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7 断罪返し




 そうして迎えた、卒業パーティーの当日。


 アンジェリーナは、自分にできうる限りの備えをしていた。


 光魔法の護身用魔道具も忍ばせた。

 証拠の映像を投影するための器具も、主宰する生徒会了承の下、あらかじめ会場の裏に置かせてもらっている。


 会場に入る際は、教師達が会場に入ったあとに入場した。もちろん、一人でだ。


 そうしたら、会場が既ににざわめいていた。


「アンジェリーナ! 逃げたのか、アンジェリーナ!」


 ラインハルト第二王子の叫びに、アンジェリーナはビクリと肩を震わせる。


 入口近くの生徒達は、入場してきたアンジェリーナを見てホッとするのと同時に、狼狽えていた。


 何が起こったのかと会場を見回していると、どうやら第二王子がアンジェリーナをみなの前でなじっており、アンジェリーナ本人がいないことに憤っているようだ。第二王子と寄り添うマリアンヌを中心に、人だかりができてしまっている。その人だかりのおかげで、ラインハルト第二王子はアンジェリーナの存在に気がついていないようだ。


 そんな中、親友のテレーザがアンジェリーナのところに駆け寄ってくる。


「アンジー、だめよ。会場から出た方がいいわ」

「テレーザ?」

「殿下の様子がおかしいの。あなたがいない会場で、急に、アンジーとの婚約を破棄して、マリアンヌ嬢と婚約するって宣言して……」


「――アンジェリーナ!」


 どうやら、会場から出る前に見つかってしまったようだ。


 第二王子はなんと、アンジェリーナ本人がいないにも関わらず、断罪劇を強行したらしい。

 遠くの方で、「ラインハルト殿下、おやめなさい!」という教師の声も聞こえる。

 この事態を避けるために教師が入場してから会場入りしたが、学園の教師達では第二王子の愚行を止めることはできなかったようだ。


(どこまでわたくしが憎いんですの? いえ、もう気がふれたとしか……)


 怪訝に思いつつ、この場でその疑惑を口にすることはできないので、呼ばれるがままにアンジェリーナは進み出る。


 ザッと生徒達が身を端に寄せたので、アンジェリーナと第二王子達を囲むようにぽっかりと丸い空間ができあがった。



「アンジェリーナ。お前との婚約は破棄する! そして私はこの場をもって、心優しいマリアンヌと婚約する!」



 三度目の婚約破棄に、アンジェリーナは真っ向から立ち向かう。

 背筋を空に向けて伸ばし、顔をあげ、自慢の吊り目で第二王子を見据える。


(狼狽えて、されるがままだなんて……わたくしの矜持が許しませんわ)


 前回の屈辱を胸に、アンジェリーナは毅然として声を上げた。


「婚約を破棄することには同意いたします。けれども、破棄するのはわたくしです。決してラインハルト殿下ではございません!」

「なんだと!?」

「そこに寄り添うマーブル男爵令嬢、マリアンヌとの不貞。また、わたくしに対する暴言、虚言を撒き散らした名誉毀損で神殿に訴えます」

「は、はあ!? 何を生意気な!」

「な、なんですかぁ、それぇっ……!」


 動揺し凄んでくる第二王子に、アンジェリーナは怯まない。


「そもそも殿下は、なにゆえわたくしとの婚約を破棄できるとお思いになったのです」

「お前の行動、人間性が王族にふさわしくないからだ! お前は何度も、私やマリアに嫌味ばかり言っていたではないか! 彼女の私物の破損などの嫌がらせについても、証人が複数いる!」

「全て事実無根です。お二人の関係性やマナーについてお諌めしたことはありますが」

「そういう上から目線での発言が嫌味だというのだ!」

「私物の破損などの嫌がらせをしたことも一切ございません。証人とは、どなたのことでしょうか」

「またあからさまな嘘を並べたてて! 生意気な女だ……ユリウス!」

「はい」


 第二王子と男爵令嬢の後ろに立っていた男性陣が呼ばれる。彼らはニヤニヤした顔つきでアンジェリーナを眺めながら、アンジェリーナがマリアンヌの私物をいつ壊したのか、どんな嫌がらせをしたのか、滔々と語り出した。


