55 正しい飼い方とこれまでの経緯
[世紀の論文!
世界はあなたの手に委ねられた!
世界の敵・時の大精霊フェニの
正しい飼い方について★
著者 しがない金髪クイーン]
〜飼い方の秘訣〜
1 毎日愛でる必要があります。これを3日連続でサボると、フェニは家出し、世界を貪ります。《危険!》
2 食事は不要ですが、一緒にご飯を食べたがります。手のひらサイズのワンプレートで、同じような食事を用意してあげてください。スープなどの液体系は基本的に興味がないそうです。水は添えてください。お酒には興味を持ちましたが、絶対に与えてはいけません。おやつはなんでも食べます。特にクッキーが好きで、内緒で食べたのがバレようものなら、フェニは家出し、世界を貪ります。《実体験! 危険!》
3 フェニのことを、スズメと呼んではいけません。特に男性は注意。フェニは男性に容赦がありません。女性陣が「可愛いスズメちゃん」と言いながらアイドルのように愛でるのは問題ないようです。若い娘に囲まれて飲んだくれたラジェ◯ドのようにデレデレウキウキ喜びます。絶対に許さない。とにかく、男性は気をつけて。許さない。《超絶危険!》
4 死ぬ前に、フェニの面倒を見ることができそうな人格者を探して飼い主を代替わりしてください。忘れて死ぬと、世界が滅びます。《最重要!》
5 文字の読み方を教えてはいけません。内緒話ができなくなります。この日記帳を読まれたら、おそらく世界が滅びます。《4よりこっちの方が重要かしら……》
〜これまでの経緯〜
わたくし、しがない金髪クイーンは、8歳の頃から、鉱山地域ライトフット領の領主の二男である、ラ◯ェルドの婚約者でした。
ラジェル◯はいつも穏やかで、こう言ってはなんですが刺激がなく、彼とわたくしは最初、なんだか友達のような間柄でしたわ。
けれども当時、我が国はまだ立ち上げもできておらず、戦火にある小さな一地域にすぎませんでしたの。戦いの中、いつこの地域が隣国に併合されてしまうか、はたまた戦火に飲まれてしまうのか、わたくし達領民は戦々恐々でしたわ。
そんな中、戦に出ていく彼の勇姿にわたくし惚れてしまって……。ラジ◯ルドは元々わたくしのことが大好きだったらしく、アツアツカポーな婚約関係が始まりましたの。きゃっ。
ある日、わたくしとラジェ◯ドが清く正しい逢引きをしている最中に、地面に落ちている金色のスズメちゃんを拾いました。
わたくしが、「金色スズメちゃん可愛いですわー!」と言って拾い、◯ジェルドがペット用の治療師を手配した形ですわ。
「これは……この方は、生身の生き物ではありません。精霊様です」
治療師はそう言って治療を辞退。
魔術師を呼んだところ、腰を抜かしたので、それはそれで困ってしまいました。
「この方は、大精霊様です!」
その場で平伏する魔術師に、わたくしもラ◯ェルドも唖然。
『バレちゃった〜、ラジェルド君、アビゲールちゃん、よろしくね!』
そこからペラペラと流暢に話し出した金色スズメは、魔力不足で行き倒れていたのだと自己宣告してきました。
なにやら、追っ手から逃れるために、自分自身の魔力にも手を出してしまい、消滅しかかっていたのだとか。
『でもね、もうお腹いっぱいだから大丈夫〜! 助けてくれてどうもありがとう』
ご機嫌でチュンチュン鳴いている金色スズメに、わたくしもラジェル◯も青くなりました。
この金色スズメは、何に追われていたのか。一体、何を食べてお腹いっぱいになったのか……。
金色スズメは尋ねてもチュンチュン鳴くばかりで答えてくれないので、わたくしもラジェ◯ドも、その時は諦めました。
そのことが、さらなる悲劇を呼ぶとは知らずに……。
なーんちゃってね!
ここで金色スズメが何を食べていたのか分かったとして、わたくし達にはどうしようもないんですけれどね!
ちょっと、この文章を読んでいるみな様の気を引きたくて、書いてしまいましたわ、ふふ。
その後、わたくし達は、その金色スズメに《フェニ》と名づけました。拾った時に『僕は不死鳥……』と寝ながら呟いていたので、ラ◯ェルドが「不死鳥のフェニ、でどうだ?」と安直な提案をしたのです。
フェニは飛び上がるほど喜んでいました。『やっぱり僕が不死鳥だって、分かっちゃうよねぇ』と、照れ照れモジモジしながらたいそう喜んでいました。……わたくしのラジー、流石ですわ!
それからしばらく経った後、わたくし達の領地は戦火に見舞われました。そして、領民達と共に領主城に立て篭もる中、わたくしとラジェル◯は、お互いに今生の別れを告げていました。
『ラジー、アビー、お別れなの?』
「そうだよ、フェニ。せっかく仲良くなれたのにすまないね」
「フェニは逃げてね。ここは危険だから」
そう言ってフェニを窓から逃がそうとしましたが、フェニはその場から動きません。
『どこまでがいい?』
「え?」
『あの、ライトフット崖の戦いときかなぁ』
フェニはどうやら、ライトフット崖の戦いが、我が領土の敗戦を致命的にしたものだと気がついていたようなのです。まあ、領主城はその話題で持ちきりでしたし、ラ◯ェルドもそのことを悔いて、何度も口にしていましたから……。
『あの戦いで、負けなければいいんだよね』
青く透き通ったその瞳に、背筋がぞくりとして、わたくしは◯ジェルドに寄り添います。
『ラジーとアビーがいないなんて、僕は許さない』
ラジェル◯が何か言う前に、わたくし達二人を、フェニの金色の炎が包み込みました。
「フェニ!? 何を……!」
紫色の魔法陣が煌めく中、わたくしとラジェ◯ドは思わず目を瞑ります。
そして、次に目を開いた時には、わたくし達は地図を見ながらの作成会議の場にいたのです。
「敵の小隊3つが、ライトフット崖のこちらから進行中です」
「マクファーレンの部隊に行かせよう」
「だめです、ここを手薄にすると、こちらに対応できなくなります」
「ではどうするのだ! 他に余裕のある隊は……◯ジェルド様? どうされましたか」
ラ◯ェルドと秘書のように側に控えたわたくしが、あまりにポカンとしているので、隊長達はこぞってわたくしと彼の方を見ました。
わたくしと彼は目を見合わせた後、隊長達に尋ねます。
「……オルクス隊長。今はライトフット崖で戦っている最中……だな?」
「もちろんです」
「君の息子は今、生まれて3ヶ月か?」
「……そうですが」
いぶかるオルクス隊長に、ラジェル◯もわたくしも呆然としました。
――時を、遡っている。
言葉もないわたくし達のそばで、金色スズメは、得意げにチュンチュン鳴いていました。




