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56 世界の敵




 それから、ラジェル◯は、既に起きた未来の情報を元に、ライトフット崖の戦いに勝利しました。


 生まれたての息子を残して死んだオルクス隊長も、今回は生き残って、生後4ヶ月に突入した息子を腕に抱くことができたのです。


「ラジェルド様は流石だ!」

「機転の効いた素晴らしい指示だった」

「まるで敵の動きが見えているみたいだったよなぁ」

「優れた軍師っていうのはそういうもんだ」


 戦勝パーティーにて、勝利に酔いしれる領民や兵士達を見ながら、ラジェ◯ドは浮かない顔です。

 彼のお父様やお兄様は、飲んだくれて大騒ぎしているというのに。


「ラジー」

「……アビーか」

「主役がそんな顔をしていてはダメですわよ」


 わたくしの指摘に、◯ジェルドは苦笑します。


 今回の勝利の立役者は、誰の目から見てもラ◯ェルドでした。彼は、彼の兄のように直接の武功を多く立てた訳ではありませんが、軍師として戦全体を勝利に導いたのです。

 ……その大きな拠り所は、未来の情報によるものでしたが。


 フェニは、時を戻したことは認めましたが、そのために何が必要なのかは教えてくれませんでした。

 これだけの魔法を使ったのです、何らかの代償はあって然るべきでしょう。

 わたくし達は一体、何を代償に支払ったのか。

 その疑問が、彼の心を蝕んでいるのです。


「ラジー、あのね」

「うん? ……アビー、いけない。私達はまだ婚約者にすぎない。み、みなの前では距離をだな」

「後で沢山慰めてあげるから、今は頑張って♡」


 にじり寄ったわたくしが耳元でこっそり囁くと、ラジェル◯は真っ赤に顔を染めた後、満面の笑みで皆の方に突撃していきました。わたくしのラジー、超絶可愛いですわ〜!


 一人残されたわたくしは、主役席の近くでチュンチュンとお皿の上のご馳走をつついている金色スズメに視線を移します。


「フェニ。あなた本当に、なにをしたの?」

『チュンチュン』

「もうっ。可愛いふりをしてもだめよ!」

『きゃー、アビーくすぐったい!』


 指先でこしょこしょとくすぐると、金色スズメはチュンチュン言いながら笑い転げています。


「フェニ」

『なぁに? アビー』

「本当に、ありがとう」


 涙目でわたくしがお礼を言うと、金色スズメはキョトンとした後、嬉しそうに羽をパタつかせていました。



 しかし、平和だったのは、ここまでのことでした。


 わたくし達の領地は、強い戦力を持っている訳ではありません。そして、戦乱の時代。わたくし達の領地は、幾度となく危機に陥り、その度にフェニは、時を戻す魔法を使いました。


 そして、ようやく異変が目に見えて現れたのです。


「ラジェル◯様、今年は作物の出来が悪く……」

「最近、老人達の体力が、なにやら、年齢に比して……」

「子ども達が、病で伏せることが増えているようです。今までは考えられないような軽い風邪で後遺症が……」


 最初は、気のせいだ、思い過ごしだと思っていたその変化は、とうとう誤魔化せないくらいに酷くなっていきました。

 そしてとうとう、ラジェルドがフェニを問いただしたのです。


「フェニ。お前の魔法は、大地の、みなの生命力を削っている。そうだな?」


 ぱちくりと目を瞬いた金色スズメは、チュン、と鳴きます。


『バレちゃったんだ。そうだよ。僕の魔法は、周りの全てを奪う。生命力じゃなくて、魔力と魂の力を、だけどね』


 何でもないことのように言う金色スズメに、ラジェ◯ドもわたくしも真っ青です。


「魂を削ると、どうなるんだ」

『……』

「フェニ」

『……来世、その次も……魂が回復するまでは、ちょっと体力や寿命が削られる……かな』

「……なんてことを」


 がっくりとソファに腰をおとし、項垂れた◯ジェルドに、金色スズメはコテンと首を傾げます。


『望む未来は手に入ったでしょう?』


 フェニは、青くなるわたくしとラジェルドが不思議でしょうがないようです。


『ラジーとアビーが生きてる』

「……フェニ、それは」

『ラジーとアビーが生きてるなら、それなら、他がどうなっても良いじゃない』


 純粋な疑問で満ちた、クリクリの透明な青色の瞳に、わたくしはごくりと息を呑みます。


「フェニ、それはだめだ」

『だめなの?』

「そうだ。これは許されないことだ。今後はもう、時を戻す魔法を起動してはいけない」

『やだよー』

「フェニ」


 羽をパタパタさせるフェニを、ラ◯ェルドはたしなめます。しかし、フェニには、ラジェル◯の諫言は届きません。


『言ったでしょう? 僕は、ラジーとアビーがいないなんて、許さない。二人がまた危険に晒されるなら、僕は躊躇わない』


 どうしましょう。

 これは、世界の敵だわ。

 わたくし達のことが大好きな、世界を衰退させる大精霊。


 焦るわたくし達に構わず、フェニは呟きます。


『こんなことを考える前の二人に、戻せば良いんだ』

「フェニ!」

『いつが良いんだろう。二人が、時を戻すことを喜んでいた時がいいな』


 慌てながらも、何の手立てもないわたくし達は、ただただ、フェニを言葉で説得する他はありません。

 けれども、わたくし達の言葉は、フェニには届かない。


(一体、どうしたら……!)


 そうして、フェニの尻尾の金色の炎が揺らめいた瞬間、◯ジェルドの寝室であるその場に、大声が鳴り響きました。



「見つけたぞ、この魔力イナゴー!!」



 空間に亀裂を作り、新緑の香りのするその穴から現れたのは、ふわふわの栗毛の、スラリとした青年でした。


『いやあー! 極悪魔王!』

「この有害鳥獣! 大人しく成敗されろ!」

『やだぁああ、助けてラジー!』


 フェニは素早くラジェ◯ドの肩辺りに隠れて、震えています。

 そんなフェニに、今にも襲い掛かろうとしている、突然現れた栗毛の男。


 ソファに座ったままのラジェルドを挟んで睨み合う二人に、わたくしもラ◯ェルドも唖然です。


 一体、何事なんですの!?





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