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侯爵令嬢アンジェリーナはループ♾を終わらせたい  作者: 三毛猫かりん
3章 3回目
6/76

6 エスコートの申込み


 アッシュグレーの髪に、ブルーグレーの瞳。

 落ち着いた色合いの、どことなくお洒落で優雅な雰囲気のある彼は、クラスメートのカルロス。現在宰相を勤めているカーペンター侯爵の息子だ。

 長いまつ毛に彩られた端正な顔立ちには、どことなく知性と色気が感じられる。

 彼の優しげな表情を、アンジェリーナは好ましく思っていた。


「アンジェリーナ様」

「カルロス様、ご機嫌よう」

「最近、お忙しそうですね。殿下とはその……変わらずのようですが、なんだか、その」

「?」

「お強くなられたのだろうか。あなたもあまり、落ち込まれていないようだ」


 言葉を選んでくれるカルロスに、アンジェリーナは胸が暖かくなって頬を緩める。


 今回時を戻ってからは、アンジェリーナはカルロスとあまり話をしていなかった。

 それは、アンジェリーナが、ラインハルト第二王子達になじられた後、カルロスに落ち込んだそぶりを見せなかったからだ。


 その理由はなんのことはない、落ち込んでいる暇がなかったのだ。なじられた現場を撮影したカメラの回収や、第二王子達の睦み合いの撮影に忙しくて、それどころではなかった。


「そういう訳ではないのです。少し忙しかっただけで」

「そうなのですか」

「はい。しっかり落ち込んでいるので、カルロス様のお気遣いが身に沁みます」


 見たくもない睦み合いを撮影し、精神的に疲弊しているアンジェリーナは、カルロスの気遣いが本当に嬉しかった。

 心からの笑顔を見せるアンジェリーナに、カルロスも蕩けるような笑みを浮かべる。


「ところでアンジェリーナ様。殿下はあなたに、卒業パーティーのエスコートを申し込みましたか?」

「あ……いえ、その」

「……そうですか。あの方は、本当にどうしようもない」


 ため息を吐くカルロスに、アンジェリーナはクスクス笑う。


「アンジェリーナ様?」

「カルロス様はいつだって、わたくしよりも怒ってくださるのね」

「こんなにも美しく健気な令嬢が無碍にされているのですから、紳士として当然ですよ」

「まあ、お口が上手くていらっしゃるわ」

「本心です」


 カルロスがアンジェリーナの手を取る。


(あ。今回も、なんですのね)


 しまったなと思いつつ、アンジェリーナはカルロスを見つめる。


「アンジェリーナ様。よろしければ、私にあなたをエスコートする栄誉をお与えくださいませんか」

「……カルロス、様」

「ラインハルト殿下は他の令嬢と入場するのです。殿下の代わりに、殿下の側近候補の私があなたをエスコートしても、さほど問題にはならないでしょう」


(あ、あら? いつもの断り文句を言いづらい流れだわ?)


 アンジェリーナは毎回、ラインハルト第二王子を差し置いてカルロスがエスコートをする理屈が立たない、カルロスに迷惑がかかる、ということを理由に、カルロスの申出を断っていた。

 このように言われてしまうと、今までと同じ理由では中々に断りづらい。


 けれども、アンジェリーナはなんとしても、この誘いを断らなければならない。


 なにしろ、今回のアンジェリーナは断罪返しを企てているのだ。

 カルロスが隣にいては、彼を泥沼の巻き添えにしてしまう。

 それに、カルロスは当日、熱を出すはずだ。カルロスは誠実すぎて、アンジェリーナとの約束を守るために、高熱でも出席してしまいそうだ。

 なんとしても、断らなければならない。


「カルロス様。お気持ちはとても嬉しいのですが……」

「ならば」

「申し訳ありません。わたくし、お受けすることはできません」


 キッパリ断るアンジェリーナに、カルロスは傷ついた顔をする。


「理由をお聞きしても?」

「わたくしとカルロス様が、仲が良すぎるからです」

「え」


 カルロスは目を丸くしている。


「カルロス様はこの三年間、わたくしのことを沢山助けてくれましたわ。そしてそのことを、同級生のみなが知っています」

「……それはまあ、そうですね」

「ここでカルロス様にエスコートをお願いしたら、わたくし、ラインハルト殿下と同じ穴のムジナと言われかねませんわ。そしてカルロス様も巻き添えです。わたくし、そんなのは嫌ですの」


 頬を膨らませるアンジェリーナに、カルロスは口元を抑えながら、頬を赤くしている。


「……分かりました。そういうことであれば、私は引きましょう」

「ありがとうございます」

「その代わり、殿下との婚約が解消された暁には、私と夜会に出ていただけませんか?」

「……え?」


 目を瞬くアンジェリーナに、カルロスは笑う。


「最近、色々と奔走されているそうですね。殿下との婚約解消に向けて、ようやく動き出されたのでは?」

「……それは……」


 怖い。

 アンジェリーナの手の内は、カルロスなのすっかりバレているようだ。

 隠して動いているつもりだったのに……。


「驚かせてしまいましたか。私は宰相の父の教育を受けていますからね。情報収集もカマかけも得意なんですよ」

「……悪い人」

「そうかもしれません」


 クスクス笑うカルロスに、アンジェリーナも微笑む。


「……わたくし、まだ婚約解消後のことは考えられませんわ。この数年の殿下の態度に正直傷ついていますし、婚約解消がうまくいくかも分かりませんし」

「……」

「ですが、カルロス様のお気持ちはとても嬉しく思います。お申出、心に留めておきますね」

「……あなたには敵わないな」


 どうやらカルロスは折れてくれたようだ。

 それ以上を求めることなく、彼は去っていった。


(少し、驚いたけれど。まずは目の前の事態をなんとかしないと)


 カルロスの粘りには驚いたが、アンジェリーナにはやらねばならないことがある。


 アンジェリーナは、制服の胸元をぎゅっと握りしめた。





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