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61 約束




『わぁ、綺麗だね〜』

「そうね」



 わたくしと◯ジェルドは、ある日の夜、王宮の最上階の展望フロアにフェニを連れてきました。


「フェニ。わたくし達、あなたに話があるのよ」

『なぁに?』

「私達が死んだ時の話だ」


 そういうと、フェニはサッと羽で耳を塞ぎます。


「フェニ」

『やだ。やだもん。聞かないもん』

「あのね、フェニ。わたくし達がいなくなるときにね」

『いなくならないもん……』

「眠りにつかないか」


 ラジェル◯の言葉に、フェニはパチクリと目を瞬いています。


『眠り?』

「そうだ。次の家族が見つかるまでの間、君は長い眠りにつく」

『次の家族なんていらない!』

「フェニ」

『僕は、二人の家族だもん。二人がいるなら、他なんていらない』

「フェニは甘えっ子ね」

『やだもん……』


 ポロポロ泣いているフェニの頭をわたくしはそっと指で撫でます。


「フェニ。この夜景は綺麗だろう?」

『うん』

「この光の一つ一つの下に、命がいるんだ。それを私達は、守っていきたい」

『だから、僕を置いて行くの? 僕は、全部を壊すかもしれないのに?』

「フェニの未来も、潰したくないんだ」


 ラジェ◯ドの言葉に、フェニは目を丸くします。


「フェニは今、この光景を綺麗だと言ってくれたね」

『うん』

「これは、沢山の命が続いているからこその光景なんだ。そして、それを美しいと思うことができたのは、フェニ。君が生きてここに居るからこそだ」


 固まっているフェニに、わたくし達は続けます。


「フェニ。これからあなたは、沢山の素敵な経験をするわ。いろんなものを見て、沢山の人と出会って、笑って泣いて、多くの美しいものと出会うの」

「そういった君の未来も、私達は大切にしていきたいんだよ」

『……でも、僕はきっと悪い子だよ。聖女が言ってた! 討伐するって。ラジーもアビーも、僕を討伐しなくていいの。僕のすることを止めたいなら、僕を消せばいい』


 不安そうにこちらを見る水色の瞳に、わたくし達は笑います。


「フェニは良い子だから大丈夫だ。なあ、アビー」

「そうね、ラジー」

『……そんなの分かんないよ』

「フェニ。君は私達を大切にしてくれている。その気持ちが消えない限り、きっと君は、私達の気持ちを裏切ったりしない」


 微笑むラ◯ェルドに、フェニはポロポロと涙をこぼします。


『ズルい……ズルいよ、ラジー』


 泣いているフェニを、わたくし達は指で何度も撫でます。


「ねぇ、フェニ。わたくし達の大切な家族。あなたはきっと、大精霊として、とても長く生きるわ。わたくし達の、沢山の命の瞬きを、美しいものを、誰よりも長く覚えていられる」

「魔法なんて使わなくても、君は長い時を越えて、多くのものを運んでいくんだ。最高に格好良い《時》の大精霊だ。そう思うだろう?」

『……格好良い?』


 ぐじゅぐじゅ泣きながらわたくし達を降り仰ぐフェニに、わたくし達は頷きます。


「そうだ。私達のフェニは、凄い子なんだから、ただの《良い子》に留まるなんてことはないはずだ」

「あなたはきっと、世界一格好良い大精霊になるのよ。わたくし達は、そう信じているの」

『世界一、格好良い大精霊……』

「そうよ」

「だいたい、フェニは既に格好良いもんな。全精霊を敵に回しながら生き延びて、大精霊にまでのしあがってる。ここで消滅するなんて、勿体無いにもほどがあるじゃあないか」


 ラジェル◯が茶目っ気たっぷりに言うので、わたくしはクスクスと笑ってしまいます。

 フェニは、わたくし達を見た後、考え込み、そして、もう一度わたくし達を見ました。


『……分かった。僕、頑張ってみる』

「フェニ」

『だけど。だけどね、ラジー、アビー。僕、沢山、たくさん頑張るから……僕が死んだ時は、沢山沢山、褒めてね』

「もちろんだ」

「いっぱい褒めるわ。ちょっと先に行ってしまうけれど、ずっとずっと、あなたのことを待っているから」

『約束だよ?』

「ああ、家族の約束だ」

「三人の大切な約束ね」


 わたくし達は、夜景の光に照らされる中、そうして、大切な約束を結んだのです。



 この話を読んだ皆様。



 あなたは、わたくし達の判断を甘いと思われるかもしれません。



 フェニが眠るこの大地は、《時》の大精霊という大きな存在を封印するため、多くを犠牲にしています。



 わたくし達は、その存在を隠すべく、王都の地下にこれを封印しました。



 けれども、全てが枯れゆくこの大地では、人は生きて行くことができないでしょう。



 三代後には、最低限を残し、遷都する手筈となっているため、今のこの場所は廃墟になっているはずです。



 そうした犠牲を払うこと。

 その罪は、ラ◯ェルドとわたくしの二人が背負うものであり、フェニは預かり知らないことです。



 わたくし達の設定した条件を満たす後継者様。



 愛を知る、男女二人。



 それは、フェニが望んだ、次の家族の条件です。



 お二人は、お互いに思い合っている訳ではないかもしれない。



 けれども、それでもいいのです。



 愛を知るあなた方なら、きっとフェニを大切にしてくれる。



 どうか、彼を愛してあげてください。



 わたくし達の家族を、導いてあげてください。



 これが、しがない金髪クイーンからの、心からのお願いです。



 世界を守るため。



 何よりも、フェニの心を守るために、伏して、お願い申し上げます。



 わたくし達の家族を、どうか大切にしてあげてください。








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