 ここで、教師達が話に割って入ってきた。

 どうやら、あまりに突拍子のない展開に、うまく反応できていなかったらしい。


「ラインハルト殿下、おやめなさい!」

「この場でこのような真似をするなど、国王陛下がお許しになりませんよ!」


 止めに入った教師達を、アンジェリーナは右手をサッと挙げて静止する。


 このような、アンジェリーナの名誉だけが貶められたタイミングで話を終わらせられては困るのだ。

 話を切り上げるのは、アンジェリーナの主張の後でなければならない。


「先生方、もうよいのです。――殿下。このような虚言、話になりませんわ」

「証人がこれだけいるのに、しらばっくれようなどと無駄なことを」

「ええ、わたくしを陥れるための偽証をする証人が大勢いらっしゃるようですわね」

「なにを!」

「わたくし、証拠を持っていますの」


 アンジェリーナはパーティーバッグから写真を取り出し、会場に撒き散らす。


 そこには、第二王子とマリアンヌの睦み合い、第二王子と取り巻き達が、マリアンヌと共に焼却炉で私物を燃やしている様子などが写っていた。


 会場がどよめき、第二王子達も真っ青になっている。


「な、な、な……」

「これが証拠です」

「こんなものは偽造だ!」

「映像記録、音声記録もございます。舞台裏に投射装置を置かせていただいていますから、ご希望であれば今すぐお見せできますわ」

「なにを生意気な!」

「いやああ、なによこの写真! もういやですぅ、やめてください殿下ぁ!」


 マリアンヌの悲鳴が会場に響く。

 それはそうだろう、写真には第二王子と彼女の様々な恥ずかしい姿が映し出されていたのだから。


「殿下。マリアンヌ嬢の希望どおり、これ以上ここで争うのはやめましょう」

「……!」

「今から卒業パーティーです。事実によってわたくしの名誉も守られましたし、殿下方の目論みも潰えました。これ以上場を乱すのは良くありませんわ」


 アンジェリーナは真っ直ぐに第二王子を見る。


 床に落ちた写真を見ながら俯いていた第二王子は、隣で泣き叫ぶマリアンヌを見た後、血走った目でアンジェリーナを見返した。


「許さないぞ、アンジェリーナ! よくもマリアンヌを!」

「……えっ」

「全てお前が悪いのだ! 全て、アンジェリーナ、お前が……!」


 あまりの怒気と狂気に、アンジェリーナも周りの生徒達も教師達も怯んでしまう。


 その隙に、第二王子が近くの衛兵の剣を抜き、アンジェリーナの方に突進してきた。


 急な展開に、凶刃を振るおうとしているのがよりによって第二王子はというこの状態に、誰もが動けないでいる。


(こ、ここまでしても諦めないの? 殿下、一体どうして……)


 唖然とするアンジェリーナ。


 その眼前に、黒い影が飛び出してきた。




「無茶するな、ばか!」




(今回は『逃げろ』じゃないのね……)


 呆然としながら、アンジェリーナはその背中を見つめる。

 きっと、アンジェリーナが行動を変えたせいなのだろう。3回目にして、彼の台詞も変わってしまったようだ。


(ここできっと、魔法陣が)


 アンジェリーナは、光魔法の護身具を握りしめる。


 第二王子が剣を振りかぶると同時に、目の前に、アンジェリーナを中心として、幾重もの紫の魔法陣が浮かび上がった。


 そして、アンジェリーナの手元にある光魔法の護身具が砕け散った。


「――えっ?」


 バラバラになった魔道具を、アンジェリーナは呆然としながら見つめる。


 アンジェリーナの声に、目の前の彼が振り返った。


 そして、紫の瞳が、アンジェリーナの手元の魔道具に向けられて――。




****




「――失敗、だわ」



 自室のベッドの上。


 アンジェリーナは呟いた。


 どうやら、護身の魔道具と断罪返しでは、アンジェリーナはこの時戻りを避けられないらしい。


 しかし、困ったことになった。


「もしかしてわたくし、この1ヶ月に閉じ込められてる?」


 アンジェリーナはようやく、自分の置かれた現状に気がつき始めたのだった。





【獲得情報】

光魔法の護身用魔道具では、時戻りの魔法は止まらない。

断罪返しをしても、時戻りの魔法は止まらない。



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