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40 通路探索




「ちなみに、羽虫って何よ」

「国王軍」

「ゲホッ!?」

「あとは、多分……いや、そのうち出てくるだろ」

「な、何よ! 何なのよ、そんなふうに皆ついてくるなら、一緒に行けばいいじゃないのよ!」

「剣で脅されながら進みたいのか?」

「いやよ!!」


 混乱したまま自分の思いの丈だけを主張したアンジェリーナ。

 息を吐くと、彼女は改めてニコラスに尋ねた。


「……撒くのに失敗したなんて聞いていませんわ」

「今言ったからな」

「もう!」


 プリムローズ学園に入学したオルトヴィーンには、常に王家の監視がついている。それは、オルトヴィーンがなんらかの方法で、ふと王家の秘宝を見つけ出す可能性を考えてのことだ。

 そのことを、オルトヴィーン本人は知っていた。知らされた訳ではなく、勝手に気がついていた。

 そして、第二王子であるラインハルトとその婚約者であるアンジェリーナは、立場上、彼に見張りがついていることを知らされていた。


 だから、アンジェリーナはオルトヴィーンに近づく際に変装した。しかも彼女は、オルトヴィーンに話しかけた後、一度彼から離れたのだ。

 オルトヴィーンはアンジェリーナからの指示に従い、一人でトイレに入り、こっそり窓から抜け出した。その後、認識阻害魔法を使いながらカフェルームにいたアンジェリーナを目視。彼女についてくる形で自習室とやってきたのである。


 アンジェリーナはミルクティー色のカツラを取り払いながら肩を落とす。後ろで束ねていた髪を解くと、艶めくホワイトブロンドの髪が舞って、ふわりと花の香りが舞った。

 そのせいでラインハルト第二王子は若干頬を染めて下を向いたけれども、彼女はそんなことには気が付かない。残りの二人の男も実は内心動揺したけれども、表情は動かなかったので尚更彼女は気が付かなかった。


「わたくしの変装が上手くなかったのかしら」

「アンジェリーナ様の変装は素晴らしかったですよ」

「そうかしら。そうよね」

「とてもお可愛らしくて大変目立っていました」

「え?」

「今まで話をしたこともない可愛らしい美女と、私は図書館で会話をしました」

「え、あの、え?」

「私を見張っている一味はどう思ったでしょうね」

「……」

「おい、素直で単純なリーナで遊ぶな」

「アンジェリーナ、君は頑張っている。この男どもの雑言は気にする必要はない」

「…………わ、わたくしの変装って……」

「可愛らしかったですよ」

「リーナはミルクティー色も似合うんだな」

「アンジェリーナ! 私が一番可愛いと思っていたからな!?」

「……!? は、はい……」


 三人の男達が変な角度で誉め倒してくる。一体なんなのだ。やはり三人とも仲良しではないか。しかしやはり変装は意味をなさなかったのか?

 恥ずかしいやら混乱するやらで、アンジェリーナは色々と納得がいかず、むず痒そうな顔をする。そんな彼女に、オルトヴィーンはくつくつと笑った。


「まあ、アンジェリーナ様をからかうのはこの辺にしておきましょう」

「!?」

「オルトヴィーン。お前、今も図書館一階に戻って自習している()()はしているんだろう?」

「えっ」

「そうですね。あなたも四人で自習室を出る時、私達を隠していたんでしょう」

「まあな」

「ええっ?」

「それにそもそも、リーナはお前を直接自習室に案内していない。あと、ラインハルトは、リーナがお前にしたのと同じような方法で俺が連れてきた」

「そこまでして気づかれたということは、向こうには魔法知識のある相当の手練れがいますね。……おそらく近衛のマクファーレンが来ているな。厄介な」

「…………あの……」

「私の得意魔法は光魔法ですからね。今も光魔法で、図書館のトイレから出て一人で勉強している私の幻影を作っています」

「俺の得意魔法は闇魔法だからな。部屋を出る時、四人の姿を消しながら移動していた」

「……」


 なんなのだ。この二人、なんだかんだ仲良しな上に、性格もそっくりではないか。勝手に色々気がついて行動しているところも、いちいち聞かないとそれをアンジェリーナに教えてくれないところも一緒である。


