何かされそうで、怖くて、なにも、言えなくて、どうしあらいいの、」
少しだけ過呼吸になる、それでもこんなこと言う私を江舞ちゃんはそばにいてくれる。
「そうだったんだね、、、そういうことか、、、」
私の首に、手を添えてくれた。いつもは首元にある人間の温もりは怖いものだって思ってたのに、どうして、江舞ちゃんにならもっと触れてほしいって思うの。
「もう青藍の身体に傷つけさせない、私が必ず守るからね」
私が覚えてる記憶はそこまでで、あとは体温の中で眠りについていたみたいだった。
胸を焦がして想ったことは、江舞ちゃんと結ばれたいということひとつだった。




