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侯爵令嬢アンジェリーナはループ♾を終わらせたい  作者: 三毛猫かりん
3章 3回目
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4 王家の秘宝と魔女の霊宝



 時が戻っている。



 ベッドの上、目が覚めたアンジェリーナは、さすがにそのことを疑い始めた。

 はっきりと認識した訳ではない。

 しかし、2回連続での時戻りの夢。

 夢と断じるには、あまりにも現実感が強かった。


 そして、ようやく対策を練り始めたアンジェリーナではあったが、即、問題にぶつかった。

 彼女の魔法の知識はさほど多くない。

 なので、一体何をどうすればいいのか、さっぱり分からなかったのだ。


(本当に時戻りをしているとしたら、原因はきっと魔法か魔術よね。ええと、純粋に魔力だけを使っているのが魔法で、生贄や依代みたいな魔力以外の要素を利用するのが魔術だったかしら……)


 魔法や魔術の知識を必要とするのは、兵士や護衛志望の者、あとは研究者や魔道具開発者くらいだ。そしてアンジェリーナは、そのどれにも当たらない。貴族は領地を経営し、政治や経済を回すのが仕事であって、魔法による攻防や魔道具の開発は専門外なのだ。


 だから、この国で一番大きな学園であるプリムローズ学園では、魔法の授業は選択科目にある程度で、重視されたものではなかった。属性別検査くらいはするし、護身術も兼ねて基礎的な部分は学ぶが、あくまでも教養レベルの知識である。保健の授業で人体の基礎や緊急時の応急処置は学ぶけれども、医学について学ばないのと似たような扱いだ。

 隣国のセイントルキア学園では、魔法の授業が積極的に取り入れられているらしいと聞くので、もしかしたらあの留学生なら、アンジェリーナよりも魔法に詳しいかもしれない。


 けれども、こういった時に頼るべきは学生ではないだろう。

 魔法等について分からなければ、頼るべきは魔法使いか魔術師だ。


 アンジェリーナは、()()()見たばかりの魔法陣を思い浮かべる。


(魔法陣が浮かび上がったということは、少なくとも人の手によって組まれた魔法か魔術だわ……)


 この世界では、自然の力で魔法等の効果が発生することもある。

 しかし、仮に今回の時戻りが自然現象なのであれば、そこには魔力を具現化するための魔法陣は必要とされないのだ。

 魔法陣が存在している時点で、人の力が関与していることは確定である。


 けれども、だからといって、今回の現象が故意に行われたかどうかは分からない。


 大昔に誰かが設置した魔法陣が、なんらかの条件を満たすことによって、勝手に起動している可能性もあるのだ。


(あと、問題は、誰に相談するか……)


 今回の時戻りの魔法を、誰がどのような目的で設置したのか。

 仮に誰かが意図的に発動させたとして、それを行ったのは誰で、どのような目的で行ったのか。


 魔法の知識を持っている者の世間は狭い。

 下手にアンジェリーナが「誰か〜時戻りの魔法について知りませんか〜!」と騒いでしまうと、悪意を持った犯人にそのことが伝わる可能性もある。


 闇雲に情報を漏らすのは得策ではない。


 なので、アンジェリーナはそれとなく、家族との食事の時間で、父に話を振ってみることにした。


「お父様。お父様は、魔法にも詳しかったりしますの?」

「そうだなあ。父さんは侯爵領の領主だからな。実際に魔法を使うことはあまりないが、魔法で何かできるのか、ある程度学んではきているぞ。戦のときには何ができるのか理解した上で指示を出さねばならないからね」


 夕食のステーキを切り分けながら、機嫌よく答えてくれる父に、アンジェリーナは良し良しとほくそ笑む。


「では、お父様。お父様は、時戻りの魔法ってご存じですか?」

「うん? 時戻り?」


 きょとんとする父に、アンジェリーナはなんでもないふうを装いながら続ける。


「ええ。先日、主人公が時間を戻る小説を読んだばかりなのです。実際にそんなことができるのかしらって、気になってしまって」

「アンジーは物語が大好きですものね。学園の勉強に王子妃教育と、読まなければならない書籍は山ほどあるのに、まだ書籍を読むだなんて凄いわ」


(そんな小説、読んでないんだけどね! お母様、ごめんなさい!)


 母の褒め言葉に良心が痛みつつも、アンジェリーナは父の言葉を待つ。


「ははは、アンジーは可愛いなあ。時戻りの魔法があるなんて信じているのかい」

「……ということは、無理なんですの?」

「魔法はなんでもできるものではないんだよ。力学に近いな。物を押せば、押されたものは移動する。魔力という力を魔法陣や呪文等で一定方向に押し出せば、指示どおりの効果をもって具現化する。――今のところ、時を戻すための理論は見つけ出されていないようだね」

「父様! それは、理論を見つけさえすれば、実現できるということでは?」


 13歳の弟の無邪気な発言に、20歳の兄が苦笑する。


「それはそうかもな。もしかしたら、王家の秘宝や魔女の霊宝なら、そういうのもあるかもな」

「秘宝に、霊宝」

「おや、アンジーも知らないのかい?」


 兄のからかうような発言を父が諌める。


「イアン。そのような戯言、知らずとも良い」

「こういった雑学が命を救うこともあると思いますがね」

「市井に流れるたわごとだ」

「お父様、お兄様。わたくし、聞きたいです」

「僕も僕も!」


 おねだりをするアンジェリーナと、弟のエリック。

 そんなアンジェリーナ達にそっぽを向く父とそれを横目でニヤニヤ見ている兄に、母が失笑しつつも答えてくれた。


「アンジー。市井ではね、王家や魔女は、一般には公開できないような効果を持つ魔術具を持っているのではないかというまことしやかな噂があるのよ」

「魔道具……」

「実際にあったとしても、王家はそれを公開しないでしょうし、魔女だって秘密にするんでしょうけれどね」


 クスクス笑う母に、アンジェリーナも笑いつつ、心の中で焦りを感じる。


(つまり、そんな都市伝説に頼らないとあり得ないような魔法だってこと? それって、どんな魔術師に聞いても対策なんて取れないんじゃ……)


 アンジェリーナは、砂を噛むような思いで夕食を食べきった。



 

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