 しかし、それを言ったらまた揉めそうな気がする。

 アンジェリーナが困ったように目を彷徨わせると、ラインハルト第二王子と目が合った。首を横に振る彼に、アンジェリーナはそっと目を伏せる。彼女は聡い侯爵令嬢なのである。


「マクファーレンというと、マルセル=マクファーレンの父親か。赤毛の近衛隊長?」

「そうです」

「……あれか」


 歩きながらも顔をしかめるニコラスに、アンジェリーナはギュっと自分の手を握りしめた。

 赤毛の近衛隊長といえば、前回、ニコラスにナイフを投擲した人物だ。ニコラスの昏睡魔法も咄嗟の防御魔法も効かなかったし、正面から対峙して勝てるとは思えない。


 不安そうにしているアンジェリーナに、ラインハルト第二王子は安心させるように微笑みかけると、後ろを振り返ってニコラスに話しかけた。


「ニューウェル卿。追跡している奴らの対処は考えているのか?」

「うーん」

「考えていないのか!?」

「ざっくり、だな」

「ざっくり」


 想定していない能天気な返事に、ラインハルト第二王子だけでなくアンジェリーナも青くなった。

 そんな二人を見ながら、ニコラスは肩をすくめた。


「おいおい、全部俺に丸投げはよしてくれよ」

「……それは、その」

「うぅ……」

「ニコラス=ニューウェル。その素直で単純で初心で純朴な私の幼馴染二人で遊ぶな」

「それもう全部悪口じゃないか?」


 ニコラスは、チラリとオルトヴィーンに目線を走らせた後、用心深く通路の様子を見ながら、歩みを進める。視線を他の二人に向けることなく、背後を警戒しながら話し出した。


「前回の時間軸で、リーナは国王に目をつけられた。今回の時間軸では、リーナは時間が戻るなり侯爵家から脱走」

「脱走て」

「ライトフット国王からすると、《時戻り》の魔術への関与が明らかなアンジェリーナは居所が知れない。かたや、学園の図書館に常駐ぎみの謎解きの天才、オルトヴィーン=オルクス。……ここからは《時戻り》を何度繰り返しても、オルトヴィーンの見張りが緩むことはない。それは最初から分かっていた。見つかったのは残念だが、まあ想定していないこともない」

「……それで?」

「向こうに準備させないよう、間髪おかずにここに来た。元々待機していた()()以外は居ないはずだ。そう考えたい」

「……で?」

「向こうは俺達が王家の秘宝を見つけるまで手を出してこない。見つけた後に、いかに()()()()()に秘宝を早く壊すかが勝負だ。……結局、さっきラインハルトが言ってた内容と同じだよ」

「……惑わされずに?」

「そうだ」


 それだけ言って、ニコラスはアンジェリーナに意味ありげに目線を送った後、口を噤んだ。ラインハルト第二王子は何かに気がついたのか、「……そうか」と神妙な顔をする。

 アンジェリーナは意図を捉えかねて、首をコテンと傾げたが、男達は顔を赤くして目を逸らすだけで、アンジェリーナの疑問を解消するつもりはないようだった。仕方がないので、アンジェリーナはニコラスに別の質問をした。


「秘宝を壊した後はどうするんですの?」


「むしろそっちは心配いらないな」

「そうだな、その先は問題ない」

「そうですね、そこは全く問題ないです」


「――やっぱりあなた達、本当は仲が良いですわよね!?」


 三人に一斉に返事をされて、アンジェリーナは裏切られた気持ちで一杯である。


 そうこうしている内に、オルトヴィーンが歩みを止めた。


 目の前には、広い空間が広がっていて、奥に重厚な扉が存在していた。




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